2017-10

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Doll28話

こんにちは(或いはこんばんは)。
奥貫阿Qです。

この間の更新から間をおいて、28話を更新できました。
リヒトさんの心情云々のほか、何故だか健康面の話まで出てきてしまっておりますが(汗)

次の29話では、今回出せなかったミラちゃんや、あっくんが出てきます。
最終話まであと少し!



「Doll28」
(byキリ)

「…そんな馬鹿な話があるか!」
「あったんだよ。お前が生まれる以前に」

…うん。ミーナやアイ兄さんみたいな連中が生み出されるんだから、機械化する人間がいてもおかしくないだろう。
それで文明滅亡かぁ。
…って。
ちょっと待ってほしい。

「ミーナ、また訊きたいんだけど」
「何だ。さっきからチョイチョイ割って入って来て」
「気になるんだからしょうがないでしょうが。…ねえ、その人、生身だった体を機械化したってことでしょ?だったら、サイ…何とかって呼ばれるんじゃないの?うまく言えないけど、ロボットみたいな扱いにはならないんじゃ?」
「ああ、そのこと」

それもそうだなって顔をして、ミーナは付け加えた。

「キリが言ってるのは、『サイボーグ』のことだろ。サイボーグ化なら、体のどこかしらに生身の部分があるから」
「そう、それ」

そうそう、サイボーグ。SFものの漫画とかで見たわ。

「でもその人は、生身の部分は残さず、全部を機械化してしまったんだ。一応3Dプリンターで臓器から何から何までをコピーして、ナノマシンで代謝もできるようにしてたから、限りなく人間に近い機械ではあったけど」
「え…脳とかも?」
「そう」

一体、何を思ってそんなことをしたんだろう、その人。
何か尋常じゃない理由があったんだろうけど、ミーナの話だけ聞くと、何とも変な奴だなぁって感想しか浮かばない。

「その人、家族のために人の倍以上は働かなきゃいけないのに、無茶をして体を壊してしまったらしいんだ。だから自分ができうる最高の技術で、もう一度働けるようにしたかったらしい」
「ああ…成る程」

そりゃ理由が理由だもの。ベストを尽くそうとしたに違いない。
でも、その後の結末がこれじゃあ…。報われなかったんだな。

「そういう意味では、俺だって同じだ。妹を救うために、やむなく…」
「でも不完全なできだったんだろ。失敗したって思うなら、手を引け。今のままならともかく、無茶な改造でバグでも起きてみろ。泣くのは妹さんなんだぞ」
「うるさい!」

ミーナが話をしても、止まる気はないらしい。
拳を振り上げ、そのまま、

「あああああああ!」
「え?」

突っ込んできて、ミーナに振りかぶった。
当たり前だけど、戦い専門のつくりになってるらしいミーナには通じない。
受け止められてしまった。

「…何のまねだ。ふざけてるのか?」
「ふ、ふざけていない!」

リヒトはまた顔を真っ赤にして叫んだ。

「俺の持てる技術は全て見せつけた!俺のオリジナルは、これだけだ!」



「…本当なのか?」
「ああ!本当だとも!お前さっきの話してて、俺が肝心なことを知らないって、理解できただろ!このラボ見て、殆ど昔の技術のコピーだって、気付いただろ!」
「…それにしては、色々と弱いな」
「そうだよ!だってこれ以上のものは、俺には造れなかったんだから!」

顔を真っ赤にしたままリヒトは叫んでいた。
ラボ中にわんわんと声を響かせて、それで。

「…泣くことないだろ。もっと金を稼げば、いい設備くらい」
「金のあるなしじゃない!思いつかないんだ!どうすればもっといい設備になるのか!どうすればいい設備になって、過去の技術が復元できるのか!」
「…」
「あ!また馬鹿だって思ったろ!そうだよ!昔あった技術のちゃんとしたコピーすら作れない馬鹿だよ!俺は!今まで気付かなかったけど!」
「…」
「一部の知識を理解して、ちゃちな模造品造って、それすらできない奴らより差をつけたつもりでいた!何でもできるって、思ってた!でも違った!さっきの黒髪やら、お前やら、先人の技術は想像を絶していた!思っていた以上に性能が良過ぎたんだよ!こんなの理解して、俺に同じの造れってか!?無理だわ!今の人間よか知識がある機械に追いつくなんて!」
「…」
「…俺、もっと頭がよかったらいいのになぁ」
「…」
「家族一人救えない兄だなんて…無力だ」

そこまで言うと、リヒトは膝から崩れ落ちていった。
もう、私も割り込むつもりはない。
だって、そういう気持ちなら、私にも理解できるから。
今はもう形がない工芸品を、私のじいちゃんや師匠は、たやすく造っているように見えていた。でも、私が見てない…見てないと思ってるところで造った物を壊している。
むしろ、造って世に出すより、壊す頻度の方が、はるかに高かった。
「どう造っても、あの形にはらない」
「どうしたらあんなものが造れたのか、先人たちの頭の中が分からない」
そう言っては、悔しさで泣いていた。
リヒトはじいちゃん達であり、じいちゃん達はリヒトだった。
でも、リヒトは自分の無力さを知るのが、少し遅かった。
それだけのことで、こんな騒ぎになってしまった。

「そんなこと言ったら…。私だって無力だろ、リヒト」
「…は?」
ミーナの、あんまり相手の心を読んでない言葉に、リヒトの表情が無になった。
…言いたいことは、察しが付くけれど。

「この二十年。私は自分が人間だと思って、危険な生物やら生物兵器やら軍の内部やらとやりあってきた。でも、見ての通り人の悲しみやら怒りには鈍感で。無駄な怒りやら攻撃を食らっては、怪我してた」

…自覚、あったのか。鈍感だって。
いや、ミーナの場合天然や我の強さも入ってるから、余計にたちが悪いな。

「あんまり理解できないんだよ。人を恐怖に陥れる感情とかが。明らかに人を害する行為なら、その後の展開も読めるから、多少は自分の中に怒りや不快感を感じらるけれど。…でも、それも人と比べると随分と希薄だ。人と一緒に暮らしてきて、それが痛いほど分かった」

強さはあるけど、それ以外はポンコツだろ、と、ミーナは言う。

「…なあ、そんなに泣くなよ。理解できない分野なら誰にだってあるんだから。できないってことがわかっただけでも、良しとしろ」
「…でも俺、もっと頭良くなりたい…。妹を、健康な体にしてやりたい…」
「じゃあ理解できるまで努力しろ。どうにも理解が無理そうなら、方法を変えるってのも手だ。要は妹が健康な体になればいいんだろ?現在の医療を知った上でその医療を使ってやってみるとか」
「時間がないんだよ!」
「でもやるしかないだろう!腹くくれ!」

ミーナが一喝すると、リヒトは再び静かになった。
…ミーナの大声、久々に聞いた。耳が慣れない。痛い。

「…お前に足りないのは、多分、頭の良さじゃない。自分の頭の限界を超える、覚悟だな」
「…かくご」
「ああ。するのは一瞬。でも、するまでが長い、あの覚悟さ。それさえできれば、あとは四の五の言わず、行動するだけなんだけどなぁ」
「…」
「それじゃあダメなのか?何もできずに今のままでいるよりかは、多少は活路がありそうだが」
「…ミーナ、その人軍人じゃないんだからさ。軍医だったんだからさ。精神論とかそういうの、苦手そうだけど」

軍医とか以前に、「気合いれろ!」って考え方自体が苦手そうな人のような気もするけど。

「でも私、これ以上は何も言えないけど。二十年間生きてて、一番自分が強くなるうえで効果的だったんだけど」
「うーん…。そうかぁ」

もっとも、私がミーナと同じ立場でも、多分ミーナとおんなじことを言うだろう。
ユバナ軍に入った時然り、弟子を救おうとした時然り。
覚悟以外、特に何もしてない。努力はそこそこしたつもりだけど。

「…」
「リヒト、多分今お前、必死になり過ぎて疲れてるんだよ。少し休め。健康的に寝て食って体動かしたら、案外ポジティブになれるもんだ。主に自律神経の改善で」
「そういうもんなの?」
「自律神経の乱れを馬鹿にするな。冷え症やら貧血やらイライラやら、乱したら最後、本当にひどいんだからな」

キリだって、他人事じゃない生活送ってるだろ。
そう言われ、ちょっとギクってなった。多分、顔にも思いっきり出ていることだろう。

「話はずれたが…。要は、無茶をして、無理をして、そこから出発する覚悟決めろってこと。妹さんなおすのに自分が参ってちゃ、元も子もないだろ」
「…うん」

おそらく、色々言われ過ぎて、くたびれてしまったに違いない。
挙句の果てには自律神経の話である。
流石はアイ兄さんの助手っぽいことをやってきた奴というか…。いきなり健康についての話になるとは。
このくたびれたマッドサイエンティストと生活習慣の改善がどう結びつくのか、あまり想像できない話だわ。


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大原くん 「サッカー部員とマネージャー」後編

こんにちは(或いはこんばんわ)。
奥貫阿Qです。

予告通り、「サッカー部員とマネージャー」の後編を更新できました。
元のよりページ数が減った分、すっきりとまとまったような気がします。
ただ、書けば書くほど、大原くんが人間離れしていってる気もしますが(汗)

よかったら、先週のものと合わせてお楽しみください。
次は「Doll」シリーズの更新となります。
長い続き物は…と思った場合ば、夏中に短編を上げる予定ですので、そちらをお待ちください( ̄^ ̄)ゞ

追記
祭りで撮った神輿の写真を、ツイッターに上げました。
ブログと同じ名前でやってるので、よかったら見てみてください。



【サッカー部員とマネージャー】 後編

車とユニフォームを確認した途端、大原先生の目が光った。
比喩や太陽の光の反射とかじゃなく、マジで光った。
「まああああてえええええ!」
それと同時に、スピードもアップした。
だんだん暖かい日も増えてきたからだろうか、バイクやスポーツ仕様の車で走る人を多く見かけるようになったけど、そんな人達もごぼう抜きにして、走る走る。
…これ、僕の背骨が耐えられるスピードなんだろうか。
「追いついた!」
だが、スポーツカーも抜き去るスピードなのである。スポーツカーの前を走るただの軽など、追いつけないスピードではなかった。
流石に、物凄いスピードで走ってくるあからさま女装をした男に、軽も気が付いたらしい。ようやく逃げの姿勢に入ったが。
「それっ!」
フォンッという、まるでUFOの発進音みたいな音を出して、大原先生が一気に距離を詰めた。50メートルくらいはまだ距離があっただろうに、一瞬で移動した。
それにしても、案外遠くまで移動したようである。道の両側には木が生い茂り、寂しげな場所まで来た。ちょうど、学区ギリギリの僕の家の近くの神社の辺りだろうか。
「エイサ!」
こんなとこで事故起こしたら、酷けりゃそのまま火事にでもなりそうだ。
火事にまであるなんて、めったになさそうだけど。
「エイサ!」
後ろから追突された車が宙を舞ったり、ガソリンが漏れだしたりしない限り。
「エエイサアアアアアア!」
そうなったら嫌だなぁ。あの裏辺りに僕んちがあるんだ。木造だから早く逃げなきゃ。
…まあ、そんなこと滅多にないけど。
……滅多にないことが、今まさに目の前で起こったけど!!
「ワァアアアアアア!!」
ガッシャーーーン!!
 活字にすれば、そんな感じの音が、耳にワンワンと響く。
 聞き間違いでなければ、他にも、「メリメリッ」とか「バキバキッ」というような音も聞こえてきた。
 でも、何かな。どうも車が地面にぶつかったような音や、木が折れた音だけでなく、もっと違う音も入ってるような気がする。
 初めて聞く音だから、何の音かは分かんないけれど。嫌な予感だけはした。

「うわああああ!うちの屋根がぁ!」
僕の嫌な予感は、的中した。
大原先生が、追突するだけではなく、蹴り上げて、渾身のパンチで車体を跳ね上げてしまったため、軽は神社の境内を大きく飛び越えた。その挙句、僕の家まで飛んできてしまったのだ。
今その軽は、僕の家の屋根にまっすぐに突き刺さり、まるでお通夜のご飯の上に刺した箸みたいになってしまっている。
…あ。あの刺さってる辺り、丁度じいちゃんの部屋だな。
じいちゃん、叫んだっきり放心しちゃってるし、間違いない。
「ごめんね。まさかこんなとこに家があるだなんて…。えっと?」
「小野です」
「小野君、あ、小野さん」
「小野君でいいんですよ。男なんで」
「そっか…。ええと、もう、何て言ったらいいか。…取り敢えず、申し訳ないことをしたよ」
ごめん、と小さな声で謝り、頭を下げる大原先生。
その腕には、いつの間に取ってきたのか、部員全員分のユニフォームと、あの犯人。
今知ったけど、犯人パンツ一丁…いや、何も着てないっぽい。
それなのにこのユニフォームに埋もれてたとか。…あとで全力で洗濯し直さなければ。
「もういいですよ。それより、後ろに警察の人いますけど。怪訝そうな顔でこっち見てますよ」
何せ、妙な女装男と全裸男と、女子サッカー部員のユニフォーム一式(人数分)である。それに加えてこんな状況じゃあ、明らかにマズイ。色々と。
「やっべ!刑事さん、俺変質者捕まえただけですからね!?」
「僕んちも壊しましたからね」
「ユニフォームは部員から預かっただけです!」
「洗濯は進んでやってました」
「一応俺、女子サッカー部のコーチ兼マネージャーです!」
「部員に溶け込むために、女装したっぽいです」
小野君違うから!部員に歩み寄るためだから!
先生はそう叫ぶが、警察の人は聞く耳を持たない。
説得力ないし。何より僕が女子部員のユニフォームを着てることが、何より怪しまれたっぽいし。
「先生お元気で」
「小野君ーーー!!」
大原先生と変質者とユニフォームを積んだパトカーは、あっという間に警察署の方へ走り去ってしまった。
取り敢えずこれで、僕は明日部活に行かなくていい口実ができたし、大原先生は帰ってこなさそうだし、一石二鳥だ。
 
…と、思ってたのだが。
「大原でっす!」
何と、次の日学校へ行くと、大原先生も学校へ来ていた。今度はちゃんとスーツで。
「説明と、後保釈金払ったおかげで出られたんだよ!」
「はぁ」
出られた理由は、概ね後者のおかげだろう。
「流石に学校は辞めることになっちゃったけど!今日は荷造りしに来た!」
「はぁ…」
「これね、お別れに!気持ちばかり!」
「はぁ」
渡されたのは、封筒に入った紙だった。何だこれ、と思って見てみると。
「…小切手じゃん」
封筒には、「大原ロジスティクス」と書かれた社名と、大原某という、多分社長さんに当たる人の名前が書かれていた。
…大原先生の保釈金を払ってくれた人の名前だろうか。
これで、我が家を直せと?
「先生、」
尋ねようとしたら、大原先生はもうとっくに職員室の中へと戻ってしまっていた。
…多分、もう二度と会うことないんだろうなあ、きっと。

〈余談〉
「おお、帰ってきたか」
「あ、じいちゃん」
今に入ると、珍しくじいちゃんがいた。部屋が壊されたため、今でくつろいでいたらしい。
「今な、テレビでニュースがあってな、アメリカの大原何とかって会社の社長さんが出てたぞ」
「へえ~、有名な会社なの?」
「ここ最近有名になったなぁ。社長さんが若いってことで有名なんだ」
「へー」
偶然の一致である。まさか、あの小切手の社長さんと、同じ名前の会社だとは。
「しかもな、」
「うん」
「社長さんが、随分と高身長でなぁ。二メートルくらいはあるらしい」
「…へぇ~」
大原何とかっていう、アメリカの有名企業。大原ロジスティクスの大原某社長。二メートル近い身長の大原先生。
 …うん。何かこれじゃあ、大原先生がその社長さんみたいじゃん。有名企業なら、金だっていっぱいあるだろうし。
でもそれなら、何で日本の学校の先生に?
「そういえばその社長さん、会社売るかもって話もしてたよ。日本に親御さんがいるから、転職できれば、と」
「…」
…いや、まさか、なぁ?

(完)

大原くん×2話 (その2)

【サッカー部員とマネージャー】 前編

○×市立A中学。
この中学には、他の中学ではあまり見かけない部活、「女子サッカー部」がある。
生徒数も確保でき、ジュニアのサッカーチームがあるこの市だからこそ誕生した部活といえるだろう。
 けれども、いくら人数が確保できる部活といえど、人が足りなくなることはあるわけで。
 ましてや、インフルエンザが大流行し、学級閉鎖になるクラスが出てきた以上、練習するための人数すら激減するわけで。
 要は、部活として活動していく以上、最低限の練習だけでもできそうなメンツを揃える必要があるってのが、ここ最近、一番の悩みの種だったらしい。
 「それにしても、なりふり構わな過ぎじゃねえ?」
 先程与えられたユニフォームに目を落とし、「僕」は盛大にため息をついた。

 「ちょっとあんた、面貸してよ」
 遡ること、約30分前。下校のための支度をしてたら、女子サッカー部の部長(注:大女)に呼び止められた。
 「…何?まさか、僕のデスマスクでも作るっての?」
 「あんたがお望みなら、それでもいいけどさぁ」
 チビな僕に対して、態度も図体も大柄(おおへい)なこの女は、やたら偉そうに、自分の部活のことを話し始めた。
 それが、部活のメンツが足りないって話。
 「ふーん。そんで?」
 「あんた、鈍いね」
 あんたチビだし細いし、ウチの部員の練習相手になってよ。ユニフォーム貸すから。
 「………は?」
その間、たっぷり10秒間。地球上の時間が止まったんじゃないかってくらい、全てが静止していたように感じた。
 「はいこれ。あんたのユニフォーム。40分後にはグランドに来ててね」
 じゃ、と、一方的に言うこと言って、立ち去っていく大女。そして、僕の手の中には押し付けられたユニフォーム。
 え、信じらんない。着るの?これ着るの?
 コスモスみてぇなピンク色なんだけど、これ。
 「ええええ…」
 のっしのっしと肩で風を切る大女の後ろ姿に、何も返せる言葉がなかった。
 いや、返せるだけの心的余裕がなかった、というべきか。
 とにかく、僕は一瞬のすきに畳み掛けられて、強制的に女子サッカー部の練習相手に駆り出されることになってしまったのである。

 「うわぁ、ユニフォーム余裕あり過ぎ」
 とにかく、受けちまったもんは受けちまったもんである。
 借りたもんを、取り敢えず着た。
 んで、着たらめっちゃでかかった。サイズが。
 「動きにくそうだなぁ」
 今更言うが、僕は女じゃない。男だ。なのに、このサイズの違いとは何なのか。
 「男女差」って言葉の意味を、いっぺん辞書で調べてみたくなる程の違いを感じる。
 「悲しくなるわぁ…」
 着替えた場所が、無人の教室でよかったと、本気で思う。
 だが、有人の教室で着替えることになったとしても、このサイズである。「実はこれ、男物だから」と言い張っても、全然それで通せそうだけれど。
 「あーあ、やなこと引き受けてしまった気がする…」
 今更だけれども。
 でも、僕が断ったとしても、きっと僕みたく気が弱そうで、見た目も弱そうな奴にお声がかかるのは間違いない。
 遅かれ早かれ、こういう事態になるのは避けられないことだろう。
 そんでもって、本当の本当に弱けりゃ、女子のユニフォームにあーだこーだ言われ、部員にボコにされて仕舞いだ。
 「…」
 うん。結局僕が防波堤になるより、他はない気がする。
 自意識過剰かもしれないけど、多分そうだ。
 「…まぁ、普通にスポーツする機会だと思えば、いいか」
 要は、堂々としていりゃいい話なのである。
 服は服だ。小説とかなんて、いちいち「○○は××を着ている~」なんて書いてなきゃ服を着てるかどうかすら分からないのに、登場人物はみんな堂々としてるじゃないか。
 僕だって堂々としてりゃいいんだ。恥ずかしいけど。
 僕以外、今の女子サッカー部にいるのは、全員女だから、さらし者になること以外考えられないけど。
 そんな重い気持ちを胸に、僕はグラウンドへ急いだ。

 「…」
 「…」
 「…」
 やや遅れてグラウンドに到着すると、女子サッカー部員が全員固まっていた。しかも、視線は全員一直線。揃って同じものを見ていた。
 一体何だ?と思って、彼女らの視線をたどると。
 「…というわけで、みなさん初めまして!お…私が、この部の臨時的コーチ兼マネージャーでっす!どうぞよろしく!」
 でけぇ。声だけじゃなくて、図体も。
 そこにいたのは、一応は女のナリをした……こう…「何か」だ。
 がっつりメイクをしてるものの、声は男だし、身長は2メートル近く(或いは2メートル越え?)あるし、何より、「お…」と言いかけた言葉が気になる。
 多分、十中八九「俺」だ。「俺」って言おうとしたんだ、コイツ。
 男以外の何者でもねーじゃねーか、コイツ。
 ご丁寧にスカートやらツインテールやらで武装してるが、九分九厘男じゃねーか、間違いなく。
 「ややっ!そこにいるのは新人さんだね!怖がらなくてもいいよー!先輩たちみんな優しいから!」
 僕を見つけた「何か」が「ねっ!」と部員共に呼びかけると、みんなコクコクと無言で首を縦に振った。
 あーあ、可哀想に…みんな怯えてるよ。大女まで。
 というか、この「何か」がデカ過ぎて、大女がただの小娘に見えてきたわ。
 「おいでおいで!」
 「…へーい」
 「返事は『ハイ』だよっ!ね!みんな!」
 「「「ハイッ!!」」」
 一糸乱れぬ、素晴らしいお返事が聞こえた。
 流石体育会系。お行儀のいいことで。
 「早速練習するよー!…と言いたいところだけど、残念!今日は5名インフルで休んだ子がいるから、部活はお休み!みんな気を付けて帰ってね!」
 「「「ハイッ!」」」
 「へーい」
 「返事は『ハイ』だよー!」
 御機嫌よう!と「何か」が最後を締めると、大女以下部員全員が「御機嫌よう!!」と返事を返した。
 鸚鵡(おうむ)かよ。
 「あ、新人さんも!来てくれたとこ悪いけど、今日は解散だよ!」
 「へーい」
 「『ハイ』だよっ!」
「…はーい」
 取り敢えず、もう帰っても大丈夫らしかった。
 よかった。これでダボついたユニフォームから解放される。
 「…あ、いけね!ちょっと待って!新人さん!」
 「へ?」

 「…帰っていいって言ってたのに…」
 「ごめんねー!」
 「『ごめんなさい』でしょ」
 「ごめんなさいねー!」
 自称コーチ兼マネージャーに呼び止められてすぐ、僕は部室に引っ立てられた。
 訊いてみたら、部員の洗濯物が溜まっているから、干すのを手伝ってほしいとのことだった。
「インフルで他のマネージャーがダウンしてたり、練習試合があったりで、全然洗う余裕がなかったんだって!」
「はぁ」
だからと言って、何故野郎二人に洗わせるのか。大女はもちろん、他の部員の考えることも大概だ。
「ホントはね、明日洗うから大丈夫って言われてたんだけど!明後日って雨じゃん!?今日しか洗うタイミングがなさげだったから、無理やり引きうけちゃった!」
「はぁ」
無理やり引き受けたんかい。
女子共嫌な顔しなかったのか?
「すっげえ顔しかめられたけど!」
「…」
「そんなに遠慮しなくてもいいよって言ったら、諦めてくれた!」
「…」
「マネージャーらしい仕事があってよかったー!」
…いや。いやいやいや。
「…大の男が、女子中学生のユニフォーム洗うってのは、どうかと思いますけど」
「え!?相手がどんなにゴツくても!?」
「ダメです」
「お…私が女の格好して、歩み寄っても!?」
「寄りきれてないです」
「マジかー!!」
やっちゃったー!と、ひときわでかい声で叫ぶ男(確定)に、もはや入れられそうなフォローはない。
てゆうか、歩み寄ったつもりかよ。
「どうしよ!?お…私、首が飛ぶかな!?」
「部室の裏に干しして見つからないようにすれば、薄皮一枚は繋がりますよ」
「それでもほぼ切られてる!!」
ヤバい!と、またデカい声で叫ぶ男だが、やってしまったものは仕方がない。
二度とやらないように注意してもらうしかない。
「ほら、もう干し終わったので、さっさと退散しましょう。ええと…」
「大原でっす!」
「大原先生。今見つかったら割とマジでまずいですよ。ほら、あのポスター見てください」
「へ!?」
僕が指差したのは、フェンス越しに見える掲示板だ。
「最近、女子中学生の洗濯物が盗まれる事件が多発してるそうです」
因みに、ポスターに書かれている犯人の特徴は、ある一点が、大原先生にピタリと当てはまる。
【身長二メートル前後の男】
「…俺、積んだかな…」
今日聞いた中で一番小さな声で、大原先生が呟いた。
「今すぐ職員室に戻れば大丈夫なんじゃないですか?」
「そうか。ならよかった…」
そこまで言った時、大原先生が顔を引きつらせて、固まった。
何だ急に、と思った時。ピンクと肌色のツートンカラーの風が、僕らの目の前を横切った。
おかしいな、あの風。すね毛が生えているように見えたけど。
「…た」
「ん?」
「大変だッ!!」
大原先生はそう言うと、フェンスをぶち抜いて走り出した。
先生の進行方向には僕がいたため、僕も大原先生にへばりつく形で移動する。否、させられる。
背骨がいてぇ、とか、あ、車追い抜いた、とか思うのも束の間。どんどん景色は後ろへ後ろへ流れ、見えなくなる。
でも、暫く移動していくと、ようやく目が速さに追いついた。
風圧に耐えながら目を凝らしてみると、大原先生の進む方向に、何かがいるのが分かった。
「…うん?」
車だ。それも、市内では当たり前に見かける軽自動車。
その中に、ピンク色のユニフォームに埋もれた、多分大原先生と同じくらいの背の高さの人が乗っていた。

「大原くん」×2話 (その1)

こんにちは(或いはこんばんは)。
奥貫阿Qです。

久々に一週間後の更新ができて嬉しいです。
久々すぎて、新鮮さすら感じてます(汗)

予告通り、「大原くん」の新作をアップしました。
一話目は友人に捧げたものに書き直しを加えたもの。もう一話目は、捧げたものの別展開バージョンです。
(別展開バージョンは、今回は前編のみのアップなので、後半はまた来週に上げる予定です)
お楽しみいただければ幸いですm(₋ ₋)m



【サッカー部員とマネージャー】

○×市立A中学。
この中学には、他の中学ではあまり見かけない部活、「女子サッカー部」がある。
生徒数も確保でき、ジュニアのサッカーチームがあるこの市だからこそ誕生した部活といえるだろう。
 けれども、いくら人数が確保できる部活といえど、人が足りなくなることはあるわけで。
 ましてや、インフルエンザが大流行し、学級閉鎖になるクラスが出てきた以上、練習するための人数すら激減するわけで。
 要は、部活として活動していく以上、最低限の練習だけでもできそうなメンツを揃える必要があるってのが、ここ最近、一番の悩みの種だったらしい。
 「それにしても、なりふり構わな過ぎじゃねえ?」
 先程与えられたユニフォームに目を落とし、「僕」は盛大にため息をついた。

 「ちょっとあんた、面貸してよ」
 遡ること、約30分前。下校のための支度をしてたら、女子サッカー部の部長(注:大女)に呼び止められた。
 「…何?まさか、僕のデスマスクでも作るっての?」
 「あんたがお望みなら、それでもいいけどさぁ」
 チビな僕に対して、態度も図体も大柄(おおへい)なこの女は、やたら偉そうに、自分の部活のことを話し始めた。
 それが、部活のメンツが足りないって話。
 「ふーん。そんで?」
 「あんた、鈍いね」
 あんたチビだし細いし、ウチの部員の練習相手になってよ。ユニフォーム貸すから。
 「………は?」
その間、たっぷり10秒間。地球上の時間が止まったんじゃないかってくらい、全てが静止していたように感じた。
 「はいこれ。あんたのユニフォーム。40分後にはグランドに来ててね」
 じゃ、と、一方的に言うこと言って、立ち去っていく大女。そして、僕の手の中には押し付けられたユニフォーム。
 え、信じらんない。着るの?これ着るの?
 コスモスみてぇなピンク色なんだけど、これ。
 「ええええ…」
 のっしのっしと肩で風を切る大女の後ろ姿に、何も返せる言葉がなかった。
 いや、返せるだけの心的余裕がなかった、というべきか。
 とにかく、僕は一瞬のすきに畳み掛けられて、強制的に女子サッカー部の練習相手に駆り出されることになってしまったのである。

 「うわぁ、ユニフォーム余裕あり過ぎ」
 とにかく、受けちまったもんは受けちまったもんである。
 借りたもんを、取り敢えず着た。
 んで、着たらめっちゃでかかった。サイズが。
 「動きにくそうだなぁ」
 今更言うが、僕は女じゃない。男だ。なのに、このサイズの違いとは何なのか。
 「男女差」って言葉の意味を、いっぺん辞書で調べてみたくなる程の違いを感じる。
 「悲しくなるわぁ…」
 着替えた場所が、無人の教室でよかったと、本気で思う。
 だが、有人の教室で着替えることになったとしても、このサイズである。「実はこれ、男物だから」と言い張っても、全然それで通せそうだけれど。
 「あーあ、やなこと引き受けてしまった気がする…」
 今更だけれども。
 でも、僕が断ったとしても、きっと僕みたく気が弱そうで、見た目も弱そうな奴にお声がかかるのは間違いない。
 遅かれ早かれ、こういう事態になるのは避けられないことだろう。
 そんでもって、本当の本当に弱けりゃ、女子のユニフォームにあーだこーだ言われ、部員にボコにされて仕舞いだ。
 「…」
 うん。結局僕が防波堤になるより、他はない気がする。
 自意識過剰かもしれないけど、多分そうだ。
 「…まぁ、普通にスポーツする機会だと思えば、いいか」
 要は、堂々としていりゃいい話なのである。
 服は服だ。小説とかなんて、いちいち「○○は××を着ている~」なんて書いてなきゃ服を着てるかどうかすら分からないのに、登場人物はみんな堂々としてるじゃないか。
 僕だって堂々としてりゃいいんだ。恥ずかしいけど。
 僕以外、今の女子サッカー部にいるのは、全員女だから、さらし者になること以外考えられないけど。
 そんな重い気持ちを胸に、僕はグラウンドへ急いだ。

 「…」
 「…」
 「…」
 やや遅れてグラウンドに到着すると、女子サッカー部員が全員固まっていた。しかも、視線は全員一直線。揃って同じものを見ていた。
 一体何だ?と思って、彼女らの視線をたどると。
 「…というわけで、みなさん初めまして!お…私が、この部の臨時的コーチ兼マネージャーでっす!どうぞよろしく!」
 でけぇ。声だけじゃなくて、図体も。
 そこにいたのは、一応は女のナリをした……こう…「何か」だ。
 がっつりメイクをしてるものの、声は男だし、身長は2メートル近く(或いは2メートル越え?)あるし、何より、「お…」と言いかけた言葉が気になる。
 多分、十中八九「俺」だ。「俺」って言おうとしたんだ、コイツ。
 男以外の何者でもねーじゃねーか、コイツ。
 ご丁寧にスカートやらツインテールやらで武装してるが、九分九厘男じゃねーか、間違いなく。
 「ややっ!そこにいるのは新人さんだね!怖がらなくてもいいよー!先輩たちみんな優しいから!」
 僕を見つけた「何か」が「ねっ!」と部員共に呼びかけると、みんなコクコクと無言で首を縦に振った。
 あーあ、可哀想に…みんな怯えてるよ。大女まで。
 というか、この「何か」がデカ過ぎて、大女がただの小娘に見えてきたわ。
 「おいでおいで!」
 「…へーい」
 「返事は『ハイ』だよっ!ね!みんな!」
 「「「ハイッ!!」」」
 一糸乱れぬ、素晴らしいお返事が聞こえた。
 流石体育会系。お行儀のいいことで。
 「早速練習するよー!…と言いたいところだけど、残念!今日は5名インフルで休んだ子がいるから、部活はお休み!みんな気を付けて帰ってね!」
 「「「ハイッ!」」」
 「へーい」
 「返事は『ハイ』だよー!あ、洗うもんとかあったら出してから帰るんだよ!」
 御機嫌よう!と「何か」が最後を締めると、大女以下部員全員が「御機嫌よう!!」と返事を返した。
 鸚鵡(おうむ)かよ。
 「あ、新人さんも!来てくれたとこ悪いけど、今日は解散だよ!」
 「へーい」
 「『ハイ』だよっ!」
「…はーい」
 取り敢えず、もう帰っても大丈夫らしかった。
 よかった。これでダボついたユニフォームから解放される。
 「…あ、いけね!ちょっと待って!新人さん!」
 「へ?」

 「…帰っていいって言ってたのに…」
 「ごめんねー!」
 「『ごめんなさい』でしょ。おかげでまだユニフォーム脱げねーし」
 「ごめんなさいねー!」
 自称コーチ兼マネージャーに呼び止められてすぐ、僕は部室に引っ立てられた。
 訊いてみたら、たかが練習相手とはいえど、僕の扱いは「仮入部」になるらしい。
 だから一応、入部届を記入して欲しかったのだとか。
 「あー…。コーチの印がいるっぽいですけど、印あります?」
 「今日はないねー!何せ急に仮入部の話が来たから!」
 後で部長は説教だね!と、やたらデカい声で言うこの男(多分)。
 ああ、部長。余計なことしたばっかりに。
 「てゆーか、いい社会人が認印持ってないとか…」
 「持ってない日もあるってことだよ!大人はそんなに万能じゃない!」
 「はぁ…」
 「それに、お…私、印じゃなくてサインのが主な方だから!」
 だからサインじゃダメ?と、ややトーンを落として訊かれたが、僕が良くても校長とかは良く思わないんじゃないかなぁ、と、正直思った。
 「まぁ…、取り敢えずサイン書いて、ダメだったら上に二本線引いて、印押し直したらどうです?」
 「いいね!そうすっかー!」
 グッドアイデアー!と言いながら、さらさらっと名前を書き始めた。
 すげ。英語だ。筆記体だ。
 「ええと…大原、さん?大原先生?」
 「どちらでもお好きに!てゆーか、何でお、私の名を!?」
 「今書いたじゃないですか」
 「ああ!なるほど!ちなみに、かくいう君は『小野』さん…『小野』ちゃん!?」
 「いいえ。『小野くん』です。残念でした」
 「何で男子が女子の部に!?」
 「成り行きで」
 「成り行きでそうなることもあるんだねー!」
 未だに世間は分からん!
 そう叫ぶと、サイン以降の必要事項らしきものも記入していき、「大原先生」は入部届をクリアファイルに入れた。
 「とりま、これ後で出してみるから!ダメだったらごめんね!」
 「いえ。全然平気です」
 「そっかー!」
 ますます世間が分からん!!と、叫ぶ大原先生を半分くらい無視し、僕は帰り支度を始めた。幸い、今日は洗い物とかの雑用は無さげだし、新人がこれ以上居座る用もないだろう。
 「んじゃ、帰ります。また明日」
 「ん!御機嫌よう!」
 「ごきげんよー」
 取り敢えず、アレだ。よくは分からないけど、悪い人ではないような感じ。
 この人がいる間は、平穏に部活動に参加できるっぽかった。
 やりたくねーけど。

 …と、重いながら教室に戻って、反省する。
 「…しくった…」
 あの大女め。僕をボコれなかった腹いせに、学ラン一式を奪うとは。
 しかもその学ランを、国旗掲揚のポールに掲揚するとは。
 僕の学ランは国旗の代用品ってか。これただの量産型の桜ボタンだけど?掲揚するほど目立つもんじゃねーけど?
 「てゆーか、取れねーし…」
 いや。取れなくするのが目的なんだろうけど。どうやったんだよ。ポールの上の方に学ランの袖とズボンの裾をかた結びするだなんて。
 「これで帰れってか~…」
 全体がコスモスっぽいピンク。ズボンは何かキュロットスカートっぽい、これで。
 練習着って話だけど、こんな、文字通り女々しい恰好じゃ帰れないかもしれない。
 「いや、帰るけどさ…」
  うちの中学は、登下校は必ず制服という、めんどくさい決まりがある。
 だから、制服を奪われた今、正規ルート(正門)からは帰れない。
 家からも遠くなってしまうが、裏門か、もしくは塀を飛び越えて帰るより他はない。
 「通学鞄も、おニューにされてるし…」
 正確には、部活用の鞄になるやつだけど。正規の通学鞄は無事だったが、部活用の鞄とかに使うもう一つの鞄。それが、文化系の部活、及び帰宅部が使用する地味なものじゃなく、体育会系の部活に入る連中が好んで使う、派手なエナメルバッグに代わっていた。
 しかも女子サッカー部のイメージカラー(って、今日悟った)の、コスモスピンクのものを用意するとは、中々天晴である。
 「どうせ、ここまで派手にやれば、明日には学ランも戻るだろ。ならもう帰るっきゃないな…」
 体育会系の部員は遅くまで活動するが、あまりに遅くなり過ぎると、流石にお咎めを食らう。
 無事に帰ってくる予定の学ランのことをいちいち説明する羽目になるし、それを除いたって、今日は大原先生のことでドッと疲れが出たし。いい加減もう、帰って寝てしまいたかった。
 「…帰ろ」
 空しく掲げられた学ランが、パタパタとたなびき始めたところを見ると、どうも風が吹いてきたらしかった。
 雲行きも怪しいし、早く帰らなければ、日没後くらいには降り出してきそうだった。

 「あ」
 「お!」
 …おいおい。勘弁してくれ。
 「ややっ!また会ったね!」
 「…また会っちゃいましたねえ」
 中学を出てしばらく経った頃、近所のスーパーで買い出しをし、出てきたところでまた、大原先生に出会ってしまった。
 「これって運命?」
 「違います」
 たとえ運命だとしたら、人はそれを「悲劇」と呼ぶ。
 「買い出しかい!?」
 「ええ。ちょっと夕飯の材料を」
 「そっか!てっきり夕方の続きで、まだ部員の誰かにちょっかいかけられているのかと!」
 「あ、お気づきでしたか」
 中学から比較的近い、このスーパー。我が家の近辺には買い出しができるところがないため、学校帰りにはよくここを利用させてもらってる。
 自転車通学が許可されているからこそできる、便利な場所だ。
 逆をいえば、このスーパーは我が家からかなり離れたところにあるため、いったん家に帰ってからまたここに、という真似はしない。
 よって、いつもは学ラン、今日にいたってはあのユニフォームで、夕方の特売セールに参戦した。大原先生が、「ちょっかい」の続きだと思ってしまっても、仕方がない。
 「気付くよー!どう考えたって、男子が女子のユニフォームで女子の部活にって珍しいもの!」
 「はぁ」
 「しかも、めっちゃ不服そうな顔してたし!しょっぱなから!」
 「はぁ…」
てゆうか、最初に僕を見たとき気付いてたんなら、何か言って欲しかった。
「ここのスーパーは常連かい!?」
「ええ。お客ともほぼ顔なじみになってきてます。おかげで、このカッコで特売の棚に突っ込んだら、驚いて何人か避けてくれましたよ」
「そっかー!俺…じゃない、私はここに来るの三回目だけど、もう店員に顔覚えられたよ!今日の特売セールに突っ込んだら、十戒みたいに人の波が割れた!」
そりゃそうだろうな、と思う。何せ、二メートル前後のヤツが、あからさまな女装ルックのまんま、突進してくるのだ。この片田舎じゃ、レア中のレアなケースだろう。
しかも、特売の品は限られているから、自ずと必死な形相になる。そんな顔した変なのが突進してくるのだ。怖くて体が勝手に避けても、何も不思議ではない。
「引っ越してきたばかりだから、みんな俺…私に優しいのかも!ここの人達って、気がいいね!」
「ええ。そう思ってた方が幸せかもしれないですね」
しかも、しかも、だ。とうとう自分のことを「俺」って言い出した。「私」と言い直してはいるが、これは、間違いなく男と見ていいだろう。
何で女装しているのかは知らないけど。
「もう帰ってもいいですか?」
「いいよー!俺…私にお気遣いなく!!」
御機嫌よう!と手をブンブン振る男(ほぼ確定)に軽く会釈をして、僕はその場を去った。
だって、いよいよ空模様が怪しくなってきたうえに、さっきからめちゃくちゃ視線が刺さる。
そりゃそうだよな。女装×2って、このへんじゃ絶対に見かけないし。うち一名は、こう…何とも言い難いし。見ちゃうよな。声は絶対かけないけど。
「ママ!巨人だよ!『ジャックと豆の木』!」
「見ちゃいけません!!」
…訂正。声を上げるくらいの猛者はいたらしい。大原先生が調子に乗って、「そうだよー!人間を食いに降りてきたんだぞー!」と叫ぶなり、泣き出してしまうような猛者だけど。

…『ジャックと豆の木』というより、『進撃の○人』の巨人みたいな男(多分)と分かれて、暫くチャリをこいで、こいで、こいで、こぐこと数十分。何とか雨が降り出す前に家の近くまで来れた。
「あー…。今日は洗濯物取り込んで、畳んで、晩飯作って、あとは洗濯して寝るだけかー」
今日は宿題が出ていない。そして、家には誰もいない。
比較的暇な日である。
「我ながら、薄味な毎日だこと…」
逆に濃口な日といえば、家に僕含む家人全員がいて、そこそこ宿題があって、家人の誰かの誕生日があったりすることだったりする。
他の同世代の連中と比べると、やっぱどうにも薄味な日々だ。
今はまだ中学生だからいいが、これで、高校生になって、社会人になって、成人して…と、時を重ねた自分を想像すると、ちょっとだけ怖くなる。
もしかして、この先ずっと、今の日々のコピペみたいなことになってるんじゃないかと。
悪くはないけど、それじゃ気付いたら爺さんになってましたーってことになりそうな気がする。
というか、きっとそうなる。
変化がなさすぎるってのは、一生僕は今のまま、チビで弱くて細いまま変わらないってことのようで、うっすらとした怖さがあるんだ。
「…でも、逆に僕に変化があるとしたら、一体何なんだろう」
自慢じゃないが、僕は能動的な人間じゃあ、断じてない。
だからこそ薄味な毎日でも生きてこれたわけだけど。
そんな僕が変わるとしたら、よっほどの大事件に巻き込まれることのような気がする。
「大事件…」
そんな馬鹿な。そんなことが、起きるわけがない。
ここは平和で静かな、片田舎。たとえ凶悪犯のポスターが貼られてても、平気でスルーできる場所なのだ。
「起こる、わけがない…」
本気の、本気で、そう思う。
因みに、話は変わるが、僕は貧血の気がある。調子が悪かったり、気圧のちょっとした変化で、時々バッタリといく。
この辺は家もそこそこ多いし、今は世間様の帰宅時間帯にかかってきてるから、こんなことで倒れても、全然問題ない。
問題があるとすれば、降り出してきた雨と、干してある洗濯物に対し、何にもできないということだけで。
ぐるんぐるん回る視界と、傾く体に、誰かが手を添えてくれたとしても、そんなことは全然かまわなくていいのに、と思う。
今かまってもらいたいのは、洗濯物だ。あれは余計な手間になる。
「すんません…洗濯物…」
合鍵、鞄の中ですんで…。と、言ったところで、視界がブラックアウトしても、取り敢えず最優先でかまってもらいたい。洗濯物。
「おい。こいつ、洗濯物って言ったぞ」
「馬鹿だろ。スタンガンで気絶させた相手に頼むことかよ」
…こんな一言が聞こえてこなけりゃ、安心して気絶気できたのに…。

「…ああ、洗濯物…」
「おい馬鹿。泣くなよ。せめて自分のことで泣いてくれ」
「そりゃ泣きますよ。あんたがた知ってますか?乾燥機がついてない洗濯機で、冬のくそ寒い中分厚いデニム五着を洗濯しなきゃならない羽目になって、薄曇りの中三日連続干してようやく乾きかけたところに雨でオシャカにされた気持ちが…」
「う…」
「ちなみに、そのデニムには全部、ミートソースの汚れが付いてました。うっかりいつものように漂白剤を使ってしまい、色落ちさせてしました。見るも無残なのに、取り敢えず洗濯機にかけた僕の努力は、今水泡に帰しました。あんたがたが助けてくれなかったせいで…」
「いや…俺ら指名手配中の誘拐犯だし…」
「人に情けはかけられない連中でも、物くらいには情けがかけられるんじゃないかって、期待してたんですよ」
「…そうか」
「…悪かった」
いや、真面目に謝られても、何もかもがおせーわ。
この絶対許せねえ連中の顔と声を知ったのは、三分くらい前のことだ。ざあざあ降る雨の音で目が覚め、ばっと跳ね起きると、目の前にはこいつらの後頭部が見えた。
運転手と助手席の人物は、僕が起きたのに気付いたみたいで、ニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。
そしたら、自分が誘拐犯だというではないか。
「あんたら町内のポスターで知ってましたよ…」
ご本人に会えるとは、思ってもみなかったが。
てゆうか、この道路、高速じゃん。僕今どこに向かってんだ?
そう思い、何となく聞いてみたら。
「あー…、別に洗濯物干さなくても、全然平気なところ?」
「天国ですか?」
「…ある意味そこに、一番近いかな」
僕が散々ねちっこく洗濯物、洗濯物と言い過ぎたからか。目があった時のニヤニヤ笑いは今はなく、申し訳なさそうに…心の底から申し訳なさそうに、助手席の男が言った。
今知ったけど、真面目そうな顔や申し訳なさそうな顔って、モヒカン頭に死ぬほど似合わないんだな。
「…お前もう、ハッキリ言っちまえよ。生きて帰れねーんだぞって」
「いや…。たかが洗濯物よりも自分の命軽く見てるガキみたら、こう…申し訳なさすぎてな…」
何なら別のガキ攫えばよかったな…。と、情けなさそうに、運転手の男が言った。
こめかみに10個くらいピアスつけて、あげくの果てに人攫っといて、何言ってやがる。
何もかもおせーじゃねーか。顔に穴開けんのも、人攫うのも、取り返しがつかないことじゃん。
やってから後悔すんじゃねーよ。ピアスのことは後悔してないっぽいけど。
「…取り敢えず、この高速降りたら、船乗る準備するから…」
「海上で殺すんですか」
「…そんなところだな」
ああ…何で俺ら、よりによってこんなのを…。と、モヒカンとピアスは、揃ってデカい溜息をついた。
「…悪く思うなよ、小僧」
「はあ」
「俺達も生活が懸かってんだ」
「はあ」
「この世に誰かを無理な状況で救える奴なんざ、殆どいないんだ」
「知ってますけど…」
「覚悟決めてくれ」
「決めるも何も…。もう変えようがないですし…」
「そうだな。若気の至りで顔に十個のピアスつけて、モヒカン決めるために頭の両サイドを永久脱毛した俺らと、似てるな」
「これを元の状態に戻せなくて就活して、失敗して、今安月給でこんなことしてる俺らと同じな」
後悔してたのかよ、ピアス。それとモヒカンも…。
しかも永久脱毛って…じゃ、ない。
僕が今突っ込むべきなのは、そこじゃない。
「あの、」
最後に、これだけは言わせてほしかった。
「どこが、同じなんですか」
流石に、これだけは言わせてほしい。
「手術すれば、ピアスの痕は消えるかもしれない。モヒカンだって、植毛なりカツラなりすれば、元に戻るはずです。でも、僕の命は?こんなしょーもない恰好のまま殺される、僕の命は?情けなさすぎるうえに、なくしたら取り返しつかないでしょうが」
そう。今更だが、僕はまだあのコスモスピンクのユニフォームのままだ。この黒歴史決定事項を着たまま死ににいくことになったのに、たかがモヒカンやピアスと同レベルにされるのは、勘弁できない。
しかも。しかも、だ。
今日は大女に捕まってこんな恰好をするはめになったし、洗濯物は無残だし、さらに言えば、変な大男(おそらく)のインパクトが強すぎて、頭の中がめちゃくちゃだ。
そんな日を人生最後の日にさせられそうだっていうのに、たかが修正可能な黒歴史程度と比べられるなんざ!
「僕のこの格好は修正できねーんだぞ!服は脱げても、校内と町内のほぼ全員の網膜に焼き付いて、レーザー治療でも消せねーんだよおおおおおお!」
「うわっ!」
「馬鹿!暴れんなガキ!うわあっ!」
侮辱されたような気がする上に、こんな恰好じゃ死ねねえ!
薄口な僕のどこに、こんな激しい感情が眠ってたんだと思うほどの、凄まじい怒り。
今まで爆発しなかった分、今、この瞬間に大爆発を起こしたようだった。
「うあああああああ!」
もうこの車が事故ろうが、こいつらの安月給だとか、どうでもいい。とにかくこの格好をやめたかった。
でも、悲しいかな。今の僕は縛られ、身動きが取れない状態だ。手が使えないんじゃ、どうしようもできない。
が。
「諦めるもんかあああああ!」
手が使えねえなら、使わなきゃいいじゃない。
どっかの有名な文句に似た言葉が、頭をよぎった。
「ふんっ!」
「う、うわああああ!やりやがったあああ!」
「綱引きのロープくらいの太さがある縄があああああ!!」
なぜかピアスが説明口調だけど、そろそろ喋る時間を惜しむべきだ。
何せ、13年分の恨みつらみ、鬱憤が、今まさに大爆発を起こしかけている。
縄を押し上げて、一気に引きちぎるくらいの力が、全身にみなぎってきている状態なのだから。
「だーーーーッ!」
「「あああああああああああ!!」」
取り敢えず、百発ずつ面を殴ってやる。
そんな勢いで、僕が身を乗り出した時だった。
道路の300メートルくらい先の方で、ガソリンを積んだトラックが何台か横転していた。
ヤバいな。事故起きてるじゃん。こんなとこに突っ込んでったらひとたまりもねーんだろうな。
ぶつかりたくねーよ。
例えこの車がスリップ起こしかけてて、車体が傾きかけてても。
この車のホイール部分と道路がこすれて、火花が出かけてそうな音がし始めてても。
「…あ」
何かガソリンくせえ。
そう思ったとたん、目の前が真っ白に変わってしまっても。

「すっげえ!高速でこんな大事故が起きてる光景って、映画でしかみたことない!」
「大事故って…。被害者はたったの二名ですよ?」
「うん!道路が途中で真っ二つに分断されてるのに、奇跡的な結果だよね!」
その二名もICU送りになったけど!
そうやたらデカい声で叫ぶのは、大原先生だ。未だに女装中の。
もう雨は上がってるが、途中で雨に当たったのか、化け物みたいな顔になってしまってる。
「でも、お手柄だったね!あのICU送りの男二人、何…とまでは言えないけど、国際的な密輸をやってる組織の末端だったんだってさ!うまくいけば、何かしら情報が聞けるかもって!」
「そういう組織の末端なら、きっと使い捨ての捨て駒扱いされてたんじゃないですか?安月給って言ってたし…」
「あ!確かに!」
「それに『何…』ってはぐらかさなくてもいいですよ。わざわざ足が付きにくそうな場所で人を殺す密輸犯なんて、やることに察しが付くじゃないですか」
「何と!最近の中学生は怖いね!」
…いつの間にかこの場に、しかもあの女装姿のままで現れた男(恐らく)に、言われたくない。
「せめて『察しがいい』って言って欲しいです」
「んん!」
頷きはしてくれたけど、分かったのか分かっていないのか。
大原先生は、汗を拭き拭き、事故が起きた現場の方に向かい始めた。
「現場検証の邪魔しちゃダメですよ。そんなずぶ濡れのかっこうで」
「君が事故ったって聞いたから、急いできたんだよー!親御さんは電話に出ないし、担任の先生はインフルでダウンしてるし!」
「あー…」
担任はともかく、今日の我が家のメンバーは、みんな多忙だ。淡白な人達じゃないけど、きっと、今はプライベートの電話もろくに取れないほど、忙しいはず。
「それで大原先生が…どうもご迷惑を」
「君が無事なら万々歳だよー!服は無事じゃなかったっぽいけどー!」
「ははは…」
僕は力なく笑うしかなかった。
そう。僕は図らずして、黒歴史の上塗りを、自らしてしまったのだ。
あの太い縄を引きちぎった際、僕の筋肉が大大大大成長をしてしまったらしく、レディースのユニフォームははズタズタになった。
加えて、ホイールの火がガソリンに引火した際、残っていたコスモスピンクの布をも燃やされた。
辛うじてパンツは残っているものの、どうあがいても恥である。
どうでもいいけど、今の僕の状態が、ICU送りになった連中のいらない余罪に繋がらないことを、多少祈る。
「そういえば、先生。どうやってここまで来たんです?見たところ、警察関係者の車しか見えませんが」
「その警察官系の人に送ってもらったんだー!うちの姉さんと、俺の共通の知り合いが関係者でね!『教え子がヤバい』って言ったら、乗っけてってくれた!」
ほら、あの人!
そう言って大原先生が「Hey!」とやたらいい発音で手を振るのは、ジャケットを羽織った男の人。
取り敢えず、日本の警察の人じゃない。ジャケットにアルファベット三文字書いてあるもん。何とは言わないけど。
「あの…お姉さんのご職業って…」
「ん!ニート!」
「………そうですか」
そういうことに、しておこう。
何せ、今まで怒ることを知らなかった僕の沸点が大爆発し、その大爆発が、高速を両断させるようなことが起きたのだ。
ニートと外国の警察関係者がお友達でも、不思議じゃない。多分。
「…今後は、気を付けます。やたらめったに大爆発しないように」
「ん、たまにはいいんじゃない?溜めすぎて高速ぶった切るよりは、全然マシ!」
「…肝に銘じます」
「ぜひそうして!!」
残念ながら、筋肉はエネルギーを消費するものである。ろくすっぽ運動してないガキの体じゃあ、あの筋肉は維持できず、今じゃあ見るも無残なひょろひょろに逆戻りだ。
でも、今回の一件で、よく分かった。
薄口の人生を送る僕でも、すぐに変われる。いや、変わる。
そうせざるを得ない出来事が、人生のそこここにあるようだから。
だから、次の「変わらなきゃいけない出来事」が来るまで、ひとまず感情のコントロールを学ぶ。あと筋トレ。ビキナーズラックは二度はないから、今度はぜひ、実力で危機を脱したい。
「…取り敢えず、明日からまた部活、よろしくお願いします」
「え!?来るの!?今日で退部かもって思ってたけど!」
「駄目ですか?」
「基本男子は女子の部活に入れないから!今回は例外!」
「じゃ、追い出されるまで通います」
「いいの!?また部長にいじめられるよ!?」
「気にしませんとも」
そこまで言って、僕は一呼吸置いた。
「負けませんので」
どうやら、あの大爆発のせいで、大して出てこなかった僕の感情が、次々と溢れ出てきたらしい。
まずは怒り。次は自信。
どれもこれも勝手に出てくるけど、これをいつか制御…ある程度は管理できるようになったら、僕はどこまでいけるのだろうか。
そう思ったら、やたら嬉しくて、わくわくして、たまらなかった。

因みに、大爆発しなくてもムキムキ…とまではいかないけど細マッチョになり、ある程度、でもごくごく自然に感情が顔に出てくるようになって、「君って表情豊かだよね」と、付き合い始めた彼女に言われるようになるのは、それから約六年後のことだったりする。
もっとも、「彼女」ってのは大女のことじゃねーけど。それよかもっと美人をGETしたけど。

(了)

「余談―先生、あなたは―」

そういえば、今更のことになるが、僕は大原先生のことについて、何も知らない。
声がデカくて背もデカい大男(多分)ってことくらいしか、知らない。
それで困ることはないけど、やたら怪しいにおいがしはじめてるんだよな、この先生は。
…よし。
「…そういえば、大原先生って、書類にはサインが主って言ってましたよね」
「言ったね!」
「サインは英語なんですね」
「そうだね!」
「ご友人は…ええと、警察関係者なんですよね」
「たまたまね!」
「はぁ…。成る程」
はぐらかされてる。多分。
でも、一度失いかけた命だ。もう一度張ってみる。
「…とどのつまり、先生って、何者なんですか?性別すら不詳ですし」
「え!?ここまで喋って、気付かない!?」
信じられん!とでも言いたげな声のトーンと共に、大原先生は、おおいにびっくりした顔をした。
あ。やっぱりただの「先生」じゃないんだ。
「てゆーか、見てわかるでしょ!?私…、いや!俺、男!!」
「…は?」
「『私』ってのは、一応先生だから一人称を直そうとしただけだし、この格好は…うん。何でもないし。でも、声で分からない?男って…」
「はぁ…」
いや。知ってるし。
訊きたいのは、そこじゃないし。
「え…。まだ不満げだけど。信じられない?スカートめくろうか?」
「やめてください」
…いや。今日はもう聞くのは止そう。
一瞬でも大原先生が、現場にいたアルファベットの捜査官の仲間…同僚だと思ってた僕が、馬鹿だったのかも。
「まじでただの男だよー。教員免許持ってるけど。最近まで営業やってて、いまじゃ株で一山あてて、アメリカで起業した会社が、デカいビルになったばっかの、ただの男」
「全然ただの男じゃねえ」
捜査官じゃなかった。ただの教員免許持った実業家だった。

「Doll27」

大変ご無沙汰しています。
奥貫阿Qです。

今度は四か月ぶりの更新となってしまいました…(汗)
季節は廻り、今や「Doll」シリーズの季節である、夏も二順目です。
今年こそは完結させたい…。

もう間もなく30話目になりそうな「Doll」シリーズですが、何とか30話目に完結を迎えられそうです。
それが終わり次第、「Moon King」もまとめの段階に入りそうな予感。
まとめで、また新しい人物を出す予定なので、このまま書き続ける所存です。

それでは、さっそく久々の更新、27話目に入ります。
今週末には、「大原くん」の最新話(らしきもの)がアップできそうです。





「Doll27」
(byキリ)

プログラムなんて、どうとでも変わる。
アイ兄さんとは真逆のことを、ミーナは言った。
それ、本当なの?
だってアイ兄さんは、「俺らはプログラム通りにしか動けない」って…。

「特別なんだ。私は」
「ちょっとあんた、何言って」

私の言葉を遮って、ミーナはアクションを起こした。
真上に浮かび上がったかと思うと、どんどん姿を変形させていく。

「キリさん、また上に雲が…」
「うん…。何する気なんだろうね…」

姿が変わっていくと同時に、あの雲のようなものがどんどん湧き出した。
また私達の上が、偽物の雲と光で多い尽くされた。

「あっ!あっくん!雲が伸びてきた!」
「こっちもです!どんどん増えてる!」

変化はそれだけでは終わらず、真上に漂っていた雲が、どんどん下へ下へ…つまり、私達の方へと伸びてきた。
あれは雲っぽい見た目こそしてるが、実はムース状のものだってことを、さっき私達は知った。
あれで何をするっての?

「あ。雲千切れた」

呑気なことに、リヒトまでが上を仰ぎ、そんなことを言っている。
ぼたぼたとムーズが千切れ、私達の上にまで降りかかってきた。
特に私に。ひときわでかい塊が。

「キモッ!山蛭みたいな感触がする!」
『ごめんごめん。でもそれ、後で退くから』
「へ?」

まるで町内に響く放送みたいに、間延びしたミーナの声が降ってきた。
なにこれ、可動式?
そんな馬鹿なことを思いかけた時だった。

「うっへぇぇ!」

キモい!思わず変な声が出る気持ち悪さ!
何とこの塊、ホントに動くのだ!
モゾモゾ動くのだ!
嫌だ!これデカいナメクジみたい!

「うあああああ!」

あっくんも叫んでる!
あーあ、可哀想に。彼、べったり背中に貼りつかれてるよ…。
あ、でも変だ。モゾる(略語)の度に、塊がどんどん小さくなっていってる。
その代りに、彼のいる場所に何かができあがっていってる…。これ、床か?

「その通り。床だ。今降らせたもので、造っていってる」
「お?」

再びミーナの声。今度は間延びなんてしてなくて、ちゃんと近くで聞こえる。
きょろきょろと探すと、いつのまにか私のそばにいた。

「もうすぐ出来あがるから、降りてきたよ。今降らせたのは、ナノマシンの塊でね。早速使ってみたくなったんだ」

ナノマシン。
アイ兄さんの傷を治したり、さっき出た話の中で、何か…機械の発展に大きく関わった機械のことだ。
アイ兄さんだけじゃなく、ミーナも扱えるのか。

「キリ。信じられない話だけど、今、ナノマシンでリヒトのラボを再構築してるんだよ」
「ええっ!?せっかく壊したのに、何で!?」
「そうだよ!ここで何が行われたか、君だって知ってるんだろ!?」

モゾモゾに耐え切れなくなったんだろう。ナノマシンの塊を背中から引っぺがし、べしっと地面に叩き付けながら弟子が言った。

「知ってるさ。でも、だからこそなんだ」
「「へ?」」

私と弟子の声がハモる。

「彼は、自分の正体に気付く前の私に負けかけ、暴走した私に負けた。だけどまだ、完全な状態になった私の強さは知らないだろう。だったら、万全な状態で挑ませ、完全に敗北させてやる」
「…要は?」
「剥かれる前に、手負いの牙はすべて抜く」


(byシンタ)

「うへぇぇぇぇ…」

何だ。何なんだ、これ。
雲かと思ったらただのムースで、それがべったり張り付いて動けないだなんて。

「シン…」
「ミ…ちゃ、うご…」

しかも壁みたいなところに押し付けられて、声も出ない。

「お?」

ヘンだ。このムース、もぞもぞ動き出した。
お蔭で息が楽になった。
ムースはどんどん動いて、視界は開けてくるし。

「ラッキーっすね、ミラちゃん。ムースが消えましたよ。モゾモゾはキモかったっすけど…」

いや、正直言うと、息がつまりかけてたミラちゃん、何かエロいなって思ってたけど。
ラッキーどころか、密かな眼福だったけど。

「…おや?」

でも変なんだよな。
ムースが消えたと同時に、俺達の下に足場みたいなのができ始めてる。
俺ら、でっかい穴みたいなのに飛び込んだはずだけど?
あ、案外底が浅かったとか…?
いやいや。でもこれ、よく見てよ。

「これ、床じゃん」

普通に人工的な床じゃん。
一体何がどうなって…。

「…あれ?ミラちゃん?」

さっきからミラちゃんの返事がない。
何事かと思って見てみると。

「…」

俺の腕の中で、ぜーぜー息を整えていた。
やだ。何か弾けそう。


(byキリ)

どんどん造られていく床、壁、電子機器。
まるで映画の逆再生でも見ているかのように、あっというまに、無くなったはずのものが全て復元されてしまった。

「この床の下はプールか…。よかったな。火事が起きてもまた消せるし」
「…M0.5(エムハーフ)…。俺を馬鹿にしてるのか」
「いや。ただ、頭はいいのに馬鹿なことをしてるな、とは思ってる」

そういうのを馬鹿にしてるっていうんだ。って、ミーナに言いたかった。
が、ここは敢えての静観だ。
今のミーナの状況が、私にはわからない。
一体、どういう理由で戦おうとしてるんだろう?

「ついでにいえば、私の本当の名称はM0.5じゃない。M0.5は略称で、正式な名前は『M0.5D(エムハーフディー)』だ。DはdaughtrのDだから、M0.5の娘的なものっていうのが、正しいかな」
「な!?」
「え!?ミーナ、親がいるの!?」

訂正。静観は止めだ。
ここは意地でも、こいつらに割って入らねば。

「誰!?誰なのさ!?」
「『M0.5』…略称が私と同じメカだよ。今風に言えば、ロボットとか、アンドロイドとか、そんなの」
「う、産んだの?そのメカがミーナを…」
「いや。そのメカが放棄することになった、軍事関係一式のデータを、私が引き継いだってだけ」
「へ、へぇ~…」

ミーナの実父、ないし実母は機械。
そしてミーナも、やっぱり機械。
その衝撃の事実と、逃れられない確認事項に、「へぇ」くらいっきゃ言えない。
ボキャブラリーが追いつかない。

「ちなみに、私の親的なものの名前…『M0.5』ってのも、正式な名前じゃない。正式な名前は『Mark.I-025-the Moon King(マークアイ・オートエンティフィフス・ザ・ムーンキング)』。元々は、主となる医療関係のデータのほかに、軍事関係のデータも扱っていたらしい」
「…それをなくしたから、『M0.5』?」
「ああ。『Mark.Iの半分』や『Mark.Iの劣化版』って意味で、いじられるようになったんだ。私が生まれるまで、M0.5といえば、Mark.Iのことを差していた。…嫌味な奴は、Mark.IとM0.5は別物とみなして、敢えて別々に論文を書き残したりしていたらしい」
「へぇ…」

明日使えないけど、明日から見る世界が変わるであろう豆知識。
あっくんも、目が点だ。
リヒトは…。
うん?

「…ミーナ。リヒトの様子が変なんだけど」
「だろうな。知っておくべき機械の略称と正式名称の関係を知らなかった上に、まだ知らない事実があったんだから。恥ずかしくて死にそうなんだろ」

私だったら、確実に恥ずか死ぬ。
ミーナがさらに追い打ちをかけると、リヒトは湯気を出しそうなほど、顔を真っ赤にした。
…いや。真っ赤にした途端、マジで「ボフンッ!」って音と共に湯気を出し始めたから、もうどこかしらガタが来そうな予感。

「…さん」
「お?」

リヒトの目つきが変だ。
上せ過ぎて、目ぇまわしてる人みたい。

「M0.5D!」
「お?」
「お前は決して許さんッ!!」
「うわ、逆切れした」
「今度は正式名称で呼ぶんだな」

ミーナは冷静そのもの。
あっくんについては、リヒトがオーバーヒートしてるのを見て、冷静になったのか。普通に突っ込んでいた。
私については…。うん。ミーナが正気だってことが、取り敢えず分かった。

「どうでもいいから、かかってこい」

だってこいつ、ブレねえんだもん。
「猪突猛進」は、ミーナの子供のころからの相棒だから。

「いくぞ!」
「おう」
「ここの全研究成果を、お前にぶつける!」
「ああ」

するとあちこちから、壁や天井を突き破り、奇妙な動物達が入ってきた。
いや。動物っていいのかすら、定かではない。
だって、うねうね動きながら空を飛ぶ蛭っぽいのに、口しか見当たらない球体っぽいのまでいる。
何て説明すればいいのやら。…強いて言えば、こいつらはアイ兄さんが言っていた、「生物兵器」ってやつなのだろうけど。

「凄いな。アイとかが設計した姿のまんまだ…。お前が作ったのか?」
「いいや!」
「?」
「そこら辺にいた連中だ!」
「…窃盗じゃねーか」

ミーナの顔は、完全に白けたものになった。
多分、私達もそう。
盗むなよ。先祖の遺産を。
先祖が作った遺産は、後世に残してこそ教訓になるのに。

「さあ行け!お前達!」
「いや、無理だろ」

リヒトが号令を下した途端、リヒトの後ろで何かが爆ぜた。
それと同時に、生物兵器の群れがわらわらと動き出したけど…どうにも様子がおかしい。

「何故だ!?どうして言うことを聞かない!?」
「お前作の、コントロール用のセンサーを切ったんだ。…移動を始めているところを見ると、元いた住処に帰るんだな。…空を飛ぶ生き物については、いつのまにか上空に逃げてたオオトリに牽引させてる」
「なあぁ!?」

更に顔を真っ赤にさせながら、リヒトがどなった。
今更だけど、確かにオオトリの姿がない。

「…ホントに、オオトリいませんね」
「だね。また適当なところに逃げたのかと思った」

すっかりギャラリー化した私達を無視して、リヒトは更に何かを、ミーナに向かって叫ぶ。
取り敢えず、私達はこれ以上何もしなくてもよさそうだった。
ミーナが自力で何とかできそうなら、まだ片付いていない方に向かおうか。

「…あっくん。今のうちだ。何とかオオトリ引き留めて、自警団に戻って、あの女の子を保護しよう」
「そうした方が、よさそうですね」
「一応、私はここに残るから。あっくんは女の子の方を頼む」
「了解」


(byシンタ)

何かが爆ぜそう。
そう思った瞬間、マジで何かが爆ぜた音がした。
下の方から。

「エ゛!?まさかホントに爆ぜた!?」
「そんな!」

俺を突き飛ばし、ミラちゃんはすぐ近くにあった鉄製の両開きのドアを開け、その中に消える。
俺の言った意味とは全然違うけど、どうやらドアの中に、爆ぜる何かがあったらしい。
こう言っちゃあ何だけど、ちょっとホッとした。

「ミラちゃん、どこへ!?…あ!?」

開きっぱなしになってたドアに飛び込んで、失敗した。
ドアの向こうは、延々と下に伸びる、暗い空間だったのだ。
これはあれだ。MK分団の本部に最近設置された、「エレベーター」ってやつ。
建物を上下に貫く、鉄の箱。その箱が移動する通路だ。
ワイヤーが下に伸びているのが見えたから、間違いない。
でも…あれじゃん。
肝心な箱がねーじゃん。
俺、飛び込んじゃったじゃん。

「ワアアアアアアアアアーーーーーーッ!」

ああ神様!俺は悪い子です!
今日一日でしょうもないことをいくつも考えてしまいました!
でも、それにしてはこの罰は酷いです!重すぎます!
お願い助けて!!


(byキリ)

「…なぁ、動物は気紛れだからしょうがないとして、ちゃんとお前が作った技術で勝負してくれよ」

弟子が飛び出して言った後、地下には私とミーナ、そしてリヒトの三人が残った。
アイ兄さんは、未だに現れない。…いや、もう現れるつもりすらないのかも。

「そうじゃないと、私も正当な評価ができない」
「評価だと!?」
「そうだ。お前自身が持ってる技術を見ないと、万が一お前が過去の技術を完璧に盗んだ場合を想定した、処置ができない。裁けないんだ」
「機械が俺を裁くのか!?」
「そうだ。ある意味な」

ある意味裁く。そんな訳の分かんないことを、ミーナは言う。
さっき豪語したことといい、もしかしたらミーナ、時間稼ぎでもしようとしているのか。
未だに渋滞に巻き込まれてるであろう、団長が来るまで。

「一応、私は軍事的利用、ないし、確実に人権を侵してくる技術の乱用は裁くよう命令されているんだよ。…お前達の、ご先祖様にね」
「…成る程。それがお前が造られた理由か」
「その通り。…ちなみに、私の誕生と、過去の文明が滅んだ理由には関連があるんだけど…知ってるか?」
「?」

知らないっぽかった。
ついでに言えば、私も知らない。習ってないし。
でも…何だろうな。さっきからこの話を聞いてると、頭が痛くなってくる。
キャパオーバー云々や、現実離れしてるとかじゃなくて、こう…何か引っかかるというか。
喉の奥の、魚の小骨が取れそうで取れない感じに、何か似てる。

「ああ。やっぱり知らないのか」

中々答えないリヒトに焦れたんだろう。
ミーナ自ら、口を開いた。

「私達を生んだ、かつての文明が滅んだわけ…。それは、機械化した某天才が暴走したからなんだよ」
「…?」
「自分で自分を機械化した末に人権が適用されなくなり、社会的弱者になってしまった。そのために苦しみ、テロを起こしたんだ」

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