2017-09

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「Children’s day」その②

こんにちは(或いはこんばんは)
奥貫阿Qです。

とうとう梅雨入りしたらしく、ここ最近は雨ばかりで、傘が手放せなくてつらいですね…。
奥貫に至っては、気圧の変化により頭がボーっとする日々が続いておりますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
体調が悪い方は、どうか無理をしないよう(>人<;)

さて、今回も今回とて、キリとミハエルの過去バナです。第二弾です(第一弾は先週掲載いたしました)。

書いてみて感じたのですが、子供時代ということもあって、キリはよりトラブルメーカーであり、ミハエルはより感情の起伏があるな~、と、思いました。
二人とも豪快な性格のようなので、書いていて楽しいです(笑)

それでは今週も、暫しの間お付き合いくださいm(ーー)m

来週でこの話(「Children’s day」)は最終回を迎えますが、もしかしたらそれ以降はまたコンクール等の関係で、ブログをお休みするかもです(汗)

そのときはまたお知らせをしようと思うので、どうかよろしくお願いします。

では、ひとまず作者はこれで。
また来週お会いしましょう。



「Children’s day」その②

 「あーんもう!せっかく逃げ切れそうだったのにぃ!」
 「逃がすもんかよ。散々人のことバカにして無傷だなんて、虫が良すぎる」

  時間は過ぎ、ちょうどお昼時を過ぎた頃。今日は学校が半日しかなかったので、爺のお説教後、キリとミハエルは、学校近くの広場でくっちゃべっていた。
…いや、正確には、ミハエルがキリの愚痴を聞かされていた。

不機嫌そうなミハエルに、キリはわんわん泣きながら、鉄棒の上から文句を言っていた。
頭にタコ焼きのようなタンコブをこさえたその姿は痛々しげでありながら、どこかコミカルな感じがする。元々キリが悪いというせいもあり、イマイチ同情しきれない有様だった。

「見てよ、このコブ!じいちゃんにやられたんだよ!ジジイのくせして乱暴なんだよ!何をどうしたら、こんな鏡餅みたいなコブになるんだよー!」

おめでたい形なのに、ちっともめでたくないじゃん!
と、最後にまた喚くと、再びキリはわんわん泣き出した。

「泣かないでよ。みっともない。私なんて、また親父に言葉遣い注意されたんだから。」
「?」

唐突なミハエルの愚痴に、キリは一瞬黙った。
その様子に、ミハエルは言葉を続ける。

「『もっと男らしい言葉遣いにしなきゃ、女だとバレる』ってさ。そのためには自分の呼び方も変えなきゃ駄目だって…。めちゃくちゃだよ。私は女なのに」
「そんなんどうでもいいし!」
「よくねーよ!」

思わず突っ込んでしまった。
キリの文句に便乗して、こっそり心の内を吐き出してみたミハエルだったが、完全に愚痴を言う相手を間違えていた、と、彼女は自覚せざるをえない。
何度も言うが、当時のキリは、こんな子供だったのである。

「あーもー、やめやめ!こんな暗い話!気分転換に、どっか遊びに行こう!」

鬱屈した気持ちを放り投げるかのように、キリは鉄棒の上から、ポーン!と身を投げた。
そのまま見事に着地する友を見て、まだ不満げな顔をしているミハエルは訊く。

「遊びに行くって、一体どこに行くのさ?」

この当然な質問を、キリは期待していたのだろう。ニイッと笑みを作ると、右の親指を立てて言う。

「この先の森のボロ屋敷!何か最近、お化けが出るんだって!」



サク、サク、サク…

枯れ草になりかけている草の上を、キリとミハエル、二人の悪ガキが歩いていた。
ミハエルとキリは、早速件の森にやってきたのである。いくら噂とはいえ、危険があると言われる森に、なぜわざわざ行くのか?と問われれば、その答えは特にない。ただ単に「面白そうだから」である。

ちなみに。
この森に入ってしばらくしてからのことだが、まだ目的地に着いてないにもかかわらず、彼女らは早速、危険と遭遇していた。

「ひえー、やっぱし今の季節は枝が多いなあ。足元ヤバイ」

サクサクと歩を進めつつ、キリはまた愚痴る。
足元は、枯れ葉でふわふわと柔らかいのだが、時折、三日前に起きた大風でへし折られた木の枝や、刈られた柴の先がニュッと現れてくるので、ふわふわ感に気を取られている余裕はない。
しかしキリのいう通り、どこをどう歩いても枝があり柴の先があったりする。
まるで罠の中を歩いているようで、どうにも危ない。油断したら、いつズボンを貫いて怪我をするか分からないくらいだ。

「歩きにくいったらないね」

あまりの障害物の多さに、ミハエルも思わずそう呟いていた。
だが、ふと様子が気になってとなりを歩くキリを見てみる。森に入ってから続きっぱなしだったキリの文句が途切れたからだ。

何てことはなかった。
ズボンの端を枝に引っ掛け、それを外すのに必死になっていただけだった。

「…なんだ」

親の仕事が猟師であるため、ミハエルの家は自ずと獣の多い場所、つまり、人間にとっては住みにくい、自然の厳しいところにある。
ゆえに、ミハエル一人ならば、この程度の道の悪さくらいどうってことはない。むしろ、こんな道は日常茶飯事だ。
しかし、彼女の友人であるキリは違う。いつも学校周辺の安全な場所にいて、尚且つ注意不足も甚だしい。そんな友は、いつ何時怪我をしてしまうか分からなかった。

今も枝から自由になった途端、危機感などない、まるで学校の廊下でふざけている時そのままの様子で歩きだしたので、ミハエルは正直ヒヤヒヤしていた。

あまりの危うさに思わず―友の性格を知っていれば無駄な―こんな質問をしてしまう。

「諦めるか?」

ミハエルの言葉を、キリはカラカラ笑って否定した。

「冗談!」

思った通りの反応だった。

「こんなにしょうもない目にだけ遭って帰るなんてありえない!屋敷はもう近いんだし、ここまできたら絶対行ってやる」

これもまた思った通り。
何もかもが予想を裏切らない反応なので可笑しくなり、何だか笑えてきた。

で。

「しょうがないなー。そこまで言うなら、付き合ってやるか」

自分よりもやや体重があるキリに怪我されたら、連れて帰れる自信はない。
だったら怪我しないように見張っているしかないか。
そんな、半ば投げやりな気分になって、ミハエルはそう、キリに答えた。

「何その生意気発言!」

キリは、年下であるはずのミハエルから、あからさまな上から目線でものを言われてしまった。
ムキになって怒ったが、

「…おっ?」

視界の橋に映ったものに、すぐさま注意が逸れた。

「そうこうしているうちに、ついたっぽい」
「…そう」

キリのあまりの気持ちの変化の早さに、ミハエルの笑いは引っ込んだ。その代わり、早くもうんざりした気持ちになる。

今でさえ移り気な友人は、目的地でも気の向くままに行動するんだろう。ならば、一体どんな突拍子もない行動を取るんだろう、と。


またしても話は続けられた。

 ただし、

 「ちょっと待ってよ!」

 キンキンとよく響く叫び声が、僕たちの耳に響いた。
 声の主はキリさんだ。

 「その過去バナ、私にも話させてよ!」

 まるで参観日で張り切る小学生のように、腕も背筋もピンッと伸ばし、ミカに自分の存在をアピールしている。
 そんなキリさんに対して、ミカはキョトンとした顔で応じる。

 「ん?別にいいよ。あの思い出は結構よく覚えてるからさ」
 「そうでなくて!何かさっきから私のことが格好悪く話されてばかりで嫌なんだよ!どうせ話すなら格好いい私も出してくれ!」
 「え…。でも、キリっていっつもかっこ悪かったからな」
 「何さそれぇ!?」

 ミカの厳しい発言に、キリさんはムンクの「叫び」のようなポージングをする(だから「かっこ悪い」って言われるんだ…)。

 「いいし!誰が何と言っても、私も話すもん!」
 「好きにしろよ」

 こんな調子で、再び話は始められた。
 今度はキリさんも加わるってんだから、話に膨らみが出ることを期待したい。
 無理かもしれないけど。


      ◆

(同時刻、ユバナ国内某所の屋敷にて)

「ふいー、仮の住まいとはいえ、ここはボロいなあ。雨漏り直すだけで、一週間もかかっちまったぜ」

古びた屋敷の中、かつては富豪とその召使いが住んでいたであろう屋敷には、今はたった一人しか住人がいない。

薄汚れた白衣を纏い、ボサボサの髪をした男である。

いかにも怪しげな姿の男だが、白衣の上に乗っている顔は、中々綺麗な顔をしていた。妙に人工的な青い瞳だけは異様だが、それすらも、浮世離れしてていい、という人もいるかもしれない。

そんな奇妙な、しかし見目だけは麗しい男が、こんなところで何をやっているかというと…お察しの通り、マトモなことではなさそうだった。

「さあて。雨漏りも直したし、実験の続きをしよう。爆発実験をして、生物モジュールの反応を見るんだ。まだ誰もやったことのない偉業だぜ!」

まるでデート前の若者のように浮き出し立つ男は、喉の奥で笑った。

「あんた、そんなことして人生の何が楽しいの」と、訊きたくもなるが、どうせろくな答えは期待できない。ここはもう、趣味云々は人による、と割り切って、男の動向を見守るしかなさそうだった。



謎の男はさておき、キリ達一行は、朽ちかけた蝶番から件の屋敷に侵入していた。かつてはユバナのVIPが出入りしていただろうその蝶番は、今や悪ガキの侵入をも許す有様である。

「でかい蝶番だねえ。あたしら二人の身長を合わせても、まだ高さがある」

のんきに感想を述べるのはキリだ。
彼女は、ここへの不法侵入は気にしちゃいない。地元民である彼女らからすれば、こんなところにまで機動隊や自警団(ユバナの警察組織)が来ることはないと、知っているからだ。
その証拠に、普段は使えない「あたし」という一人称で喋っていることから、気分的にかなり落ち着いているのがわかる。

そんなキリに眉をひそめるのは、やはり彼女の友だ。

「キリ、一応言っておくけど、機動隊が来なくて都合がいいのは、私らだけじゃないよね。私らと同じく、機動隊や自警団とはお知り合いになりたくない輩も同じこと考えるはずだ」
「バカだなあ。その輩がここにいるとは限らないじゃん」

バカはテメーだ、その可能性がないと言い切れないだろうに。と、ミハエルは言いたかったが、この友にそう言っても帰ることになるはずはない。この友は、やると決めことは、飽きるまでやり抜く奴なのだ。勉強以外は。
付き合う側からしたら、時に羨ましくもあり、時に嫌な粘り強さでしかない。

「…とりあえず、万が一のことを考えて『あたし』って呼び方はやめようか」

なおも親切でそう言ってやっているにもかかわらず、

「ミーナが『私』って呼び方やめたら、やめたげるぅ」

キリに緊張感はない。
ミハエルはこうべを垂れた。

だが、友人として、これだけはキリに言っておいた。

「…キリ。パッと見たところ、この建物には窓の類いはないらしい。いざって時の出口は、あの蝶番と、これから入ろうとする部屋の入り口だけだから」
「んー」



(同時刻、キリ達がいる屋敷、地下室にて)

「…爆薬のセットはできたな。じゃあ、ボチボチ始めるか」

白衣の裾が薄暗い地下室のなかで、忙しげに揺れていた。男の顔は嬉しげだが、顔は青白く、よく見たら目の下に濃い目のアイシャドウみたいな隈ができていた。もしかしなくても、何日も寝ていない様子だった。足取りもフワフワと頼りなげで、何とも危なっかしい。

「この実験のためだけに、俺は五徹(五日間の徹夜の意)もしたんだ。何としても成功させるぞ」

何としても成功させる実験なのに、五徹もしてしまったらしい。一体何が彼をそんなに焦らせるのか、急いでその実験をする必要があるのか、そもそもその実験は何のための実験なのか。

「この生物モジュールは、原始生物の体の構造を※2ナノマシンで模したものだからな。爆破を加えたら、当時の生物の進化のきっかけが分かるはず」

…とりあえず、実験の目的は分かった。分かったが、なぜそんなことをするかが、やはり分からない。
全てを知るのは、この場においては、この男ただ一人であった。

「うふ」

薄暗い闇の中、うっそりと笑った男の顔は、不気味以外の何物でもない。
白衣のポケットに手を突っ込むと、ご丁寧なことに、その手にはユバナでは軍部以外ではほとんど目にしなくなった小型リモコンが握られていた。
傍目から見れば、嫌な予感しかしないブツである。

なおもニヤニヤニヤニヤ笑い続ける男は、リモコンのスイッチに指を置いた。

※2ナノマシン
原子よりも小さなメカ。原子分子をいじり、別の原子分子に変えることが可能。



自分らの足元でそんなことが起きていることなどつゆ知らず、悪ガキ一行は更に行く。

「ふえ~、ミーナが言ってた時は『まさかぁ』とかタカをくくっていたけど、まじで窓とかないね!ここ、倉庫とかには見えないのに!」
「デカい声でしゃべんなよ。…でもまぁ、変だってことは認めるよ。ここ、明らかに人の住まいだったって感じするもん。なのに窓がないなんて…」
 
入り口を抜け、部屋という部屋を見てきた悪ガキ一行は、そんな感想を漏らしていた。
というのもこの屋敷、ミハエルの見立て通り、どこにも窓がなかったからである。
なのに、覗いた部屋のすべてに、衣装箪笥やら姿見やら、果ては大きなベッドまである。しかも、壊れたりしている部分は見受けられるものの、そのどれもが年代を経た品々…先の時代で言うところの「アンティーク」と呼ばれるものであることは一目でわかった。

「うーん。これ、今から三百年くらい前の品かなあ。明らかにユバナ製の品だけど、今よりも装飾が凝っている上に、木の削り方も丁寧だ。富豪からしてみれば一番欲しい時代の物だろうさね。数は少ないけど」
「キリ分かるのか!?」

ユバナの富豪の間では当時、このようなアンティークを集め、それを部屋に置くことが、一種のステータスとされていた。
この建物の大きさといい、置かれている家具がアンティークの品々だったことといい、この屋敷の主は間違いなく金持ちだということは、ミハエルにも分かった。
だがさすがに、置かれている家具がいつの時代のもので、金持ちからどのようにみられている品々なのかまでは分かりっこない。家業も猟師である上、ミハエルが住む地は貧しいのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
でもキリは、なぜこれらのアンティークのことが分かったのか。

「うちのじいちゃんのおかげだよ。じいちゃんはね、学校の備品だけじゃなくて、この村の家具とか、いろんな道具の修理もしてるんだ。腕がいいのか、たまに村の外から仕事をもらってくることもある」

だからあたしもアンティークのことなら多少は詳しいの、と言うと、キリは誇らしげに胸を張った。なんだかんだ言ってこの少女、爺のことを尊敬しているようである。
一方でミハエルは、今まで知らなかった友の知識に驚いていた。

「…キリ、実は凄いこと知ってたんだね。いままでただのボンクラだとばかり思ってた」
「ボンクラって言うな!」

でも、これは確かに凄いことである。もしキリの見立てが真実である場合、希少な家具を揃えられるほどの富豪ということになる。
この屋敷にしたって、この村どころかユバナ国内でも珍しいと言われる五階建ての、それも歴史の教科書で見た中世ヨーロッパのような豪華な建物なのだ。

それに加えて希少価値のある家具とくれば。

「デラやばい富豪ぢゃん…」

ミハエルはもちろん、キリさえも感嘆のため息をつく。

「あたしの見たところ、全室、必ず一個はあの時代の家具があったよ。マジやばい」
「そうかよ。でも、なんでそんな富豪がこんなミョウチクリンな建物を…」
「日光から家具守りたかったんじゃね?日の光でさえも、家具の劣化を早めるから。特に布張りの物はね」
「とは言ってもなぁ。窓がなきゃ換気できないよ?扉を開ければいいのかもしれないけど、どっちみちこんなしっかりした建物だ。隙間風の一つも入らない程の造りであったとすれば、たちまち湿気がこもる」

キリの見立てももっともだが、ミハエルの見解も正しいと言える。この富豪がどう考えていたかは分からないが、本来、年代物の品を取っておくことは骨の折れることなのである。なるべく劣化を防ぐために、キリの言った通りに日光、その他にも湿気、カビ、虫食いなども防がなくてはならない。先の時代にあったお雛様や五月人形の保管と似ている。

「そう言われりゃそうかなぁ…」
「憶測だけどね。それに日光に長期間当たらないと体調壊すぞって、親父がよく言ってる」
「ミーナのおやっさん、健康オタクだもんねえ」

先程会ったばかりのミハエルの親父の姿を思い出し、キリはアハハと笑った。
ミハエルの父親の容姿は、怪我など無縁、風邪などなおさら無縁そうな、屈強な山男なのである。
頭脳派が入った娘とは違い、いかにも脳みそまで筋肉な男が言ったことを信用していいのかは分からないが、とりあえず、ミハエルの言うことに同意しておくことにした。
無論、また給食袋でぶん殴られるのはごめんだからである。

「あっ」

ミハエルとの会話に熱心になっていたキリだが、やはり持ち前の集中力のなさからか。途中であるものに注意がそれた。
その、あるものとは。

「ミーナ、部屋があるよ。今までのどの部屋よりもでかそうだ」
「ほんとだ…何だろ。召使たちの食堂かな」

それは、入り口の蝶番よりも小さな、しかし、まるで極楽の入り口かと思わせるような豪奢な造りの蝶番だった。
百合の花を全体にあしらい、扉全体の色は、右は赤、左は黒に塗られ、縁は金でメッキされている。所々にキラキラ光るものがあるが、それは螺鈿だろうか。

だが、そうは言っても、この扉がどんな感じの物なのかは、読者にとっては分かりにくいに違いない。
だからあえて、素直な子供の目線からものを言うとすれば、

「趣味悪ぅ!」

であった。

「派手っつうか成金趣味っつうかさ、このデザインだけはないわ~。」

そう言い切って、キリは首を横に振ってため息をつく。
鳴かないホトトギスすらも鳴かせてみせようと豪語していた戦国武将が聞けば、鬼の形相になりそうなコメントである。

「しかもボロいし」

ここまで言ってしまえば、バッサリ切られても仕方がない発言である。
 
だが、この時代と国が違えば無礼者扱いされそうになる娘を止めたのは、友であるミハエルだった。

「まあまあキリ、仕方がないよ。この屋敷を作った人の趣味だし…。それより早く、中に入ってみよう。気になるんならさ」

友の腕を引っ張り、ミハエルは扉を指差した。

「お?乗り気ですね~、ミハエルさん」
「こっから早く帰りたいっすからね~、キリさん」

 お互いの思惑は違うものの、中が気になるのは二人とも一緒らしかった。
 重そうな蝶番に、右はミハエル、左はキリが手をかけ、ギイイイッと扉を開く。
 
 幼い顔が二つ、中を覗いた。
だが、そこにあったのは、窓のない部屋よりもさらに異質な空間だった。

「いっ!?」
「えっ!?」

さすがの悪ガキ二人も、この空間には驚かざるをえない。
そこは、確かに蝶番に見合った広い空間ではあった。パッと見、二十畳はありそうなほどの。
だが、広々とした空間には何もない。

何もないが、所々に白いクッションやら薄い上掛けやらが散乱し、天井には巨大なシャンデリアがある。
入り口の蝶番といい、どうもここは屋敷内で最も贅を凝らした部屋らしいということは分かった。分かったのだが、彼女らにとっては、それ以上に目を引くものがあった。

「…なんで、壁にエロ本みたいな絵が描かれてんの」

ボソリとそう呟いたのはキリだ。
分かる人物が見れば、それらの絵はギリシャ神話のワンシーンや、仏教の天部を描いたものだということが一目で分かるだろう。
だが、そんなことなど知る由もないキリが見れば、それは確かに彼女が言った通りの物のように感じてしまっても、仕方がないことだった。

「百合の花にこれらの絵か…。おまけに、この屋敷は窓のない造りだし…」

ミハエルは、わずかながらも思うことがあるらしい。

「どしたの、ミーナ?」
「ウン。私の名前のこと、思い出してさ。私の名前って、元々は教会のステンドグラスにあった神の使いの名前からつけたんだって。親父がそのお使いのことを女だと見間違って…」
「やっぱり抜けてんね~、あんたのおやっさん」
「それ程綺麗な顔してたんだよ。…でね、その教会の坊さんが言ってたらしいぜ。私の名前の元になったお使いの隣にいる、また別のお使いさんが、百合の花持ってるだろって。その百合の花はかつて、処女の象徴だとか何とか…。つまり、女と関連付けられることがあるらしかった」
「え?そんなもんがここになるなんて…。ねえ、何かあたし、嫌な答えが頭に浮かんじゃった。気のせいだよねえ」
「気のせいじゃねーだろ。キリだってもう分かるだろ」

やや口調を悪くし、しかもらしくないことに、不快感を全面に出して、ミハエルは言う。
まるで今にも噛み付かんばかりの猟犬のような表情に、キリは「ひっ」と悲鳴を上げそうになった。
だが、黙ってばかりいては、本当に噛み付かれそうなほど、友人は不機嫌だった。ここは一つ、答えを言わなくてはいけないらしい。
言いたくもないことだったが、キリは恐る恐る口に出す。

「娼館…かな。個人で造った…」
「らしい。どうも変な造りの屋敷だと思ったけど…実はとんでもない場所だったんだ。窓がないのは、女が逃げないようにか、はたまた念には念をと、外部から見られないようにするためか…。いずれにせよ、こんな田舎にこんな厳重な建物造るくらいだ。許可は取っていないんだろうな」

胸糞わりい、と、ミハエルは吐き捨てる。
同性が嫌な思いをした場所になんかいたくない、という、彼女なりの意思表示だったようだ。どこか獣じみた意思表示ではあるけれど。

「ああ、本当にいやだ。キリ、こんなとこもう出ようぜ。私は嫌になった」
「あたしだって嫌だよ(ミーナが恐くなるだけだし)。…帰ろうか」

いくら自他ともに悪ガキと認めるキリであっても、友が眉間にしわを寄せ続ける場所に留まる勇気などあるわけがなかった。
気の弱い子供ならおしっこちびりそうなほどの形相で部屋を睨むミハエルの腕を、今度はキリがとって、回れ右をする。

(そういやいつも、野郎どもとは距離を置いてはあたしとばっか遊んで、村の女たちの衣装を羨ましそうに眺めてたよね、こいつは)

運動神経は抜群、おまけに上級生と喧嘩をしても負けないミハエルであるが、本当は「あたし」を本来の一人称とする自分よりも女の子らしい性格なのかもしれない…。
あまり信じられないが、キリはボンヤリとそんな風に思った。
その証拠に、この怒り様である。

(生きにくそうだなぁ、ミーナにとってこの村は…)

怒り心頭の友人の腕を引っ張りつつ、キリはそう思った。
だがその途端、その友人が足を踏ん張って、キリが足を進めるのを止めた。

「何してんのぉ?こっから出るんでしょ?」

キリがそう言うも、ミハエルから返事はない。
部屋の奥を睨んで、微動だにしないからだ。

「?」

さすがのキリも、ミハエルの視線が変なことには気が付いた。
彼女と同じ視線に、自分も目を持っていく。
まるで闇が凝ったような暗闇だが、慣れれば見えてくる。

あのエロ本のような壁の絵に、散乱したクッションに、その他訳の分からない品、諸々…

「んん?」

それらを見ていたキリの視線も、動かなくなる。

そこには、まるでクッションを山積みにしたかのような小山があった。

だがその小山がクッションではないことは直ぐにわかる。

第一に、この部屋にあるクッションは、古ぼけてはいるけれど全て真っ白だということ。
第二に、その小山が、何だかモコモコと動いているようだということ…

(何よあれ!)

思わず叫び出しそうになったキリだが、それをぐっとこらえる。
その瞬間、キリの前に何者かの背中が現れた。背の低さからして、多分、ミハエルが自分の前に立ったのだと思われる。

(脅かすない)

しかもだ。自分の前に立った友は、自分を背にかばったまま、そのままソロソロと後退し始めているではないか。
何で?

そう思った時、キリの目に「あるもの」が飛び込んできた。
小山の奥には、わずかながら明かりがある。恐れくそれはランプだろう。
で、そのランプの光に照らされたものが、当然ながらある。
男物の山靴に、ボロボロの荷物入れ。
そして、使い込まれた、古びた刃物…。

一瞬この小山の正体が、軍か機動隊か、はたまた自警団の誰かかと思ったが、それにしては装備が古すぎる。
それに気が付いた時、ある答えがキリの頭の中を駆け抜けた。それと同時に、友が後退を始めているわけも分かる。

(あれ、山賊だ!)

その思いが引き金になったかのように、影の一団は立ち上がった。

それと同時に、キリはミハエルに腕を掴まれ、小さな、でも鋭い声でこう言われる。

「キリ、走れッ!」
「ひえええっ!」

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