2017-11

「プリンの話」&「ハスの花」① ※下の記事「ただいまです!」からお読みください。

「プリンの話」
(byアヤト)

「プリンが食べたい」

急に真顔になった(自警団における)上司がのたまった。
どうでもいいけど、真顔で「プリンが食べたい」って可愛い要求言われるって、何だかシュールだな。まるでジョジョみたいな面構えでこんなこと言ってんだもん。手のポーズはゲンドウだし。

「実はもう作ってある」
「じゃあ召し上がればいいでしょう」
「えっ?」

「マジで?」と、僕の顔を見るキリさんはキョトンとしている。さっきのジョジョ顔が嘘のようだ。

「何だ…。てっきり夕飯まではお預けって言われるかと思った」
「どうしても召し上がりたそうだったので。別に今日くらいいいですよ」
「お!ラッキー!」

僕が返事をしてすぐ、キリさんは目の中にラメを入れたかのように、かなりあからさまに目をキラッキラさせた。
冷蔵庫に飛びつくや否や、中から型に入ったプリンを取り出すと、パコン!と勢いよく容器から直に口に含む。

「うまーい♪」
「ちょっと!行儀悪いですよ!」

怒鳴るものの、ニコニコとプリンを咀嚼する上司の耳には入らない。
幸せの絶頂という表情で食っていた…のだが。

「ゔっ」

一瞬この世の終わりみたいな絶望的な顔をしたかと思うと、腹部を抑えた。丁度胃腸の辺りだ。

「まさか、当たりましたか?」
「当たってない。ちょっと腹が痛いだけ」

当たってんじゃねーか。
どこのとは言わないけど、「大当たり〜!」と言って騒ぐクライマックスがCMになっていた、あのアニメ映画思い出すわ。

「顔真っ青ですが」
「それはあれだ、メイク」

あんた今日スッピンだったろ?
粉すらはたいてないくせに。

「トイレ行きなさい」
「指図すんな。御不浄くらい自分の行きたい時に行くわい」

それは今じゃないのか?

「アヤト」
「何ですか?」
「私、ちょっとトイレ掃除に…」
「行きたきゃ行きなさい」

掃除にかこつけて。

その後、キリさんのトイレ掃除は一時間近くに及んだが、何だってあのプリンが当たったのだろう。作る様子を見てたけど、あのプリン今朝作ったばかりだったのに。



(byミハエル)

「あれっ?おい、そのプリン、食っちまったのか?」
「ああ。いけなかったか?」

まだ朝早い時間のことだった。
キリの修理屋に顔を出したら、ソファで寝てるアイ以外誰もいない。どうやら修理屋組は仕事で出ているようだった。
小腹が空いたので、二つあったプリンのうち、一つを失敬したのだが…何かまずかったか?

「それ薬品入りだから…って、こんな時間まで効果出ないなら失敗か」
「それならそれでいい。…でも、何を入れたんだ?」
「ああ、何てことねえよ」

「超強力な下剤」

次の瞬間、アイのやつがタンコブを作って床に伸びていたのは何でだろう。
とりあえず書類を整理してから、キリには悪いがプリンを処分しようと思い、仕事を始めたが。

本業の方でやった、三日間の徹夜が応えたのだろう。
あのプリンを処分し忘れてしまった。
自分の家に帰ってから気づいたことだった。





「ハスの花」①
(by アヤト)

「そういやさぁ、あっくん。君の誕生日って、もうかなり過ぎてたよね~?」

自警団が休みの日、僕とキリさんは珍しく、本っっっ当に珍しく、外食をした。
昨日は待ちに待った自警団の給料日だったため、今日の夕飯は奮発して外食にしようではないか、とキリさんが言い出したからである。
僕としてはせっかくのお給金だ。貯金して、試し読み時代にキリさんが生み出した負の遺産(工場の大穴)を修繕したい。

信じられるだろうか。あれまだ直ってねえんだよ。
「Moon King(新しい方の)」始まってもう半年以上経つのに、まだ直ってねえんだよ。
マッドサイエンティストがいるのに、そいつすら手を差し伸べてくんねえんだよ。
その理由が、「給料と貯金は趣味(=研究)のために使いたいから」だとよ。
そのやる気を副業(自警団の仕事)の仲間内でも見せてみろっつうんだよ。

「理不尽だ…」

ああ、何故にあんなのを雇ってしまったんだろう。
自警団員は、最低でも三人いればいいのに。
何で四人目を、よりによって使えない技術者を…。

「あっくーん、あっくーん」
「…はぃ?」
 
 …いかんいかん。
 最近働きづめだったせいか、妙に集中力がなくなってる。

「…すみません。何のお話でしたっけ?」
「んもう!ボーっとしてないでよ!せっかくの外食だのに!」
「ああ、そうですね…」
「シャンとしなさいな!」

キリさんは質問に答える代りに、僕の肩をポンポン叩いた。

 「ほら、君の誕生日だよ。夏場は祭りだ警備の仕事だ、で、ずっと忙しかったじゃない?すっかり祝うのを忘れてたなー、と思ってさ」
 「ああ、それですか」

 僕自身も、すっかり忘れてた。
 というか、僕個人は自分の誕生日をよく忘れる。
 忙しかろうが、忙しくなかろうが、キリさんに言われるまで忘れている。

 「今更いいですよ。僕の誕生日って、五月だったと思いますし」
 「ごが……ええっ!?」

 僕の言葉で、大急ぎで手帳をめくり、誕生日の確認をした。

 「あっちゃー、ホントだ!どうしよう、もう四ヶ月も経ってるよ!?」
 「あれ、もうそんなに経ちましたか」
 「そんなにって…君ねえ」

 どうしてそう自分の誕生日にドライなのさ?と、キリさんは頭を抱えるものの、ついつい忘れてしまうのだ。
 ぶっちゃけ、誕生日なんてどうでもいいのである。
 その代わり、といってはなんだが、僕には忘れられない日がある。
 そっちのがよほど重要な日だ。

 「そんなことより、キリさん」
 「そんなことって…大事よ?誕生日。おめでとう」
 「ありがとうございます。…で、誕生日よりも大切なこと、というか、大切な日が、もうすぐ来るんですがね。そちらの方は、覚えていらっしゃいますか?」
 「?」

 キリさんは、今までのテンパりが嘘のようなキョトンとした顔になって、僕を見た。
 …まさか、覚えていないとかいうんじゃないだろうか。
 そっちの方が、誕生日を忘れられるよりもはるかに悲しい。

 僕が固唾をのんで見守っていると、キリさんはポン、と手を打った。

 「ああ!三年前、君が正式に弟子入りをした日か!」
 「そうです。よかった、覚えていましたか」
 「もちろん!もっとも君からしたら、もうその一年も前から弟子入りしているような気分かもしれないけどね」
「まあ、そういえばそうですがね」

でも、あの日は僕にとって特別な日だった。
あれはある意味、「運命の日」と言っても過言ではない。

   ◆

(四年前)

「うへぇ~…山道辛いなぁ…」

ユバナと、その隣国の国境付近で、一人の少女がへたばっていた。
少女は、軍人が穿くような太ももにゆとりのあるズボンと、ユバナ独特の形のシャツと厚手の上着という、動きやすそうな格好をしていた。その恰好だけを見れば、やや本格的な秋のハイキングをしているだけともとれる。
だが、服のあちらこちらにべっとりと張り付いた泥や汗、加えて、彼女が背負う荷物の大きさが、ただのハイキングではないことを物語っていた。

少女は、ユバナを出てきたのである。

もうすぐ内戦が起こる、という噂を耳にし、少女は逃げてきたのだ。

(一応ユバナから、隣国のレン国までやってきたけど、そこからカザミ国へ、どう行けばいいんだろう)

レン国、というのは、ユバナとカザミに隣接する小国で、地図を見ると、ちょうど某テーマパークのネズミのキャラクターの顔のような位置関係であることが分かる(ユバナが顔、レンとカザミが耳である)。
ユバナからカザミへ行くには、山脈を越えて行かねばならない上、ユバナ側の関所の取り締まりが厳しくなっている。ゆえに、少女は敢えてレンを通るという遠回りをして、カザミへ入国するつもりなのであった。

だがレンは、ユバナとは別の意味で、通過するのが大変な国なのであった。

その証拠に、突然の突風が少女の身をかすめた瞬間、少女はその場にうずくまってしまった。
別に体調が悪くなったわけではない。自然の摂理で言えば当たり前な、しかし、場合によっては命をも奪いかねないことが理由である。

(寒いッ!)

レン名物の、大寒波である。
ユバナの気候も冷涼なものだったが、レンは「冷涼」なんて言葉では済まされないほど、とにかく寒い。馬鹿みたいに寒い。
雪どころか、寒波が国全体を覆い尽くすだけで、毎年レンを訪れた旅人の過半数が亡くなるほどなのだ。
そもそもこの「レン」という国名にしたって、かつてこの地を訪れた先史時代の修行僧があまりの寒さゆえに、「酷寒の地獄のようだ」という意味を込めて、その地獄の別名をつけたのだという。

(もー、本当に寒いよ!鬼のように寒いよ!いや、「酷寒の地獄のようだ」ってのが国名の意味だからって、ホントに鬼が出たら困るけど!)

むしろこの寒波が鬼そのものだ、と、心の中でのたまう少女は、旅人の中でもかなり元気のある方である。入国して早一週間。被害が頬のしもやけ程度で済んでいるのは、もはや奇跡と言ってもいい。

(鬼ー、出るなよー…)

突風のせいで視界が悪い中を進む少女は、再び心の中でつぶやく。
目は不安で泳いでいるものの、その不安の原因は、吹雪によって視界が見えない事や、寒波で死ぬのではないかということではなく、単に、視界が悪い中、何か得体のしれないものに出くわすのではないかというもののようだ。
どうやら彼女は、恐いものが苦手な質らしい。

「うー…」

恐さと寒さをないまぜにした声を、彼女は漏らした。
時計は持っているものの、壊れて使い物にならない。
直すことはできるのだが、立ち止まると寒いので、直す間さえおしい状態である。

つまり、彼女は時間間隔すら危うい状況で歩いていた。
その危険性を知ってか知らずか、彼女の足は速まる。

(鬼こわいいいいい~~~~!)

…いや、危険性うんぬん以前に、彼女は得体のしれないものに怯えているからこそ、足を速めていたのかもしれない。

(恐い恐い恐い~~~~~!)

まるでお化け屋敷に放り込まれたちびっこのような表情で、ずんずんと彼女は進んでいく。
そんな彼女の耳には、妖怪の声はおろか、人っ子一人の声すら聞こえないのだが。
聞こえるのはただ、吹き荒れる吹雪の音、どこかで軋む気の音くらいである。
それが時々、人の声に聞こえないこともない。

おぎゃ~…

(?)

人の声に聞こえないこともないだろう。
だが時々、冷静になって耳を澄ましてみると、本当に人の声である場合がある。

おぎゃあああ~~…

(ええええっ!?お化け!?)

そりゃこの少女でなくたって、吹雪の中で赤ん坊の泣き声が聞こえれば驚くだろう。
そして、多くはそのまま通り過ぎるか、泣き声の主を突き止めようとする。
だが、少女は筋金入りの怖がりなのである。
恐がりというのは、「恐い」と思ったが最後、突拍子もないことをしてしまうものなのだ。

「うっぎゃあああああああッ!」

まるでホントに鬼に責め立てられているかのような悲鳴を上げ、少女はダッシュで逃げていく。レンの極寒の冷気が肺に入り込むも、そんなこと知ったこっちゃなかった。

「いやああああああああッ!」

逃げて逃げて逃げまくり、少女は息が上がってしまった。

「あ…あっつ…」

さっきまでは冷気に、今は釜でゆでられているかのような熱気に襲われ、少女はくたびれてしまった。

(ドッと汗かいちゃったなぁ。こりゃあかえって冷気にやられる)

今更な不安に駆られるも、掻いてしまった汗は戻せない。
仕方なく少女は、比較的吹雪の来ない木陰に逃げ込み、かろうじて見える切り株に、腰を下ろした。

(汗が引くのを待つしかないか…)

そう言って、切り株に座りなおした。
その時だった。

グラッ…

「へっ?」

切り株は急に、地に深く沈んだ。
そこに腰かけていた少女を乗せて。

   ◆

「ほおおおおおおおおッ!?」

映画やアニメのバトルシーンでもよくあるシーンよろしく、少女は落下した。
普通このようなシーンであれば、誰か受け止めてくれる人物がいてもいいのだが、あいにく彼女は孤独な旅人なのである。ロンリーで仲間もいないこの少女を助けてくれる者など、誰一人としていなかった。

だが、こういったシーンでは、もう一つのパターンも存在する。

「おおおおおおおおおッ!?」

ボフンッ!

「…お…?」

そう。「運よく落下地点に水、あるいはそれ以外の柔らかい何か」がある、ということである。
このパターンがある限り、主人公がたった一人でいる場合であったとしても、落下して死ぬことはない。

「おお…。お約束よ、ありがとう」

少女は自分の幸運に…というか、「物語のお約束」に感謝した。
だが生き延びてしまった、ということは、大抵主人公は「落下異常に嫌なこと・恐いこと」に遭遇する率が高くなるのだが、果たして少女は、それでもいいのだろうか。

「後先考えても仕方がありません…っと。さて、ここはどこだろう」

パンパン、と、軽く尻をはたくと少女は立ち上がった。後先の子とは考えないのが、この少女なのだった。
ちなみに、彼女が落ちたのは柔らかい土の上だったらしく、若干湿り気を帯びていなければ寝床にしてもいいような柔らかさだった。
しかも、今キリが落ちた場所は春のように暖かく、外の極寒の空気が嘘のようだった。

「暗いなぁ。それに、なんでこうも暖かいんだか…」

きょろきょろと辺りを見回す。すると少女は、せっかく尻をはたいたにもかかわらず、またその場へ座ってしまった。

「せっかく吹雪かない場所が見つかったんだもん。時計直そ」

そう言うと少女は、コートのポケットに突っこんだままの時計を取り出すため、ポケットの中を漁り始めた。
少女はこの時点ですっかり、あの謎の泣き声のことを忘れていた。

「時計~、時計~っと…」

ごそごそと時計を探す少女。
だが、肝心の時計はポケットにない。

「あれ?右のポケットでなくて左のポケットに入れたのかな」

そう思い、左のポケットも探すも、

「…ない?」

この時になってようやく、少女は焦り始めた。
コートの裏ポケット、シャツのポケット、ズボンについている多くのポケットも漁り倒すが、それでも見つからない。
しまいには服の中も探してみるも、やはり時計が見つかることはなかった。
これほどまで必死になって探しているにもかかわらず見つからない、ということは、考えられるのはただ一つだ。

「…落ちてくる際に、落っことした…?」

自分の言葉に、少女は恐れおののいた。
少女が持っていた時計は少女自らが改造したもので、文字盤部分にライトが取り付けてあった。
つまりこの時計は、少女にとっては大切な光源でもあったのだ。ランプは邪魔になるうえ、燃料の確保が難しくなるからという理由で、持ってきていなかった。

「どうしよう!手製の電池は持っているものの、肝心の光源がなきゃ意味がない!何のためのライト付き時計だよ!」

少女の大声はワーンワーンと周囲に反響した。どうやらここは洞窟らしいのだが、今どこにいるのかなんて、少女には問題ではなかった。
問題なのは、暗闇の中で時間を知る術と光源、この両方を失ってしまったことである。

「わーーーーん!死ぬううううううう!」

少女は、ぶわっと火がついたように泣き出した。
まだ二十歳にも満たない小娘の泣き顔なのだから、まだかわいらしい…ことはない。
まるで赤ん坊のように手放しに、そして全力で泣きわめいているため、その顔はかわいいの対極にまで落ち込むほど凄まじいものになっていた。

「わあああああああ!」

全身の体力をもってかれても構わない、とでも言わんばかりに盛大に泣く少女。
だが、そんな泣き声も時間が経つにつれ、徐々におとなしいものへと変わっていった。

「…腹減った。ご飯食べよ」

ひとしきり泣いたのですっきりしました、とばかりにケロッと立ち直った少女は、暗闇の中にいるにもかかわらず、しっかり口紐が締められた、小さい方の鞄の紐を緩め、中から迷わず携帯食を取り出した。
この小さな鞄は、万が一暗い中でもものを取り出さなくてはいけなくなった場合でも、迷わず物が取り出せるように、中は固い木で作った仕切りを設けてあった。決まった場所に決まったものを入れているため、取るものを間違うことがないのである。しかもこの仕切りのおかげで中のものはつぶれず、鞄の見た目も美しく保たれているので、一石三鳥だった。
行き当たりばったりの行動をするこの少女だが、それに備え、自分専用の道具をいつも常備しているため、なかなかしぶとく生き延びているのである。

「もっさもっさしてマズぅ…。さすがカザミの軍用食(レーション)。粗悪だわ~…」

空しい独り言とともに、一人ぼっちの食事は進んでいった。
だが、このように気ままな、悪く言えば自分しか見ていない態度でここまでやってきてしまったので、少女は気が付かなかった。
食事こそ「一人ぼっち」でしていた少女だが、この空間では決して、彼女は「一人ぼっち」ではないということに。

おぎゃ~…

「…お?」

おぎゃあああ~~…

「…おお?」

また赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのだ。
しかも、さっきよりもずっと近くから聞こえてくる。

「…まさか、私、一番来ちゃいけないところに来ちゃったん…?」

独り言か、それともどこからか聞こえる泣き声の主に言ったのか。
おそらくは前者の意味であろうその言葉は、洞窟の湿気に溶けて消えていった。

かのように思えた。

『おぎゃあああああああッ!』
「おぎゃあああああああッ!?」

少女の独り言に反応したのか、赤ん坊の泣き声がさらに大きくなったのである。
まるでいつまでたってもお乳はくれない、おむつは変えないことにいら立った赤ん坊が、親を呼ぶためにより必死になって泣き出したような、そんなせっぱつまったような鳴き声だった。
その泣き声に不必要な共鳴をし、少女は弾かれたように、その場から逃げだした。不味い不味いと言いつつ、ちゃっかりレーションを手放さないというのだから、大した度胸(という名のいやしんぼ)だ。

『おぎゃあああああああッ!』
「おぎゃあああああああッ!」
『おぎゃあああああああッ!』
「おぎゃあああああああッ!」
『おぎゃあああああああッ!』
「おぎゃあああああああッ!」

まるでコンサートライブのように、同じフレーズを繰り返すことで、そのたびに盛り上がっていく少女と赤ん坊(仮)。
一回繰り返すごとに更なる盛り上がりを見せる二人だったが、そんなことを繰り返していけば、いずれやってくるのは息切れとスタミナ切れだ。
おそらく赤ん坊(仮)が本当に赤ん坊である場合、そいつはどこかに座っているか寝ているかしているから、まだいい。だが少女は、洞窟の中を走り回っているのである。実を言えばこの洞窟の中は少女が落ちてきたところ以外はゴツゴツとしていて歩きにくいじめんだった。それに加えて、このいらない共鳴。
これだけ無茶をすれば、大人になりきっていない子供の体は音を上げる。

「ひぃ…ひぃ…。も、もう無理…」

とうとうバタンッ!と、その場に身を投げ出して横たわってしまった。
どこをどう行ったせいなのか、より一層赤ん坊の泣き声が大きく聞こえる場所まで走ってきてしまったのだが、少女にとってはもうどうでもよかった。

「食らわば食らえってんだ…!」

やけになってそう呟いてみると、

「おぎゃ…おぎゃ……」
「…あれ?」

突然、自分のすぐ近く…たぶんすぐ隣から声が聞こえてきた。
だが不思議と、「怖い」という気持ちにはなれなかった。

近くで聞こえる赤ん坊の声は、ことさら弱々しいものだったからだ。

「えーと…」

恐る恐る、声が聞こえてきた自分の右隣を見てみると。

「…お?」

赤ん坊がいた。

なぜか赤ん坊の周りがほんわりと光を放っているので、すぐに分かった。
褐色の肌と黒髪の、かわいらしい赤ん坊である。
洞窟の湿気のせいでいくらか冷たくなったいるものの、恐る恐る触れてみた肌はぷっくりと柔らかく、あたたかい。
泣き疲れたのか、その頬には涙の跡があった。

「あは…かわいい」

さっきまで散々怖がらせられた相手に、少女は微笑んでいた。

「はじめまして。私の名前は『キリ』だよ。よろしくね」

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