2017-11

ハスの花②

こんにちは!(或いはこんばんは)
奥貫阿Qです。

今回も今回とて、「ハスの花(連載物)」であります。
この次あたりから話が動くんじゃないかな~という感じです(まだまだイントロダクションレベルという…)。

コンクールから長編続きというのもあり、「そろそろ短編書きてぇ…」と思う今日この頃ですが、この話は何だか書いてて楽しいっす。
末期?…いえいえ、ひとえにキリが好き勝手やってくれているおかげだと思います。そうだと信じます。

では、ボチボチ本編へ!

来週はインテリジェントなキリ(笑)が登場します。
修理屋たるもの、やっぱり知性でしょう!

お楽しみに。



「ハスの花」②

いつに間にか赤ん坊を抱きしめていた少女は、赤ん坊の寝顔を見つめながら考えていた。

「こんな変な空間に一人きり?もしかして君、鬼の子?」

ごそごそと髪の毛を探るも、触れるのは柔らかい髪の毛ばかりである。

「あはは。まさかねえ?」
 
  少女…もといキリは、慣れない手つきで赤ん坊を抱き上げた。抱き上げて見て分かったことだが、赤ん坊はまだ首が据わっていなかった。
グラグラする首を何とか支えるも、上手く支えられていないのか「ぶええ」とぐずられる。

「かわいい…んだけど、何とかぐずんないでくれないかなあ…」

ぶえぶえぐずる赤ん坊に手こずりながら、キリはこの赤ん坊同様気になる、光り輝く地面を見る。
赤ん坊が現れた地面は、蛍のような淡く柔らかい光を放っており、よく見ると寝ていたところには、瓦のような石が散らばっていた。

「ただの瓦にしちゃ随分固そうな気がするなあ。色も白いし…」

だが、これが人工物の一部であることは、何となく察しがついた。
散らばっている石は、どれも柔らかい曲線を描いており、薄っぺらい。色は自然にできたとは思えない綺麗な白だった。色だけ見れば、まるで石膏のようにも見える。

「大理石みたいに硬くて、石膏みたいに白い石か~。そんなの知らないよ」

考えてもラチがあかないので、ひとまず赤ん坊をどうにかすることにした。
何度抱き直してもぶえぶえと返事が返ってくるだけだったが、20回近く抱き直しを試みた時、ようやく居心地のいい抱っこになったらしい。
抱き直した途端、ぶえぶえという声は止み、代わりにすやすやと指をしゃぶりながら眠ってしまった。

「…すっかり疲れさせちゃったみたいだね。ごめんね」

時々もそもそも動く唇がかわいらしかった。
この子とこの石に関係があるのかどうかは分からないが、今はこのまま寝かせておこう、と、キリは赤ん坊を抱き、その場に座った。

だがその途端、

「ぎゃあぁあ!」
「ええっ!?なぜ!?」

火がついたかのように、赤ん坊が泣き出した。凄まじいまでの元気いっぱいな声で、確実にキリの鼓膜を際悩む。

「…これが本当の地獄か…!」

両腕は赤ん坊を抱き抱えているため、耳を塞ぐことはできなかった。
立ったり座ったりという動作だけでも赤ん坊はぐずる。このことをキリが知っていればよかったのだが、十代後半で、しかも今まで育児とは無縁の環境に彼女は身を置いていたのだから、知らなくても仕方がないのかもしれない。

「もぉ、どうしたの?」

よしよし、と赤ん坊をあやしてみるも、一向に泣き止む気配はない。

「そんなに泣かれると、こっちまで悲しくてくるよ…」
「何情けないことを言ってるんですか、お母さん」

突然声が聞こえてきた。
驚いて赤ん坊の方を見るも、赤ん坊は泣いているだけだった。そもそも、赤ん坊が喋るわけがない。

「私ですよ」

再び声がした。どうやら後ろから聞こえたようなので、慌てて後ろを振り返ってみる。
そこにいたのは、カンテラをぶら下げ、しっかり防寒している若い男性だった。服の作りから、多分レンの住人だろうか。
しっかり防寒しているにもかかわらず、頬が霜焼けになっているとは。さすがレンの寒波は侮れない。キリは密かに恐れおののいた。

「切り株に仕掛けた落とし穴に、何かが引っかかったので、どなたかが落ちてしまったようなので見に来たのですが…落ちたのは人だったのですね」
「ええと…はい」

若い男は人懐っこそうな笑みを浮かべながら、キリに話しかけてきた。
その笑みは、ユバナにいた頃、特に親しくしていた人物と重なるようで…キリは鼻の奥がツンとした。
彼女は慌てて鼻をすすり、泣きたい気持ちを誤魔化した。
何せ今は、アホみたいにボロボロ泣いている場合ではないのだ。
目の前には見知らぬ男。一方でこちらはただのガキなのだ。おまけに今腕の中には、首の座っていない、頼りない自分よりももっと頼りない存在がいる。
自分がしっかりしていなければ、どうなってしまうかも分からない。

「あんたはレンの人?何で落とし穴なんて作ったのさ?」

キリは精一杯虚勢を張った。バレバレかもしれないが、それでも何もせずにビビっている様を見せつけるのはあまりにも情けない。キリはまだガキだが、もうちみっちゃいお子様ではないからだ。それに第一、こんなことでいちいち反応してしまうほど、キリは世間を知らない訳でもなかった。

が。

(可愛らしい人だな…)

男はキリに見惚れていた。
キリとしては、今の自分はギロリと相手を睨み、「いかにも世間の荒波に揉まれてきた」風に見えるように、ふてぶてしく口をゆがませているつもりだった。お情け程度のものだとしても、少しでも相手に「自分は敵に回したらやっかいな奴ですよ、危険な奴ですよ」とアピールしたいがためである。
ところがこれは、キリのとんだ勘違いであった。
キリ自身は「ギロリと相手を睨」んでいるつもりだったが、男からしたら「何かちょっと不機嫌そうな顔」…何とも言い難い表情だが、近いものをあげるとすれば、「拗ねている」ような顔にしか見えなかった。
更に、「『いかにも世間の荒波に揉まれてきた』風に見えるように、ふてぶてしく口をゆがませているつもり」だった口元さえも、男から見てみれば「口を尖らせて」いるようにしか見えていなかった。
加えて彼女の年の割に子供っぽい容姿と、腕の赤ん坊をあやしているという微笑ましい姿の方が目立っていた。いくらキリが「自分は敵に回したらやっかいな奴ですよ」とアピールしたくても、あまり意味がない状態だ。
いや、もうはっきりと言おう。
今のキリには「危険な奴」という雰囲気魔微塵もない。
ただただ可愛らしいだけである。
それをキリに知らせるものが誰もいない…というのは、中々虚しい状況だった。

「はい。私はレンの者です。妹と二人で宿を営んでいるので、宿に使う食材を獲るために人気が少ない場所に罠を仕掛けたのです」

本人が意識してすらいない長所が功を奏し、男もその様子に密かに和まされていた。警戒する素振りも見せず、キリの質問にしっかりと答えてくれる。…キリは逆にその対応が怖かったが。あの笑顔でなぜ、こんなアホみたいに深い落とし穴が掘れるのか。しかも、広々とした洞窟に直結させるという、滅多に見ない凶悪な落とし穴をだ。

「ああ…でも、深くない?見たところこの落とし穴、入り口から地面まで10メートルくらいあったようだけど」

警戒を解くことなく、キリが自分の上の空間を顎でしゃくる。
もう落ちてきた穴は見えないので、今いる空間がせまいのか広いのかは分からない。しかし落ちてきた時、天井にポッカリと開いた穴を見上げた時、確かに10メートルくらいあると感じたのだ。
キリは、ユバナでは軍の小間使いとして働いていたが、その職につく前は、修理屋の工房に弟子入りしていたのだ。並の人間より、ものの大きさ、長さ、特性を見る目は肥えている方だと思っている。

「ああ、それは作った私も驚きました。掘ったのはたかが5メートル程度の落とし穴だったのに、いつの間にかこんな深さになっていたのですから」
「…え?どういうこと?説明してもらえる?」
「説明すると長くなりますが…。じゃ、どうです?ここは暖かいとはいえ、赤ちゃんにはあまりいい場所ではありませんよ。うちの宿にいらっしゃいませんか?」

その言葉を聞き、キリは今度こそ怪訝そうな顔をした。
こんな訳の分からない話は、算数の教科書以外知らない。まさかこの男は、たかしくんだかひろしくんだかが家を出た時に穴は5メートル、20分後学校に着いた時にはBメートルでした。さて、穴は何メートル伸びたでしょう?という問題でも出す気なのか。宿屋というのは嘘で、ホントは学校を中退したキリを戒めるために遣わされた、教科書専門の出版社の回し者なのではなかろうか。だから敢えてこんな落とし穴掘って待ち構えていた訳か!そういうことか!!

「今更義務教育には戻らねーよ!」
「何をおっしゃっているんです!?」

  ◆

「…何だ、あんた教科書会社の回しモンじゃないのか」
「だからそう言ってるでしょう?」

説得に次ぐ説得を重ねて落とし穴から出てもらい、更に自分の誤解を解くために説得に次ぐ説得と説得を宿に着くまでに行う羽目になった男は、まだ昼間にも関わらず疲れ果てていた。
説得をする間も、キリが
「今から学校行っても給食費払えねーよ!貯金はたいて工面した旅費しかねーもん!」
やら、
「学校に託児所はあるのか!?ないならこの子はどうなるんだ!」
やらを言い出し、終いには赤ん坊を抱いて、
「入学して四年間、一度も夏休みの宿題やらなくてごめんなさい!御慈悲を!」
と、膝を折って拝み出す始末である。
幸い、拝む時赤ん坊を包んだおくるみを地面につけない程度にペコペコする、という理性は残っていたようだが。

「よほど四年間の学校生活が嫌だったんですね…」
「いや、学校自体は大好きだったよ。勉強が嫌いだっただけで」
「そうですか…」

心身ともにくたびれ果てた男にとって、もはやどうでもいい情報であった。

「もう兄さん。見た目の可愛さにほだされたからこんな目に遭うんでしょ?」
「ほだされてない!」
「嘘言いなよ。がっつり兄さんのタイプの人でしょうが!」

バシン!と景気よく兄の背をひっぱたくこの少女が、どうやらこの男の妹らしい。
(私、ガキっぽいって言われたことは多いけど、「見た目が可愛い」なんて言われたことないなぁ…)と、キリは思うものの、どうやらこの国では自分は「可愛い」といわれる部類に入ると知り、嬉しくなった。どちらかいうと、「可愛い」よりも「綺麗」とか「美人」とか言われるほうが、キリにとっては嬉しかったが。

「すみません。兄、こう見えて惚れっぽい質なんです。気を悪くされないでくださいね」

背中をさする兄に代わって、妹が深々とお辞儀した。
見た目は10代半ばか後半くらいだろうか。キリと大差ない年に見えるのに、ずいぶんしっかりした人だった。

「いやいや、大丈夫ですよ。私だってご迷惑をおかけしましたしね」

手を振り、ついでに笑顔も振り撒き、キリは愛想のいい返事をした。
断っておくが、キリはおべっかをしたいがためにこんな返事をしたわけではない。これは天然ものの反応だった。
小間使いとはいえ、一応軍に関係のある身分にありながら、キリは比較的人懐っこい性格だった。極端に言えば、「(安全な)人間」と認識したものであれば、大抵彼女の反応はこんな感じだ。「犬が人に尻尾を振る理由と同じ」、といえば分るだろうか。
もっとも、「人懐っこい」とはいえ底抜けの馬鹿ではないので、善人と悪人の区別はつけられるが。

「聞けば、あなたのお名前すら伺っていないといいますし…」
「ありゃ?そういえばそうでしたかね。…あっ!でも、私も忘れていましたよ。あなた達のお名前を聞くのを」

今更ながら慌てて、「失礼しました」と、キリが本当に失礼なことをお詫びしても、相手はまだ腰が低いままだった。
まさかとは思うが、この兄の「惚れっぽい質」とやらは、今までかなりの迷惑をかけてきたのか。兄はいかにも好青年然としていて、決してそんな風には見えない人なのだが。

「でもそれだって、兄の態度が原因でしょう?人様の奥様に色目を使うだなんて…」
「え?」

「奥様」という単語に、キリは反応した。
何故自分が「奥様」と言われるのかが分からなかった。

「私、まだ独身ですよ?」

妹御が何か誤解をしているようなので、キリはすぐに返事を返した。

「えっ、じゃあその子は?親戚の子ですか?」
「それも違います。実はこの子、あの洞窟で拾ったんですよ。突然現れた上に、ぎゃあぎゃあ泣いてかわいそうだったんで、連れてきました。洞窟に置き去りというのもあんまりなので…」

そう言った時だった。
今まで穏やかな(妹はぺこぺこ頭を下げていたので、そうとも言えないが)雰囲気だった兄妹の表情は、一瞬にして険しいものになった。
その変化に戸惑うキリの前で二人は視線を交わすと、妹が席を外し、さっきまで散々な言われようだった兄が、さっきまで妹が座っていた席に着く。

「お母さん…いえ、お嬢さん。先ほど宿に来たら話す、と言っていたことを覚えておいでですか?」
「え…。5メートルだった落とし穴が10メートルになったという話ですよね?覚えていますが、どうかしたんですか?妹さんもあなたも」

突然変わった雰囲気に未だ追いつけないまま、きりは質問した。キリの不安を察知してか、赤ん坊までぐずり始める。
兄はその赤ん坊を見ながら、話しだした。

「深い訳があるのです。そして何より、あなたが落ちたあの落とし穴のことと、その赤ちゃんは、十中八九関係があります。…この国の、古い言い伝えですがね」

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