2017-09

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ハスの花⑤

みなさんこんにちは(或いはこんばんは)
奥貫阿Qです。

台風尽くしの日々が終わりましたが、みなさん、いかがお過ごしでしょうか。
関東圏の大学生のみなさんは、ずいぶん悔しい思いをされた方が大多数だと思いますが…。
私としては、無事に台風が去ってくれたのは嬉しいのですが。
あれですね。台風明けの強風。あれに苦しめられました。
歩くのもしんどく、髪が口に入るのもしんどく、更に言えば、当日は休校だと思ってサボりにサボりまくったゼミ発表のレジュメの準備もしんどかったです。

発表自体は楽しかったのですが、やはり台風が来ると、いいこと無いんだなあと痛感した日となりました。

さて。作者の愚痴はこれくらいにして、ぼちぼち本編へとまいります。
寝不足のせいで色々テンションが変になった人物が書いた作品ですが、今週もよろしくお願いします。

来週はインテリジェントver.キリ女史(「女史」って言葉はあまり好きではないのですが)、復活いたします。

≪お知らせ≫

ここ最近、ブログ拍手の数が更新するごとに伸びているのを感じ、嬉しく思っています。
拍手をくださった方々に、この場を借りてお礼申し上げますm(₋ ₋)m
今後も、駄文ではありますが「Moon King」と、今連載しております「ハスの花」シリーズを、どうかよろしくお願いいたします。



ハスの花⑤

(バレるよ~…嘘がバレるよ~~…)

見た目三歳児の赤ん坊を前に、キリはウロウロと部屋を行ったり来たりしていた。
血の気が引いた顔に滅多に見せない渋面を貼り付けた彼女の顔は、中々奇妙なものだった。しかもだ。そんな存在が、まっすぐと花道を行く歌舞伎役者よろしく部屋の入り口から向かいの壁まで歩いているのだ。奇妙を通り越して、いっそ滑稽だった。
元赤ん坊は、状況がよくわかっていないゆえ、この一人芝居を文字通り、指を加えて見ているだけだったが。

(どうしよう…。タケノコじゃあるまいに、赤ん坊が一夜でこんなに大きくなるなんてありえない!これじゃもう隠し切れないじゃないか!)

顔面は蒼白でも、頭は熱湯のごとくぐらぐらしていた。予想だにしていなかった事態が起こり、キリの脳の許容量はもう飽和寸前である。
だが、飽和寸前の脳であっても、今最も大切な事柄だけは、キリの頭に浮かんできていた。

(一応喋れるくらいの大きさだけど、まだまだちっさいよなあ。こんなんじゃ追い出されたとしても、この子の体が持たない。何とかもう少し、ここに居座らなきゃ…)

キリは、赤ん坊のことを考えていたのだ。小学生時代は、「ユバナのうつけ者」と、やはりホトトギスに縁のある戦国武将のような呼ばれ方をされていたキリだが、キリには赤ん坊を捨てようなどという気持ちは、不思議と微塵も起こらなかった。それは、彼女が本物のうつけ者だからか、はたまたレンの鬼が持つという、災厄を呼ぶ魔力のせいか。現時点ではよく分からなかったが。

(とにかくアレね。まず第一なのは、どうにかここに留まるということ。せめて今日一日だけでいい。一晩でニ、三歳分大きくなったんだ。この調子で成長が続くなら、明日には多分五、六歳くらいにはなってるはず。それくらいでかくなってるなら、多分、ここを出て行っても大丈夫)

長考に入っていると、突然目の前で、屋根の雪が落ちた。
それが面白かったのか。元赤ん坊が手をバタバタ振って喜んでいた。
が、あんまり激しく動くので、ただでさえパツパツになっていた服のボタンが二つ三つ弾けてしまった。
そこでキリは、漸く気がついたことがある。

「忘れてた。この子の服…」

よく考えると、これもまた、目下の課題だった。昨日はこの宿にストックしてあったベビー服を借りたからいい。だが今日はそうもいくまい。服を着ていた当人は、もはやベビーとは言い難い大きさなのだから。

「…しゃーない。とりあえず私の服着せとこう。女物とはいえ、まだチビには余るサイズだろうし…」

ベストとは言い難いが、とりあえずベターな答えを弾き出し、キリは元赤ん坊の服を着替えさせにかかった。
だが、この「服を着替えさせる」という行為にも問題がある。
実はキリ自身は、まだ一度もこの元赤ん坊の服を着替えさせたことがないのだ。
昨日服を着替えさせたのは、小さなイトコが多く、小さい子供の面倒を見慣れた妹だった。キリは彼女の手つきを見て、ベビー服の着脱を手伝っただけである。
つまり、現時点でキリは、ベビー服の着脱のさせ方をよく知らないのである。
ついでに言うと、元赤ん坊にオムツをつける時には、兄が「まだチェクインしてない」とか言い出したせいで、結局妹にオムツをつけてもらった。キリは今日まで、赤ん坊の性別すらも知らない状態だ。
そんな状態で、とりあえず他のボタンも外そうと試みる。

「あれ…。これどうやって脱がせたらいいんだろ」

案の定、大人の服とは勝手が違うベビー服に苦戦していた。レンのベビー服は、ユバナのものとは違い、寒くとも赤ん坊が冷えないように、生地は分厚く、そしてとにかく脱がせづらくなっているのだ。
脱がせやすさ優先だと、赤ん坊が寝返りをうった際、ベビー服が肌蹴るということがよくあったためだという。
キリは慣れないなりに頑張って脱がそうとするものの、ボタンの穴は小さいし、生地が多層構造になっている。その上、層ごとがまたしてもボタンで繋がっているため、教えてもらったのにやることができないでいた。おまけに今このベビー服は、着ている者がそれなりの大きさになっているので全体がパツパツだ。余計に着脱が難しい。
結局キリは、一部のボタンを外すだけで、すでに数十分の時間を要してしまった。
最初は根気良く付き合ってくれた元赤ん坊も、だんだん焦れてきていた。いつまでも何やってんだ、とばかりに愚図り始め、キリの元から逃れようと、もがき出す。

「危ない!ベッドの端の方で暴れないで!」
「やああぁぁっ!」

キリも、なんとなく昨日の暴れぶりで予想してたが、元赤ん坊は一度愚図り始めたら止まらなかった。
終いにはキリの予想を遥かに上回るほど、手を振り回し足を動かし、褐色の肌が赤っぽく見えるほど怒り出した。もう完全に集中力が切れていた。元赤ん坊はキリの手から逃れ、自由に動き回りたかったのだ。

「あとちょっと!あとちょっとだから!ね?」
「やぁああぁぁっ!」

赤ん坊はより一層激しく暴れて抵抗し出した。

「ああもう!これじゃあどうしようもない!」

結局、このベビー服はキリには扱えなさそうだった。
もうボタン外しは諦めて、ハサミで切って脱がせることに決めた。貸してくれた妹には申し訳なかったが、それしかやりようがない。

(で。どうやってこの子を大人しくさせるか…)

元赤ん坊は、一本釣りされたマグロのごとく、バタバタ活きがよい暴れっぷりを見せている。
キリはこの怒りっぽい子供を宥めさせる術は、まだ知らなかった。

(ええい!知らないこととやらないことじゃ訳が違う!とりあえず、小さい子供が気を引くものを見せてみよう!妹さんから、おもちゃも貰ってきたし!)

キリはかぶりを振った。思っていた以上に激しい駄々っ子の叫び声と暴れっぷりに、心が折られそうになったが、
「私以外に誰が面倒見るんだ!」
と、自分に言い聞かせ、何とか心を持ち直した。

「ほら、チビちゃん!あとちょっとで終わるから、このボールを持っててくれるかな~?」
「やぁっ!」
「そんなこと言わないで、ほら!音も鳴るよ~?」

シャラシャラ、と、ボールを振り、中に入っている鈴を鳴らしてみせた。
一見音が鳴りそうもないフェルト製のボールから、涼やかな音がしたのにビックリしたのだろう。元赤ん坊は暴れるのをやめ、食い入るようにボールを見つめている。

「気に入ったのなら、あげるよ」

キリがそう言ってボールを掲げてみせると、元赤ん坊の瞳が輝いた。

「でもその代わりに、私が『いいよ』って言うまで、お手手以外は動かしちゃダメ。約束ね」
「えー?」
「『えー?』じゃありません~。交換条件なんだから、破ったら没収!」
「ぶう!」

昨日に引き続き不機嫌になったものの、元赤ん坊はキリの言うことを聞く気にはなったようだった。憮然とした表情でキリからボールを受け取ると、手以外は動かさず、大人しくいじくり始める。

(よかった。分かってくれたか分からないまま渡しちゃったけど、言うこと聞いてくれてる)

キリはその様子に安心し、

「服切るから動かないでね。ハサミ使うから危ないよ。お肌切れちゃうよ」

と、ボールを愛でる元赤ん坊のツムジに声を掛け、自分の作業を開始した。

(あれ?そういえば…)

ハサミを器用に操りつつ、キリは内心、首を傾げた。
先ほど見た元赤ん坊のツムジ。見間違いならいいのだが、何だか髪の根元が白くなっているようだった。それに気のせいかもしれないが、今足の付け根の部分を切っていて、元赤ん坊の足に目をやった時、右足と比べ、左足の方がやや小さい感じがした。

(…まさかねえ?)

赤ん坊のことを気にしているくせに、キリはこの些細な変化については見逃すのだった。



ボールのおかげで無事に服を着替えさせられた。服動揺小さなサイズになっていたオムツも取り、元赤ん坊はようやく解放されたのである。
余談だが、オムツを取るのは、またしてもキリ自身がやったわけではない。キリがオムツを外そうとしたら元赤ん坊自身が自分でオムツを取ってしまったのだ。
まだ大人しくしていなければならないのかと思ったらしく、焦って取ってしまったのだろう。
そのせいでベッドを汚されてしまったが、これは待たせた自分が悪い。そう思い、キリは元赤ん坊を強くは怒れなかった。
元赤ん坊を抱っこしてベッドから降ろし、布団カバーを兄妹に渡しに行くしかなさそうだった。
ちなみにオムツを取ったことで、ようやく元赤ん坊の性別を知ることができた。元赤ん坊は、キリが昨日呼んだ通り、坊ちゃんだった。



服の事情がどうにか解決してくれたので、ひとまず朝食をどうにか調達してくることにした。
調達というからには、食堂に行って食べてくるわけではない。どうにか理由をつけて、部屋に食事を持ってくるという訳だ。
色々悩んだが、キリは結局、よくある手ではあるが、「元赤ん坊目を離したくないから」と、朝食を部屋に持って帰ったのだった。
普通は怪しまれそうなことだが、今日に限ってそれが怪しまれず簡単にできた、というのも運がいい。
実は、今日は偶然にも、季節外れの落盤がこの付近の地域で起き、そのせいで、今、ここいらの宿という宿が、落盤事故に当たる人々の休憩場兼情報交換場所代わりになったのだ。どうやらよほど大きな落盤事故だったらしく、比較的小規模なこの宿は、人が鮨詰め状態になっていた。
ぶっちゃけ言って、接客サービスどころではない。
元々キリ達しかこの宿にいなかったので、「宿に遠慮して」という雰囲気をそこはかとなく出して、部屋に戻ってきたのだ。

(ただな…。これじゃあ暫く足止め食らうかも)

それだけが心配だった。最も、赤ん坊の成長に気がつけば、否が応でも放り出されるだろう。その頃には赤ん坊はデカくなってるだろうし、当初からレンには一時的に留まるだけの予定だったので、放り出されても不都合はないのだが。

(でもなぁ。落盤事故の後にここを出ることになるのなら、一応それなりの覚悟をしておかなきゃ。次の落盤を心配しつつ、子連れで国を出るのなら、気を引き締めて行かなきゃだし)

ぶつぶつと、頭の中でだけ独り言を呟きながら、キリは部屋の扉の前に立った。

「いよっ…と」

レン特有の分厚い陶器の器が四つ乗ったお盆を片手に持ち、キリはドアノブに手をかけた。できることなら元赤ん坊に空けてもらいたいところだが、何分彼はまだ小さいため、ドアノブには背伸びをしても届かない。しかも、たとえドアノブに背が届いたとしても、この子供の異常成長を悟られるわけにはいかないため、やはり彼にドアを開けさせるわけにはいかない。

(せめてこの子がこっちの事情を分かるくらいの大きさになったらいいんだけどね~)

今すぐは無理な願いが浮かぶが、現実はそう上手くはいかない。
そんなことはとうに分かり切っているのだが、それでも、これからの苦労を思い、溜息は出てくる。元赤ん坊に聞かれないよう、そっとそれを吐き出してから、右手でポケットの中の鍵を探った。
お盆で不安定になる左腕を心配しつつ、そのまま鍵を鍵穴に差し込もうとした。
が。

ガチャッ

(…おっ?)

キイィ…

(おおおおおっ!?)

まだ鍵すら開けていないのに、ひとりでにドアが開いた。

(お、おお、お化けっ!?)

その有り得ないドアの動きに、キリは昨日、自分が最も恐れた存在を思い出した。
とにもかくにも、彼女はお化けなんて大っ嫌いなのである。

(ひええーーーーッ!!)

あまりの恐怖で、お盆を片手で抱えたまま、そこで硬直するキリ。
扉はどんどん開いていき、やがて、人一人がやっと通れるくらいの幅まで開いて、止まった。

「…キリさん。どうぞ通ってください。お盆を抱えたままじゃ重いでしょう?」
「…へェ?」

ひとりでに開いた扉の向こうから、少年の声が聞こえた。声の主は、きっとまだ小さい子供なのだろう。甲高く澄んだ声で喋りかけてくる。
まるでさっき元赤ん坊に渡したボールの中にある、鈴のような可愛らしい声だった。
それに対し、アホの権化のような間の抜けた声で返事をした十代後半、成人するまで残り五年を切った少女はポカンとその場に立ちすくむ。

「ええっと…。何、入ってもいいん?」
「そのためにドアを開けたんです」

何とか、からからに乾いた喉の奥から声を絞り出すと、ややムスッとした返事が返ってきた。この短気さ、不機嫌になるまでの時間の短さ(いや、それが「短気」か)。この特徴だけ言えば、昨日と今朝とを共に過ごしたあの子供と重なる。

(いやいやいや!ないよ!それだけはない!)

もう散々予想外の出来事が勃発しているにもかかわらず、キリの脳は予想できる事態を真っ向から否定した。

(そうだよ!これ、入ってみなきゃ部屋の中で何が起こったか分かんないじゃん!確認してからでも遅くはないじゃん!)

再び、というより、三度以上に亘って問題を先送りにしたキリは、またしても現実から逃げ出そうとしていた。

(いざ、入らん!)

無理やり現実から逃げ切ったキリは、お盆に気を付け、そうっと部屋の中に入った。

「キリさん、おかえりなさい」

(…おおう)

そこにいたのは、先程キリが元赤ん坊に着せたシャツを身に着け、いつ荷物をあさったのか、キリのズボンを穿いた少年だった。年のころは7歳から9歳の間くらいであり、肌は褐色、ツムジから頭頂部周辺までの髪の色が白くなっている。足は、左右が非対称の長さで、片足ケンケンのような立ち方をしている。
この見た目の特徴はほとんど、キリが世話をしてきた子供とモロにかぶっているものばかりである。

(チクショオォォ!別な意味で現実は上手くいかねえぇぇぇ!)

本当の意味で見違えるかのような急成長を遂げたその子は、呆然とするキリからお盆を奪い取り、さっさとテーブルの上に乗せてしまう。

「さぁ、冷めないうちに食べましょう?…ってあれ、一人分だけですか?僕の分はないんですか?」

しかも、かなりしっかりした子だった。

「キリさん、キリさん」
「は…。うん。ごめん」

服の裾を引っ張られて、キリはようやく我に返った。

「それは君のだから、食べていていいよ。私は今日はそっちを食べる」

そう言ってキリが指差したのは、器の一つ。赤ん坊用にこさえられた重湯だった。

「重湯じゃないですか。おなか一杯になれませんよ?」
「ん。いいの。ちょっと食欲なくてさ…」

流石に昨日今日いろいろありすぎて…とは言えず、キリは黙って着席し、もそもそと重湯をすすり始めた。

「キリさん、ちゃんと『いただきます』を言ってください」

昨日は首も座らなかった赤ん坊であった少年に、キリは叱られた。
いつの間にか、「叱る・叱られる」の関係にまで、変化が生じ始めているようだった。



「いいかい、君」

朝食をとり終わり、汚れた布団カバーも出しに行ってようやく、キリは平常心を取り戻すことができた。居住まいを正し、いつにない真剣な表情で少年を見ていた。
対する少年も、大人一人前の食事をぺろりと平らげ、今キリの目の前に座っている。
少年も真剣なまなざしでキリを見つめ返しているが、まだ使い慣れない食器に苦戦したため、頬にご飯粒が付いていた。そのせいで、真剣みを帯びた表情であるにもかかわらず、見るものが見れば、どこか愛らしい印象を与えるだろう。
キリは自身もその姿に内心和まされてはいるのだが、話し合いの席ゆえ、そんなことはおくびにも出さない。居住まいを正したまま、少年に言うべきことを言う。

「大切な報告をします。諸事情のため、今日中に荷物をまとめ、この国を出ようと思います」
「え…。本気ですか?」

国を出る理由を思いつけない少年は、キリに向かって渋面を作った。

「本気も本気よ」
「何だってこの国を出るんです」
「うーん…」

そう聞かれることを覚悟してはいたが、いざ本人の口から言われると悩んでしまう。
果たして、この子自身に関係がある話とはいえ、子供に「レンの地獄」の話をしてよいものか。それに、彼自身の成長の話も。

「旅の道すがら、じゃダメ?」
「ダメです」

キッパリと言い切った子供に、キリは首を垂れた。
子供とはいえ、やはり事の当事者なのだ。遅かれ早かれ真実は伝わる。そして、伝えるのが遅いほど、多分彼は傷付く。
ならば、やはり今言うべきか。

「じゃあ、理由を話すよ。けどね…」

辛い話をするよ?
と、キリが言おうとした、その時だった。

『お客さん、困ります!』
『いいから出せ!分かってんだろ!』

フロントの方から、男二人が争う声が聞こえてきた。
うち1人は兄の声だが、もう1人は、キリには聞き覚えがあるようなないような…そんな声だった。
続けて聞こえてきたのは、皿が割れる音と、家具か何か重い物が倒される音だった。

「ごめん、ちょっと様子見てくる。君はここで待ってて。ドアに鍵をかけておくから、私が開けろって言うまで開けちゃダメだよ」

少年を1人その場に残し、キリは部屋を出て、フロントをそうっと、物陰に隠れて覗き見た。

その瞬間、キリの瞳孔、心臓までがキュッと縮んだ。そして次の瞬間には、それらが熱を帯び、カッと熱くなる。
まるでドライアイスを持った時のような反応は、たちまち全身に現れた。キリは、ここに留まり続けるのは危険、と熱くなる頭で判断し、その場を立ち去った。

「…戻ったよ。開けて」

普段の自分ではあり得ない冷淡な声が出て、自分のことながらビックリしていた。

ガチャッ

静かにドアが開いた。ドアを開けてくれた少年は、キリの顔を見上げると、一瞬ビックリし、次の瞬間には怯えた顔になった。自分では分からなかったのだが、どうやらキリは、今よほど怖い顔をしているらしい。
そのまま黙って部屋に入ると、元通りに鍵をかけ直し、部屋に置かれているソファに座った。

「キリさん…」

怯えたままの顔で、少年が近寄ってくる。

「…うん」

怯えている少年に、今の自分の状況を伝えたかった。だけどこればかりは、これだけは子供に全てを話す訳にはいかない。

自分が見てきたあの男は、お人好しのキリが恨みに恨む相手で、その一方で、今キリは、その男から逃げている真っ最中だということは。

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