2017-11

ハロウィン短編・二本

こんにちは(或いはこんばんは)
奥貫阿Qです。

早いもので、もう十月末ですね~。
場所によってはイルミネーションが飾られ始める時期になってきましたが、私はこの期に及んで、まだ夏を偲んでおります(苦笑)
ゼミ合宿やら映画やらコンクール作品の制作やらで忙しい日々でしたが、珍しく充実していたお休みでした。
ただ、休みの最後あたりがバタついていただけで(ーー;)

ですが不思議なことに、いつもは休み明けは体調を崩しているのに、今期だけはそんなことがなかったんです!
あれは夏の気候云々ではなく、(珍しく)忙しいまま秋に突入したおかげで、わりかし健やかに日々を過ごせているのかもなぁ、と、今更ながら感じています。

さて、そんなテンションのままやってきました十月末。
暫く季節ネタをやっていなかったので、「ハロウィン」をテーマに作品を書いてみました。

しかも二本!
どうですか、連載作品の7話目も書きかけだというのに。無謀でしょう(笑)

ですが、せっかくのハロウィンならば、やはり怖い話だの、魔人だの、閻魔だの(あ、これは単独作品「二代目の閻魔」の話です。たぶん、未分類のカテゴリの中におわしているはずです)を書いている私としては、避けてはいけない気がしまして。
お盆でサボってしまった分、今回こそは上げてやる!と思い、滑り込んでまいりました。

急ぎ足な分、出来が心配な作品たちですが、それでもご覧いただければうれしいです。
では、そろそろ本編へどうぞ!

次回は今週の金、土、日のいずれかに上げる予定の、「ハスの花⑦」でお会いしましょう!



〈ハロウィン短編・二本〉

一、「プリンの話・再(或いは「化け猫考」)」

「プリンが食べたい」
(byアヤト)

某日、我らが自警団が事務所の中でのことだ。
再び、キリさんがこんなことを言いだした。
いつぞやの腹痛事件の前と同様、ジョジョ顔、ゲンドウポーズもそのままに、キリさんはテーブルに肘をつき、目の前にいる人物に対して更に言葉を続ける。
 
 「あ。言っとくけどプリンと言ってもあれだからね?今回食べたいのはパンプキンプリンだからね?決して前と同じネタを繰り返そうなんて下衆なこと思ってなんかないからね、」
 「虚空に向かって何ぶつぶつ言ってんだ、お前」

 この返事をしたのは、僕ではない。
 今回僕は、キリさんが溜めに溜めに溜めた書類整理で忙しいからだ。
 …と、いうのは建前で。
まあ、忙しいのは事実だ。この間キリさんが部屋に籠っていたせいでお流れになってしまった、MK分団との共同演習の実施日をもう一度練り直さなければいけない。そのための書類もある。
だけど、別に急ぎではないんだよな。
急ぎじゃないけど、「忙しい」を口実に僕は、上司と書いてバカと読む女から逃げています。嘘も方便、安全第一さ。
そんな、無言で「逃げ」の姿勢に入っている僕の代わりにキリさんとお喋りしているのが、今キリさんの目の前にいる人。

「今カーペットの毛玉数えるんで忙しいんだけど。私」
「何か無言だと思ったらそんなもん数えてたの!?」

そう、キリさん意外に第一人称で「私」を使う人物は一人しかいない。
ユバナ国が元軍人、ミハエル女史だ。
通称、「ミカ」。

「た…楽しいわけ?そういうの」
「いや全く」

じゃあ何故毛玉なんぞ数えてんだ、と言うなかれ。
彼女がこの自警団に入って、早くも半年以上が過ぎた。
その半年間のうちで知ったんだ。彼女はこういう人物であると。
はっきり言ってショックだ。

「私のことをとやかく言えるのか?自分はあらぬ方向を向いて独り言を言っていたのに」
「あらぬ方向なんて向いてないし、独り言なんて言ってないよ!全部あんたに向かって喋ってたんだけど!?」
「聞いてない」
「ンナ!?」

こっ酷い返答にキリさんは、彼女の名と同音の植物の葉のように青くなった。
喚き散らすのかも、と思い、僕がこっそり引き出しの中から耳栓を取り出したら、それとほぼ同時にミカが、膝の上に乗せていた雑誌を広げた。
何の雑誌かは分からないが、そこには「今秋注目のスイーツ~人気店のプリン特集~」なる文字が、ポップなフォントで踊っていた。
それを見た我が上司であり師匠である女は、面白いくらい簡単に溜飲を下げた。
ついでに眦も下がり、まるで時間が逆行したかのように色味が戻っていく。
…全く。我が上司のことながら恥ずかしい有様だ。

「まあ、いいや。それよりもパンプキンプリン食いたい。食おうぜ」
「いきなり青くなったかと思いきや、いきなり喜びだしやがった。情緒不安定か」

誰のせいだよ、誰の。

「食いたきゃ勝手に食え。お前のことだから、どうせ中身くらいはもう作ってあるんだろ」
「そうそう。…って、え?」

キリさんの瞳が急にまん丸くなった。
僕も、内心ちょっと首を傾げている。
「中身くらいは」って何だ。うちは修理屋だから、物品、作品の制作は行っていない。
なのに何故「中身くらいは」?今回は外身、つまり、容器を作る必要があるのだろうか?
どういうことなのだろうか、一体。

「今日はハロウィンだろ?キリのことだから、こういうイベントに便乗して何か入れ物でもこさえているのかと思ったんだが…違うのか?」

パラパラと先程の雑誌をめくりながらキリさんにそう訊く。
それを聞いた途端、今までポカンとしていたキリさんの顔が、パァッと明るくなった。

「凄い!よく分かったね!」

そう言うなり、キリさんはミカの手から雑誌をむしり取った。

「おい、それ私の雑誌」
「すぐに返す!」

電光石火のごとく、パステルな雑誌のページをめくるキリさんに、ミカは渋面を向けた。
ていうかこの雑誌、おたくの私物だったんかい。
それらしい格好の元軍人×パステル雑誌って、端から見りゃ中々シュールな組み合わせだぞ。

「おっ!これだこれ!」

お目当てのページが見つかったようで、キリさんは嬉しそうにページを見ていた。

「『ジャック・オ・ランタン』ね。言い伝えこそ不気味だけど、デザインは可愛いんだよね。昔はこれをくりぬいてランタンにしたり、これを模したバスケットを持ってお菓子をもらいに行ったりしたらしいんだ。小さいカボチャをくりぬけば、お菓子の容器になるらしいしー」
「知ってる。そのくらいは知ってる。で、今言ったことからキリの意見を要約すると、

『お菓子の容器になるらしい』

『中身はどうなる』

『中身がもったいない』

『そうだ、プリン作ろう』

と、思い至ったんだろ」
 「あ、うん。そういうこと」

流石はキリさんの幼馴染。いつもいつも無駄に長いキリさんの話だが、その要点をまとめられるだなんて。立派なツーカーだな。

「そういう訳でね。お察しの通り、中身はできてるんだ。あとは乾かしてあるカボチャに中身を入れるだけ」
「は?容器とプリンを別々にしているのか。分からないな」
「うん。だって湿気(しけ)た容器の中に食べ物を入れるってのは、何かちょっとね」

なあ、菓子作りの素人ながらも言ってもいいか。
プリン自体が湿気ているのだから、カボチャを乾燥させても意味がないのではないかと思うのだが。
容器に入れたが最後、プリンの水分でたちまち容器も湿気るぞ。

「かれこれ2時間日干ししてるんだけど、まだまだ乾かないんだろうなぁ…。木材だって、何日も乾かさなきゃカラカラになんないもん」

我が師がそうのたまった。
だめだこりゃ。この人はプリンを作り終わるまで、テコでも動かないつもりなのだろう。この人が先に見なきゃいけない書類数十枚を隅に寄せ、残った5、6枚の書類に筆を下ろ
すことに決めた。
 
 にゃぁ~

 「?」

 僕がしぶしぶペンを持ち、その一方で女性陣がプリンの分け前で揉め出した時だった。
まさに「猫の額」という表現がぴったりなうちの事務所(兼自宅)の庭から、猫の鳴き声が聞こえてきた。

「ハロウィンにニャンコ?なんだか益々ハロウィンらしいなぁ」

キリさんが嬉しそうに庭へと続く勝手口を開いた。
 その時だった。

 「ぎやあああああああッ!」

 盛りの猫でさえ出さないようなひどい声が、庭から響いてきた。
 さすがにこればかりは見て見ぬふりはできないので、僕はペンをペン立てに戻し、急いで庭へと出て行った。どういうわけかミカは、未だに事務所の来客用のソファに居座り、パステル雑誌を眺めているのだけれど。

 「う…う…」
 
 大急ぎで現場へと駆けつけてみると、そこには右頬にミミズ腫れをこさえて尻餅をつき、しかも半べそになったキリさんがいた。

「キリさん、一体どうしたんですか!?」
 「あ…あれ…あれを…」
 「え?」

 キリさんが指さした先には、恐らく先程の泣き声の主と思しきニャンコがいた。
 キリさんの発言をまねる訳ではないが、ハロウィンにぴったりの黒猫だ。
 だが、それだけならまだ「ああ猫だねえ」の一言で済ませられる。その一言で済ませられないのは、その猫が今目の前で、うちの庭でやらかしていることだ。

 「恐ろしいなハロウィンは。猫が手ぬぐい被って踊るだなんて…」
 「師匠の気持ち無視した上、文面で堂々と嘘つくのやめてくんない!?」

 …まあ、「手ぬぐい踊り」は軽い冗談、で。
 猫の手ぬぐい踊りなんかよりも現実的で、尚且つ、師匠が今最も嫌がることを、この猫はしていたのだ。
 要はまあ。

 「何で爪研ぐんだよ!せっかく干していたカボチャでさぁあッ!」

 こういうことである。
 せっかくカボチャをくりぬいて容器を作ったのはいいものの、庭に猫が侵入した。コロコロと形のいいカボチャは、猫のいい玩具になったようだ。
 今はキリさんの罵声もものともせず、ゴリゴリと爪を立ててじゃれつき、ついでに爪を研いでいる。猫に近づいてみると、カボチャ独特の青臭い、でも甘いにおいが鼻腔に入り込んできた。

 「容器がぁ!せっかくの容器がぁあ!」
 「キリさん、とりあえずは落ち着きましょう。容器は残念なことになってしまいましたが、まだ中身が無事じゃないですか。それだけは前回よりもましってもんですよ」
 「残念って言うな。師匠の力作の末路を」

 だが、こう言ってやったことで、キリさんは幾分か持ち直してくれたらしい。
 恐らく、カボチャを奪還しようとして黒猫にやられたであろう傷をゴシゴシとぬぐうと、キッパリと立ち上がってくれた。

 「しゃあない。アヤト、戻ろう。気を取り直してプリンを食べる」
 
 ハイハイ。そうなさってくださいな。
 
 「そのことなんだけどな」

 僕がキリさんの背を押して部屋へ戻ろうとした時だった。
 ふいに、今までリビングにいたはずの人物の声が聞こえてきた。

 「あれ。ミーナじゃん、どしたの」
「うん。ちょっと」

ちょっとという彼女の顔はどうにも怪しい。
まるで昼寝から覚めたばかりの猫のような、何だか食えないような顔でこちらを見ている。
あれ?そういうミカも、何だか甘いにおいがする…。

「こないだな、アイの奴がとんでもない下剤を入れたろう」
「うん、酷い目に遭った…」
「私としては、また友人が七転八倒するのは避けたいわけだ」
「そりゃあどうも」
「だからな、」
「んん」

「何か、ごめん」
「…はい?」

唐突にキリさんは謝られた。
労をねぎらうかのように、軽くポンポン、と肩をたたかれて、ミカは台所の奥を示す。

「中々美味かった」
「………」

「…ああっ!」

たっぷり五秒は時間をかけ、ようやくミカの言葉の意味に気が付いたキリさんは、急いで台所へと駆け込んでいった。

「うっそ…」

そこには空になった、たっぷり一リットルは入りそうな容器が転がっていた。
ところどころにオレンジっぽい黄色いものがこびりつき、それが何ともいえないいい匂いを漂わせている。

「毒味をしたところ、異常はなしだ。よかったな」
「よくねえよ!何これ空じゃん!プリンねえじゃん!返せよプリン!私のプリンン!!」
「プリンプリンうるせえよ。ガキかお前」
「一応二十代前半だから、ガキには近い年齢だよ!」

まさに獅子身中の虫。
思わぬ幼馴染の裏切りのせいで、キリさんは再びぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。

「プリン食べたかった!食べたかったのにッ!」
「ああもう、うるさいな」

うるさくしたのはどこのどいつだよ、と言いたかったのだけれど、言ったが最後、僕を味方だと思い込んだキリさんに無理やり口喧嘩への参戦を命じられそうだ。
書類もまだ書きかけなので、静かに席に戻り、黙って作業を再開した。
つまりあれだ、喧嘩に参戦している時間がもったいない。そういうことだ。

「分かったよ。じゃ、代わりのカボチャを持ってきてやるよ。プリンは作れないけど、材料の提供はしてやる」
「…へ?」

意外や意外…という程でもないが。どうやらこの争いは「おじゃんになったカボチャの弁償」ということで落ち着きそうだった。
確かにハロウィンの時期だからあちこちの店でハロウィンのための小さいカボチャが売られている。ただ、僕が母の日に買い求めたカーネーションと同様、数は少なく、高価ではあるけれど。
だがミカならば心配はいらない。ミカは軍人時代に貯めた金を、未だにほとんど手つかずの状態で持っているので、実は大変なお金持ちなのだ。
「金は使うときに使う」というのがミカだ。この一件、要は金で解決してしまうつもりらしい。
僕らにはできっこない一方で、ミカや、実験用の器材や嗜好品に手を出しているアイ博士ならば、簡単にできる解決方法だった。
時間短縮にもなるし、中々賢い方法だと思うよ。
ああ、本当…かなりムカつく!

「マジで?」
「マジだ。何なら今から持ってこようか?お前らが使ってる小舟さえ貸してくれるなら」
「ああ…うん。まだ売ってるならね?」

キリさんの返答を聞くと、ミカは勝手口から外へと出て行った。
「いってらっしゃい」と声をかけるために勝手口のほうを向くと、ミカの背中越しから、まだ猫がカボチャで遊んでいる様子が見え、僕をかなりげんなりさせたのだった。



それから一時間くらい経った頃だろうか。

「ミーナの奴、まだバザールをうろついてんのかなぁ」
「かもしれませんねえ。何せ今はハロウィン真っ盛りですよ。商店だの何だのの飾りで、カボチャが品薄状態なのかもしれません」

僕は自分の分の書類が終わったので、これ以上書類を溜め込まないようキリさんを急かしつつ、自分のデスクの整理を始めていた。その合間にミカが出て行った勝手口を眺めるのだが、一向に勝手口が開かれる様子はない。

「あーもー、早くプリンが食べたいし」

キリさんがペンを鼻に乗せ、くしゃりとヒョットコのような変顔をした、その時だった。
ズズンッ!と、部屋を揺るがす程の揺れが走ったのである。
あまりの衝撃で、デスクの上のものがいくつか下へと落ち、インクはカタカタと音を立てた。

「何これ地震!?」
「じゃないです!庭から振動が来ましたので、多分何か重いものが落ちた音ですよ、これ!」

僕達二人は再び、勝手口から外へと飛び出し、庭へと抜けて行った。
そして庭へと足を踏み入れ、何が起きたかを確認してすぐに、

「「ウッオォォ!!」」

揃いも揃って、腹の底から野太い声が出た。
今僕達の目の前だけが、光がさえぎられている。立派に育ち過ぎたカボチャが鎮座ましましとしているからだ。まるで「おおきなかぶ」の話でカブが出られなくなった場合、急きょ代役として出演できそうなほどに立派だ。色こそ緑色だけれど。

「な、なんなんなんなんなん」
「何だよキリ、これじゃあお気に召さないか」

カボチャから、件の元軍人の声が聞こえてきた。
ヒョイッとカボチャの後ろから姿を現すと、てしてしとカボチャを叩く。中々いい音が響いた。

「立派だろう。実はこれ、猟友会の同僚がくれたんだよ。副業で農業をやっている奴なんだが、何でも品種改良しているうちに偶然これができたらしい」

どういう偶然だよ。
もしかしてそいつ、どっかで巨大カボチャの遺伝子を持つカボチャと掛け合わせたんじゃなかろうか。

「うちに持ってきたのはいいものの、邪魔でしょうがない。アイもいらないと言っていたし、貰えるなら貰ってほしい。味はまるで栗のようで、蒸かしてもスープにしてもなかなか美味いと言っていたから、まあプリンにしても不味くはないはずだ」
「「…」」
「だからたんと食え」
「「食えるかッ!!」」

巨大カボチャの近くには、巨大カボチャに動じずに遊び続ける猫と、より一層ボロボロになった初代カボチャが転がっていた。
中々どうして、虚しい話しである。



二、「籠の中身は」
(byアイ)

外国との行き来を管理する関から、主峰、テイ山までのびる大通りはいつにも増して賑やかだった。
かの主峰の足元に広がるバザールは今、オレンジやら黒やらの色が溢れている。何だか目が痛い。

「兄ちゃん、それ博士の仮装?」

その声に視線を落とすと、不意に俺の白衣の裾を引く手が目に入った。手にえくぼのようなくぼみがある、まだ幼い手である。

「仮装でなくて、本当に博士なの、俺は」
「うっそだぁ。だって兄ちゃん、全然爺じゃないじゃん」
「爺じゃない博士がいたら、おかしいかよお?」

あえておどけて言ってみると、吸血鬼みたいなマントを羽織ったお子様は「ウン」と躊躇いなく頷いた。
今時珍しい、中々意志のハッキリしたお子様だ。

「で、俺に何か?」
「トリックオアトリート」

ははぁ、そういうことね。
だが生憎、俺は菓子の類いは持っていないんだ。キシリトールのガムならあるけど。

「坊ちゃんよ、まだ開けてないガムで手を打ってくれないか?キシリトールのだけれど」
「ケチだなぁ」

そう言いつつも、手に下げ持った籠を差し出すのを忘れないだなんて。ちゃっかりしてやがる。
お子様の持つ籠は、一般的なジャック・オ・ランタンを模したものでなく、髑髏だった。
まだ中身のない籠に、お賽銭のようにホイッとガムを放り込む。
陶器だか石だか分からない硬質な音がした途端、まだ獲物がなかったお子様の顔がほころんだ。

「じゃ、これで」
「あ、ちょっと待て」

少し思うところがあったので、お子様を呼び止めた。

「なぁに?」
「うん。気のせいならいいんだけどなぁ」

別に大したことでもないのだが、一応俺は自警団員という顔も持っている。
警告するだけは、した方がいいのかもしれなかった。

「坊ちゃんよ、その籠に、何か食い物でも入れてなかったか?何だか妙な匂いがする」
「へ?何も入れてなかったけど…。変なの。もしかしたら母さんが何かの器に使ったのかな。鼻風邪引いてるから分からないよ」

やっぱりな。と、俺は一人合点がいった。俺ぁタバコのようなものを吸ってはいるが、医者や薬剤師としても働くことがある。そのため、嗅覚はそれなり大事にしている。
だから、割と些細な臭いでも分かるのだ。
今日起こる事件が一件増えただけで、後始末は中々大変だ。

「じゃ、今すぐ家帰って、他の入れ物に替えてこい。大通りとはいえ野犬が出るんだ。匂いに惹かれてやってくるぞ」

たかが犬、と思ったそこのお前。野犬を舐めたらいけない。
カザミの、というより、この時代の犬は、平均的な体調はジャーマンシェパードよりも2、3回りはデカイんだ。当然、体重も重い。
そして先の時代の犬よりも好戦的というのだから厄介だ。ガキが襲われて、一噛みで死ぬこともある。
無闇矢鱈に手を出せる相手じゃない。

「マジで!?教えてくれてありがとう!」

お子様はびっくりした顔をしたかと思うと、踵を返して走り去って行ってしまった。「送って行こうか」や「よかったらその籠貰おうか」と言うつもりだった俺としては拍子抜ける。
いや、どちらかといえば、後者の言葉を言いたかった。あの籠は、もう中々の年齢になった俺から見ても、よくできている。

「貧乏ななりしてるしてるくせに、よくやるぜ。髑髏の中身をくり抜くの、大変だったろうになあ」
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