2017-11

ハスの花⑦

こんにちは(或いはこんばんは)
最近ややスランプ気味の奥貫阿Qです。

ハロウィン祭りも無事終了し、「ハスの花」もとうとう七話目を迎え、いよいよクライマックス!という時になってスランプ気味ってのは、正直きつい…。
そのせいか今回はギャグなし、終始シリアスなのに、字数がいつもよか少ないです(哀)

物語が大きく動く回なのにいいいいいぃ!

…とまあ終始もんどりうって書き上げたのが、この第七話目なのであります。
何とか要点だけはまとめることができました(汗)
この回逃すと、最終話までの流れがとんと分からなくなるので、ぜひお目通し願いますm(₋ ₋)m

それでは、本編へどうぞ!
次回は某少年に、大きな変化が訪れます。
いろんな意味で。



ハスの花⑦

「一体どういうことですか?」

キリと少年は兄の前に引き出され、正座させられていた。兄の隣には妹が座り、事のなり行きを不安げに見守っている。

「キリさん、この少年はあの赤ん坊によく似ていますが、まさか本人だとは言いませんよね?」

明らかに遠回しに「やっぱりあの赤ん坊なんだろう」と言っている兄に、キリはだんまりを決め込んだ。

「どうなんですか?」
「…黙秘だ」

暗に「そうです」と言っているようなものなのだが、これ以上言葉を思いつくことができない。

「それだけですか?」
「それだけだよ」

キリが口を割りそうにない様子に、兄は眉をひそめ、大きくため息をついた。

「それじゃあ我々は、彼をどうすればいいのですか。もしこの少年があの赤ん坊だと確定したのであれば、それはつまり、目の前にいる少年が兄であるということが確定したことになります。それが分からない限りは、この子をどうしたらいいのか、分からないままです」
「ならどうもしなくていいじゃない。この子はただの子供だよ。ただの子供を捕まえて何しようっていうのさ」

まるで幼い頃に戻ったかのようなつの口になって、キリは抗議した。
実際、昨日の赤ん坊が、目の前にいる少年と同一人物だという理由はどこにもない。
いくら彼が怪しくとも、何人たりとも彼に危害を加える理由がないのだ。

「もういいかな。下着は全滅したっぽいし、私は次の目的地に行きたいし、この子はとばっちり食っただけだし」
「いえ、まだですよ。彼が鬼ではないという確固たる証拠が出ない限り、その場からの移動は許されない」
「分からず屋め」
「この国の法律ですよ」

あくまで頑なな兄に、キリは嫌気が差し始めていた。
だが何かが言える訳もなく、眉根を寄せ、やや辟易したような表情を浮かべて、不満を露わにするので精一杯だったが。
その顔は馬鹿者というよりは、むしろ聡明な、大人の女性と言った方がよさそうなほどに、きりりとしまっていた。

「鬼だという確固たる証拠はなし。でもそちらさんは鬼かもしれないと疑っている。いつまでも出られないじゃないか。一体どうするの?」
「その時は鑑別所に放り込みます」
「ウッへ。人権もへったくれもありゃしない」
「当然です。鬼という存在はそれ程に厄介な存在なんですよ。現に私は、昔、鬼を見たことがあります」

兄はスウッと目を細めると、キリではなく少年の方を見た。
なぜか自分が標的にされていると悟り、少年はビクリと肩を震わせた。

「まだ私が子供の頃の話ですがね。…ある日、ウチの近所で鬼の子が見つかったんです」

なぜ鬼の子かと分かったかというと、その子供が自分で「この国の地下から来た」と言ったためだという。
どこの家も手狭で、偶然にも当時は祭の準備をしている時期であったため、宿すらも空き部屋がなかった。仕方なく、その子供を村長の家に置いておいたところ。
  吹雪の中、鬼がやってきた。
 鬼は周囲の家々を片っ端から荒らし、ついには村長を手にかけた。
鬼を捕らえて、鬼の片目片足を奪い、何とか子鬼もろとも地獄に送り返すことには成功したものの、鬼を捕らえた人物は深手を負い、間もなく亡くなった。

「その人物こそが、私達の父です。私は父の死をはっきりと覚えてはいませんが…。微かに残る記憶をたどる限り、凄惨な死に方だったと思いますよ。雪の上に真っ赤な血だまりがあることだけは、覚えていますから」

兄の話を聞いた途端、妹が耐え難いものでも見てしまったかのように、目を逸らした。
キリは、そんな妹を横目で見つつ、すぐに兄へと視線を戻す。

「…成る程」

厄介な話だ、とキリは思った。
レンの法律も厄介だが、それ以上にこの兄が厄介である。
理由はもっともな話だが、鬼に対しての恨みつらみ、それから来る執着が並大抵ではない。
そういった人物の恐ろしさを、すでに二例も知っているキリとしては、もう二度とこのような人物を敵に回したくないと思っていたのだが。

(容易じゃあないね。自分の身を守ってきた時以上に大変だ、こりゃ)

鬼でもそうでなくても今ここでこの子を見捨てようものなら、この子はどうなるか分からない。
キリは「絶対離すまい」と、不安がる少年の手をそっと握った。

「いささか話が脱線してしまいましたね…。ところで、『鬼だという確固たる証拠はなし』と、あなたは先ほど申し上げましたよね」
「うん。それが何か?」

食えぬ兄が何を考えているのかを読み取るべく、キリは眉間に皺を寄せた。
少年には申し訳ないが、だんだん不安になってくる気持ちから手は汗ばみ、手を握る力はかなり強くなっていた。

「その発言は、そちらがおっしゃっているだけのこと。我々は彼が鬼ではないという証拠の有無すら分からないんです。どうですか、一度彼を、こちらに預けてはくれませんかね?」
「絶対嫌だ。帰ってくる見込みがない理不尽な頼みなんかきけるか」
「そうは言っても、こちらには『法律』という理があります。理不尽なのはあなたの方だ」

 そう言うなり、兄はズカズカとキリ達の方に歩み寄ると、少年の腕を掴み、無理矢理立たせた。あまりにもあっけなくキリの手から、少年の手が離れていく。
 あまりに突然な出来事だったので、ただでさえ立ち上がることが苦手な少年は、その場でバランスを崩した。

 「ひえっ!」

 そのまま床に倒れてしまうも、少年を遮るように兄が立っているため、助け起こしたくても手を差し伸べることができなかった。
 それでも駆け寄ろうとすると、今度は、今までほとんど動くことのなかった妹に阻まれてしまう。
 この優柔不断そうな妹に何か言ってやろうと、妹の顔を見れば。

 (…)

 キリの味方でもありたいが、兄には逆らえない。そんな感情がありありと浮かんだ悲痛な面持ちで、キリを見つめ返してきたのだった。
 少年が心配なのと、自分の無力さを痛感したこと。加えて今の妹の表情が、キリの中で熱を持ち、ドロドロに融解し始めていた。それがたまらなく嫌で、キリは兄を睨み、普段は使うことのない大声で怒鳴った。
 
「乱暴するな!大人気のない!!」
 「大人気ないのはどちらですか。結局は守れもしないのに、子供に手を差し伸べたりなんかして」
 「う…」

 悔しいが、兄の言うことはもっともだった。
 どんなに大人ぶろうが、キリは所詮、未成年の少女だった。体力も知力も、人生経験すらも大人以下で、敵うことなんかほとんどないというのが真実だ。
 この兄の方が悪いのは明確なのに、なぜ正論を突き付けられねばならないのだろうか。
 そしてなぜ、自分は言い返すことができないのだろうか。
 一瞬だけ熱が冷めた余韻で、キリの脳は一瞬だけ何も考えられなくなった。
 
「止めてください!止めろ!」

だが、それは本当に「一瞬だけ」のことである。
少年の声で、キリはハッと我に返った。

バランスを崩して床に倒れた少年を、兄が無理矢理立たせようとしていたのだ。
少年はこけた時に足を挫いたのか、長い方の足を庇うようにし、必死の抵抗を試みている。
だが、それだっていつまで持つか分からない状態だ。

「乱暴するなって言ってるだろ!この野郎!」

うっかり忘れるところだった。
言い返すことはできなくとも、キリはこの少年に、「守る」と約束したのだった。約束した手前、キリ自身はどうなろうとも、何もしない訳にはいかなかった。
兄の腕を、隠し持っていた件の鉄扇で強かに打った。普通に引っ叩かれたのとは比較にならない痛みが兄を襲い、思わず少年の腕を離した。
その時だった。
再びバランスを崩した少年の足元から、ゴトン、という重い音が聞こえたのだ。
まるでカーペットの上に落とした花瓶のような重々しい音に、一同の目は少年に釘付けになる。

「あ…」

少年から、短い方の片足が消えていた。
いや、正確には「消えた」のではない。少年から足が外れ、フローリングの上に転がっていたのだ。

「…!」

驚きのあまり、キリをはじめ兄妹までもが目を大きく見開いた。
無言の驚きは、少年にも伝わったらしい。

「…ごめんなさい」

唐突に、少年が頭を下げた。キリにではない。おそらくこの部屋にいる全員に、である。
なぜ謝る?という疑問を発するのを許されない程、悲痛な面持ちで、少年は頭を下げた。
それと同時に、床にごろりと転がった足が見る見るうちに崩れ、あっという間に原形をとどめない土くれと化した。

「…見ろ!片足が外れ、その足が土くれになるなどあり得ない!その上こいつは、我々に向かって頭を下げた!こいつはやはり鬼だったんだ!」

そう叫んだ途端、顔を真っ赤にして兄が怒鳴った。
余裕さえあれば「どっちが鬼だよ」と窘められそうなほどに顔は赤く、明らか過ぎるほどの凶相が浮かび、青筋も浮かび、目は血走っている。
この面構えで鬼退治をしようなど、ちゃんちゃらおかしい顔つきであった。

「鬼子め!もしや今朝の騒ぎもお前の仕業か!?」
「違う!」

またしても少年に乱暴をされそうだったので、今度はキリが先回りをし、迷わず言葉を発した。
幼馴染のやり方を模した訳ではないが、狙いを定めて、鋭い一発を兄の鼓膜へと発する。
キリの心の整理がつかないため、これから話すことは、今は決して少年の前では言うまいと思っていた。が、仕方がなかった。
少年の身の安全には代えられない。
重い口から、キリは無理やり言葉を押し出した。

「あれはこの子じゃない。別の人間の仕業だよ。今朝の騒ぎを起こした男、あれの正体はスナイパー部隊唯一の親ユバナ派の軍人だ。あいつは、内戦前に軍から逃亡したため、ユバナ崩壊のきっかけになったスナイパー部隊全員と、そこの元トップで、大佐の護衛だった准尉を探している。
あいつは恐ろしく手段を選ばない男だ。スナイパー部隊の行方を知るためなら、誰だっ
て容赦無く当たる。…私のかつての恋人も、彼に半殺しにされた。彼は私が見ている前で、息を引き取ってしまったよ」

 その時の光景は、未だに目に焼き付いていた。
 今朝、ハインリヒを見てからより一層鮮やかになった、チロチロと舐めるように立ち上がる炎や、硝煙の臭いと鉄臭さ。そして部屋中に散らばった赤い色が脳裏をよぎる。
その中心にいたのが、今はもう名前すら言うのがつらい存在となった恋人、カールだった。ハインリヒの手により、生きながら解剖されたかのような目に遭った恋人は、キリの見ている前で息を引き取った。

「あいつは私が、准尉の行方を知っていると疑っていてね。明日の夜明け前、私とあの男は対決することになった。その約束さえ守れば、あなた方に手出しはしないだろう。約束をたがえない、無関係の人間を気付漬けないというのが、あの男の、唯一の長所であり、誇りだから」

キリの説明はここまでだった。
確かにフロントはぐしゃぐしゃになってしまったが、これ以上の被害は出ない。
それさえ知れば、兄はいくらかでも静まってくれるのではないか。
そう思っていたのだが。
ぶるぶると震える拳。芋虫のように存在を主張し始めた青筋。
それらの恐ろしい様子を兼ね備えた男が、目の前に現れた。

「やはり鬼は災いを呼ぶのか!鬼を拾った女性が来たことで、外からそんな恐ろしい男がやってきた!」
 「何言ってんだ、あんた!」

今の説明を聞いてもなお、少年を罵ろうとする兄に、キリはとうとう激怒した。

「それは違うだろ!それは私がこの宿に泊まってしまったのが悪いんだ!この子には関係ない!」
「同じことだ!『鬼が来たら』災いが起こる!昔から言われている通りだ!」
「は!?」

一瞬、我が耳を疑った。少年が鬼であったことと、キリがあの男に狙われていることは、何の関わりもない。ただ単に二つのことが重なり、今に至るだけだ。
しかも今回の災難は、キリが事件から逃げ出したこと、逃亡中であるのに不用意に赤ん坊を拾ったこと、赤ん坊が問題を抱えているとは知らず、しかも自分が逃亡中にも関わらず、この宿に泊まってしまったことが原因だ。少年はとばっちりを食っただけで、非の殆どはキリにある。 少年に悪い部分はない。
それなのになぜ、問題の根本を棚に上げて、何の罪もないこの子を非難しようとするのか!

「めちゃくちゃだ!確かに問題は起きた!だけどあれの原因は私にあるんだ!私一人を突き出せば万事解決するのに、何でこの子を悪く言うんだ!」
「うるさい!」

兄はバンッと机を叩くと、そのまま勢いよく立ち上がった。そして再び、怯える少年の手を乱暴に掴んだ。

「ひっ…!」

自分に何か危害が加えられることを感じた少年が、か細い悲鳴をあげた。
それを聞いた途端、キリはあの男…ハインリヒを見た時以上にカッと熱くなった。

「その子に触れるな!」

少年を取り返そうと再び兄の腕に鉄扇を振り上げるが、少女と成人男性では、明らかに力に差があった。
キリはあっさりと腹に、まるで鞭のように兄の太い腕を叩きつけられ、振り飛ばされた。
そのまま壁に叩きつけられ、吐き気がした。目から火が出た。

「キリさん!」
「逃げて!…いいから!」

必死にせり上がるものを押し返し、キリは少年に向かって叫んだ。
が、少年を兄は逃がすつもりがないのだろう。キリ同様、腹部を強かに殴りつけられ、動きを止められてしまった。

「ああっ!」
「こうなればやることは一つだ!この鬼を、地獄に返すぞ!」

倒れたキリには目もくれず、妹に言い放つ。
そのまま、兄は少年を引きずり、部屋を出て行った。
ぬかった。そう思う。
あの兄は、事件を起こされた原因が少年のせいであろうとなかろうと、わずかながらでも事件にかかわった人物が目の前におり、しかもその相手が「鬼」であるということだけで激昂する男だったのだ。
例え事件との関わりがわずかなものであっても、鬼がそばにいるだけでも嫌だ、消してしまいたいというのが、兄の心理だったようだ。
それは明らかに、鬼に父を殺された事件から来ていると思う。…一体、どうすればいいのだろうか。
こんな根深いトラウマを持つ男に立ち向かえる自身など、キリにはなかった。
だが、それでも聞けることだけは聞かねばならない。

「妹さん…。君の兄は、あの子をどうするつもりなの?一体地獄に返すって、何をするつもりなの!?」

叫ぶのさえ苦痛だったが、キリは唯一その場に残った妹に、問わずにいられなかった。
顔を真っ赤にして苦痛に耐え、身を屈めているキリを見ることなく、妹は俯いたまま、答えた。

「あの子を…しきたりに則って、殺すんです。明朝に」

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