2017-11

「各々の休日」②

こんにちは(或いはこんばんは)
奥貫阿Qです。

久々の土曜日更新ですよ~。
ようやっと多忙期から、冬休み&バイト期に移れそうなので、時間の確保がしやすくなってきました。
ありがたいこってす。

今回はまた「各々の休日」を掲載します。第二回目です。
前回と同様、「ポン引きから逃げること」から話が始まっていきます。そして今回から時間軸に割り込んでくるのが、「仮面の人」。
やはり短編のこの作品では、蚊取り線香みたいなメガネをかけた野郎の素顔(比喩じゃないです)を知るべく、キリが奮闘しています。ただただ騒がしい話ですが、面白く読んでやってください。
ちなみに「ポン引きから逃げること」は相変わらずの流れです(苦笑)
流れが変わるのは来週ですかね…。

上手くいけば来週で最終回を迎えられそうです。
その次は変装ネタか、話季節的に忘年会ネタか。或いは今まで掲載した話の一部を解説するか…。
どれかにチャレンジする予定です。

忘年会ネタでは、今まで登場人物紹介くらいでしか登場しなかった人が一気に出てきます。
ギャグ色増、うるささも倍増する感じで書きたいです!

今回も文が長くなったので、ぼちぼちスクロールバーを働かせます。
多分先週よりも長い分になっているので、バッシバシこいつに動いていただきましょう。

(余談ですが、母に聞いてみたところ、やっぱりカエルはおいしいのだそうです。ただ、食べれるのは足だけなんだとか。だからウシガエルってでかいんですかねぇ…)



〈ポン引きから逃げること・続〉

ミカが投げたであろう固形燃料は、人に当たったのに欠けた様子もない。見るからに固そうな物体だった。
いくらここのポン引きがしつこいからって、これじゃあ相手は怒るぞ…。

「早く!」

女性にしては馬鹿に強い力で、どんどん引っ張られていく。僕も当然、引かれるままに走り出していた。
そういや傷だらけだけど、野郎より指は細いし手首も細いよな、と、無意識にミカの手をガン見していたが。

「何見てんだアホ!」
「ごめんなさい!」

僕の手を引っ張りつつ前を見て走っているにも関わらず、ミカに怒られた(何で気付いたんだろ)。
…でも、あんなポン引きとは思えないくらい、ガタイのいい男にものを投げてしまったんだ。
捕まったらただでは済まないだろう。
逃げなければ。
僕は腹を括ると、ミカの手首を握り、彼女と並ぶようにして走って行った。

11:00〈仮面の人〉
(キリ)

ピンポーン

…ここ最近、散々カエルカエルと罵られ、とうとうカエルスープ(意外と美味)を出されてヘコんでいたら、玄関のチャイムが鳴った。
オフの日なのに、何だろう。

「はいはーい」

ガチャッとドアを開けると、

「あれ!珍しいね、兄さんどうしたの」

本当に珍しい。
オフの日はキノコが生えるんじゃないかってくらい家に篭る男、アイ兄さんがいた。

「まあいいや。上がってってよ。昼も近いし、スープでもあがらない?ちょっとカエル入ってるけど」
「随分と珍しい食材入れたな…。まあ、いいや。スープはともかく、ミカの奴はいねえか?次の演習に使う道具ができたから、見てもらいてえんだけど」
「ミーナぁ?」

ミーナは自警団の仕事がある日はもちろん、オフの日もよくウチに来る。けど、今日は見ていなかった。
今日は自警団も猟師の仕事もないって言ってたから、きっと一人で過ごしたいのだろう。
その時には、どうかそっとしといてあげてほしい。私なんてそんな時のミーナにバッタリ会って強く引き止めたら、公衆の面前で回し蹴り食らったんだから…。
…ええ、痛めましたよ。蹴り食らった腰を。

「いねえのか?」
「うん」
「じゃ、いいや。明日でも。オフの邪魔すると怖えからなァ」

賢明な判断だね、兄さん。
さすがはミーナの元上司。

「じゃ、どうするの?」
「いないなら帰る。カエルだけにな」
「ちょっ、スープの具材に掛けないでくんない!?」
「おっと失礼。つい」

そう言って、ぷぷぷっと笑う兄さん。…って。
「つい」だァ!?
何抜かしてやがんだ!
小4の頃の邂逅から早十年。日々の生活の中に嫌味な小技を突っ込んでくるのが、このペロペロキャンディみたいなメガネをかけた男だ。
そっちが小技しかけてくるのなら、こっちだってガンガン行くぞ!
私は漫画だったら飛雄馬みたいな燃える目をして、ビン底をひそかに睨みつけた。
…うん?「燃える」の字が間違ってるんじゃないかって?お前からはかけ離れた文字だって?
いんだよ、これで。
だって飛雄馬が萌え萌えキュンな目えしてたらおかしいでしょうが。

「時に兄さん、スープは」
「あ?別にいらん」
「まぁまぁそう言わずに」
「いらん」
「まぁまぁまぁ」

今、私ゃこうして兄さんと問答してるけど、それには大して意味はない。
要は兄さんをここに引き止められりゃいいんだ。問答の「問」にも「答」にも意味はない。

「余っちゃって飲み切れないんだよ。カエルっていったら味は殆どチキンだし、別にいいでしょ?」
「んー…まあ、そう言うなら」
「やった!」

マジで「やった!」だよ!
もうガッツポーズしたいくらい「やった!」だよ!!
私は兄さんを家に上げ、リビングで待たせると、そそくさと台所へと消えた。
だいたい一人前くらいのスープが残っていることを確認して…。さて、今から攻撃の準備だ。
私は台所にある香辛料一式を取り出すと、その中から殊更辛いものを全部鍋の中にぶちまけた。それから火をかけてグルグルっとお玉で鍋をかき回した。
うん。見た目的にはミネストローネだな。完全に。
そしてスパイシーな香りをまろやかなものにしたら、

「完~成☆」

お玉を持ったまま、私はニンマリした。
確認してないから分からないけど、多分この中には粉末状のハバネロやジョロキアも入っている。辛党のアヤト向けの調味料だ。
それを惜しげも無く突っ込んだこれは、まさに地獄鍋!
またの名をゲヘナ鍋っ!
…ん?中2っぽいネーミングだって?貴様がこれ食うか?

「お待たせ~☆」

やっぱり漫画だったらキラキラなトーンが貼られそうな声でもって、私は兄さんにスープを出した。
フツーはこんな風に声かける相手といえばイケメンのお兄さんって相場が決まっているのに、私が声をかけてるのはもっさい兄さんだ。
何だか悲しい。

「召し上がれ☆」
「ん」

「ありがとう」も「いただきます」も言わずに、奴はスープを受け取った。そして、間髪入れずに食った。
…どうなんだ?反応は?

「う…」

う?
何これ呻き声?

「…美味いじゃん、普通に」

…ハイ?

「匂いからして美味そうだと感じたが、中々だな。普通の奴らじゃ辛いだろうに、お前らこんなん食ってんのなあ」

ええええっ!?
一瞬、修理屋生活で最も大事にしてきた我が目と我が耳を疑った。
だけど、今目の前で起きたことは真実であるらしい。
今度も御相伴にあずかりてえ、とかほざきながら、この男、もさもさもさもさスープをかっ込み、ついには完食してしまったのだから。
…つくづく信じられん。

「ふうー」

満足げに、兄さんはため息をついた。いつもは瓜か、葬式の献花のように白い顔だが、辛味成分を大量に摂ったせいか、いつもより血色がいい。
…全く。ぬかったよ。
まさかこいつがかなりの辛党だったなんて!

12:00(アヤト)

走る走る。
全体的に灰色っぽい区画の中を、僕達は全力で駆けていた。
もう随分走り回っているせいで、汗が噴き出し、髪がベタついてきて不快だ。
だが、そんなことに構っている暇はない。こっちは力士みたいな体格のポン引きに追われているのだから!

「まだ追ってきやがる!」
「マジかよ!どこまで追ってくるんだ!」
「知るか!」

「知るか!」って…。
君が燃料投げなきゃこんなことにならなかったんだよ!

「ほら、こっちへ!」
「ぐっ!」

暫く手を離して走っていたものの、ミカは再び僕の手を掴むと、急に路地を曲がった。
もちろんポン引きも一緒に曲がってくるが、その時には僕達はこのポン引きが入って来れないほど狭い路地に進んでいた。
ミカは、ここで一気にポン引きを巻くつもりなのだろう。

「アヤト、それでもあのままポン引きとやり取りするよかましだろ。最近、ここいらのポン引きは薬でも何でも使って、客を引き込むって情報が入ったんだ。アイと猟友会双方からな」
「えっ」

ポン引きを引き離したことで、ミカからヒソヒソ声で、そんな嫌な情報を告げられた。
参った…。ここは僕が思っていた以上にヤバイ場所だった。アイさんと猟友会、割と信用できるこの二つから警告を受けるなんて、只事じゃない。
ミカが燃料投げてなかったら、今頃僕はまずいことになってたはずだ…。

「ミカ、ありがとう」
「礼なんかいい。それより、道を進むことに集中させてくれ。区画がめちゃくちゃだから迷いそうなんだ」

黙々と灰色の密林を進む後ろ姿は、下手な野郎よりも男らしいんじゃないかと思う。
せめて僕もこうなれればなあ、と思いつつ僕は進行方向とは逆の方、つまり来た道の方に顔を向けた。
万一を考え、あのポン引きが追ってきた場合に備えるためだ。

「あ、」

もう百メートルくらい離れている路地の入り口に、人がいた。やたらと派手なグラデーションの服を着て、でっぷりと太っている。
その人は巨大な体を無理矢理狭い路地に押し込み、ムイムイムイムイ肉を揺すりつつ、どんどんこちらに近づいてきていた。
…目が皿になった。

「ミカ、あのポン引きだ!後ろから来てる!」
「入ってきたのか!?まさか!」

信じられない、というような顔をして、ミカは僕の後ろに目をやった。
確認したと同時に、ミカの目も僕と同じになる。

「凄いな。両壁に肉が密着してるのに、あんなに速い」

そう呟くと、ミカは近くにある雨樋に手をかけ、登っていった。この雨樋の先は物が多すぎて、子供くらいの体格じゃないと通れないからだ。
僕も無論、後に続く。
ただでさえ肉で道を塞いでるポン引きだ、ここまでは来られまい。
そう思ってたんだけど。

「…ううむ」

僕は唸ってしまった。
またしてもポン引きがやらかしたからだ。
この人から見れば小枝のように細いであろうこの雨樋。それに手をかけ、またしてもムイムイムイムイ登り始めたのだ。
…一体どこまで続くんだ、この追いかけっこは。

13:00(キリ)

「んまんま」
「…」

えーと…。皆さん、しょっぱなから喃語のような言葉が出ていますが、この場に赤ちゃんはいません。
ここにいるのは相変わらず、私と、おっさんみたいなお兄さんだけです。
このお兄さん、さっきの地獄鍋で俄然食欲が出たようで。近くの商店まで買い物に行き、大量の香辛料と強力粉買ってきて自分で料理作り始めてしまいまして…。
で、

「味はまあ美味いか。…副団長、台所借りて悪かったな。うどんできたからもう退くわ」
「そう…」

かなりスパイシーなチゲうどんを作り上げてしまいました。
スパイシーっていうより、最早単なる刺激物?匂い嗅いだだけで鼻がピリッピリするもん。

「あんたも食うかい?」
「いらないっ!」

嗅いだだけで鼻が痛くなるんだ。こんなん食ったら確実に胃がやられる!
身の危険しか感じられないブツを勧められ、私は残像が残るんじゃないかと思うくらい、ブンブン首を横に振った。

「残念。傑作だのにねえ」

我が家の土鍋には、血のように真っ赤な液体か湛えられていた。兄さんがこちらに一歩一歩近づくごとに、スープがタパタパ揺れている。
…鼻が痛い。

「いただきまーす」

今度はちゃんと挨拶をして、兄さんはもさもさとうどんを啜り出した。
満足のいく味だったんだろう。ミーナの次に笑顔(ニヤニヤ笑いは除く)が少ないくせに、今は少しだけ微笑んでいるようだった。
兄さんにとっちゃ辛くないんだなぁ、本当に。

「うおっ」
「ん?どうしたの?」

箸が止まるのと同時に、兄さんは小さく叫んだ。
何何?野菜についてた虫でもいたの?

「汁がメガネにはねた。何か拭くもんねえか?」
「拭くもの?ティッシュとかでいいの?」
「ああ」

そんな訳で、私はテーブルの端に置いてあるティッシュを取ってあげた。ユバナじゃ首都くらいでしか売っていなかった、この使い勝手がいい紙。カザミであればどこの家庭にもおいてあるようだ。初めてそれを知ったときはびっくりしたもんさ。ティッシュは完全に市民権を得ているようで、薬屋でも小さい商店でも扱っている。
やっぱり便利な国なんだ、カザミ。犯罪多いけど。

「どうも」

ティッシュを受け取ると、兄さんはメガネを外して…え?

「ちょ、ちょっと待て!こっち向いて!」
「おお?」

言われた通り、クルッと兄さんはこちらを向いてくれたけど…。あーあ、残念。ちょっとタイミングが悪かった。

「何だぁ、もうメガネかけてたぁ…」
「あ?かけちゃ悪いか」
「悪かないけど、今まで兄さんの素顔見たことないからさ~?メガネ外した顔見るチャンスだったなって思って」
「気になるん?」
「うん」

私は素直に頷いた。
だってねえ、本当のことだからさ。

「そうかいそうかい…。そんなら、見せてやらんこともない」
「えっ!?」

てっきり断られると思ってた!

「いいの!?ダメなのかと思ってた!」
「たかがメガネ云々の話だろ?構わねえさ」
「いい人だなぁ!」

思いがけない出来事に、私は兄さんの近くに行き、彼の背中をパンパン叩いた。そのせいで兄さん、むせたけど。

「ふぅう…。だが、な?キリさんよ」
「?」

吹き出したつゆを拭いながら、兄さんはニヤリと笑っていた。
これ、めっちゃ嫌な予感する。

「タダでやる気はねえ。この辛~いうどん一杯を食えば、見せてやるよ」
「マジかよ!」

同時刻

バカン!バン!
バカン!バン!

雨樋を伝って屋根の上に逃げた後、僕達は鉄板一枚でできた屋根の上を走っていた。
鉄板であるため、足を踏み出すごとに凄い音がする。が、僕達の後ろでは更に大きな重い音が聞こえていた。
敢えて文字にするとすれば、「バカン!」の「ば」が「ba」じゃなくて「va」。
重い足が交互に振られている分、音が重いんだ。
まるで雷のようだった。

「よく踏み抜かないね」
「ああ、あんなにデブなのにな…」

走りながら話す言葉だったからか。
こちらはヒソヒソ話しているつもりだったが、あちらには丸聞こえだったようだ。
たちまち顔が真っ赤になり、怒りに任せて一気に距離を詰めてきた。そして、ちょうど屋根の重しになっていた角材を引っ掴み、こちらに向かってぶん投げた。
その角材は、よくよく見れば大体大人の拳四つを並べたくらいの大きさで、見るからにゴツゴツした石だった。コンクリートではない―いや、コンクリートを主に使っているのは研究所関係の施設くらいなのだけれど―天然の石で、ほぼ街中では見かけないような大きさだ。そんな堅そうな石を投げたら、どういうことになるか?

「きゃああああッ!」

これはミカの悲鳴ではない。石が着地して屋根を突き抜けた先にいた、女性の声だ。
この屋根が偶然薄い鉄板だったから、スピードをつけて投げた石があっさりと貫通したのだろう。
だが、これがもし人の頭に当たったらどうなるか?
答えなんて分かりきっている。だから逃げるんだ。

「くるぞ!」

ミカがそういった途端、また石が飛んできた。今度は石が一回バウンドして、そのまま地面へと落ちていった。ボコッという鈍い音が聞こえた。…多分、石が地面にめり込んだ音だ。

「また来るよ!投げる姿勢だ!」
「分かってる!」

僕とミカもスピードを上げて、完全に逃げの姿勢に入った。
ここは屋根の上だ。身を隠す場所もない上、地面に降りようにも、地面から離れ過ぎているため、降りることもできない。
でも、相手はこちらに比べて鈍足だし、今十二分に距離を取った。
石を投げるスピードも見て取れたし、きっと逃げ切れる。
そう思っていた。

「「あ」」

僕とミカは揃って声を出した。
今ぶん投げられた石は、今までの比ではないスピードでこちらに飛んできていた。
しかも、投げる時にスピンでもかけたのか、石は途中でクイッと綺麗なカーブを描き、石をよけた僕ら二人の方に向かって飛んできた。
僕らの頭と同じ高さを、このでかい石は飛んでいた。

「避けろ!」

グイッ!とミカに頭を押されたそれと同時に、体がグラリとよろめき、体から力が抜けた。
重力から全く力を受けていない状況になっている。
つまり、僕は今。

「落ちた…?」

13:30(キリ)

「…う…」

食った。
食っちまった。
件の激辛うどんを、私は食った。完食だ。
何もそこまでしなくてもよかったな、とは思うものの、これは私の意地だ。副団長としての威厳、「私だって有言実行できるんだ!」ということを、団の中で一番食えないこの男に見せつけたかったんだ。…だってこの人、できなかったらできなかったで何か無茶振り要求してきそうなんだもの。怖い。
今はもう舌は痺れるわ胃が痛いわで、もう何をどうしたら痛みが引くのか分からない状態にある。例えるなら、消化管のうち口から胃までをリオのカーニバルの一団が通り過ぎ、どんちゃんしているかのようなのだ。このカーニバルが消化管全部を練り歩くのだと思うと、肉体的にも精神的にもきつい。このゆくゆく訪れるであろう賑やかさを思うと、涙が出そうになった。

「どしたねキリさん。辛すぎて頭までのぼせたか~?」

ニヤニヤ笑いながらこちらを見てくる兄さんは、王者の風格たっぷりだ。
…いや、どっちかっつうと悪魔か?人間に毒物としか思えないようなものをさりげなく進める所業は、まさに悪魔。
ミハエル(大天使「ミカエル」のドイツ語読み。そしてミーナの本名)がいるんだ。悪魔の一人や二人、いてもおかしくないかもしれない。
んで、その悪魔はリビングのソファにどっかりと腰を下ろし、ただただ余裕綽々な笑みを浮かべているだけである。
…こいつ、何か忘れちゃいないか?

「兄さん…約束は…」
「ああ、そうなぁ…」

ニヤニヤニヤニヤ笑い続けながら、兄さんはもったいぶって顎に手を当てた。
残念だ。イケメンだったらさぞ絵になるポーズなのに、ダサメンじゃあなぁ…。
ちなみに、このダサメンの腹の中では、とっくに答えが出ているんだろうと思う。
考え事をしているようなふりはしているものの、全体的に全然迷いの色がないからだ。
…何だろ。またしても嫌な予感しかしないんだけど。

「やっぱナシで」
「ぶっ!」

辛さで口の筋肉が麻痺しているのか。私は突っ込みを入れようとした途端、言葉は出ず、よだれだけが出た。
ティッシュとってくれ。さっきお前に渡してやっただろう。

「『約束はきちんと守る』ってぇ約束はしてねえからな。やっぱナシで」
「り、理由は…?」
「思ってた以上に、見てて面白くなかったから?」
「ぐゥ!」

ぶちっ!と頭の奥で何かが切れる音がした。
その一瞬だけ痛みが消えたので、私は兄さんに向かって突進した。一発パチキ(頭突きって意味らしい)かましてやろうと胸倉ひっつかんで、自分の頭を振りかぶる。
その時だった。体がフッと軽くなり、軽くなったと感じた瞬間、ぐぐぐっと床が近くなる。

「うおっ!」
「ぎゃあ!」

ドスン!という派手な音と共に、衝撃が来る。クッションが宙を舞う。
どうやら振りかぶった瞬間、ソファが後ろに倒れたようだ。
当然、そのまま私も兄さんも床に放り出されるが、そんなんはどうだっていい。うまい具合に兄さんが私の腹に敷かれているので、このまま身を起こしてタコ殴りにすりゃいい。
そう思って起き上がったら、すぐ横にキラッと光る透明なものを見つけた。
丸いし、この間買って行方不明になったルーペが落ちているのかな?と思ったのだけど。
よくよく見るとそれは、この男のビン底メガネじゃないか!
ソファから倒れた時に外れたに違いない!

(大発見!)

すぐにそう思った。
殴るのはやめにして、私はすぐに兄さんの顔を見た。
果たしてその素顔とは?

「…!!!」

見た途端、一瞬息が詰まった。
何だこれ!?

「退けやキリ!重いぞ!」
「うお!?」

いつまでも腹の上に腰かけられることに、イライラしたに違いない。
兄さんは私の腰めがけてエルボーを放つと、無理矢理私をどかしたのだ。
悪かったとは思っている。でもいきなりのエルボーはやめろ。全然身構えられないから床に叩きつけられる上、またしてもピンポイントで腰に圧かけられたら、ぎっくり腰になりそうだから。

「ええと…メガネ、メガネ…どこだ?」

まさか漫画でおなじみの「メガネメガネ」がリアルに見られる日が来るなんて、夢にも思わなかった。
兄さんは暫くのそのそと床を這いまわると、ようやくメガネを見つけた。サッとそのままかけてしまえば、相当薄味のルックス、いつもの兄さんに戻る。

「あー全身打ったわ。もう帰って湿布貼らぁ。…あ、お前も打ち身したなら後で連絡しろ。湿布くらいなら売ってやる」

そこは「恵んでやる」でしょ?と言いたかったが、兄さんには通ずるまい。
再び痛みが復活し、ついでに全身もズキズキ痛み出した私は、セレブの家の毛皮ラグになったかのように床の上に伸びていた。
兄さんはさっさと部屋を出ていき、そのままバタンと、奴が玄関の戸を閉める音を聞く。一人だけ無事に出て行ったことを面白みも感じることなく確認し、私はただ、内と外から来る痛みに耐え忍ぶしかないのだった。

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