2017-09

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「各々の休日」③(最終話)

こんにちは(或いはこんばんは)
今週二度目の更新をしました、奥貫阿Qです。
いやあ、こんな奴に週二度もお会いする羽目になってしまった皆様、いつもいつもすみません…、と、いいつつ、ありがとうございます!
おかげさまで今年も、着々とブログを更新できましたし、嬉しいことに三つも連載をやれました(数合ってるかな)!
カレンダーを見る限り、次の更新が年内最後のものになりそうですね~。
どうかせめて今年いっぱいは見捨てられることがありませんよう…。

さて、今回はタイトルにもあるように、「各々の休日」③の三話目、そして、最終話です!
この最終話を迎えるにあたり、一つだけ「今更かよ、お前(白い目)」的な感想をいただきそうなことを。
前回の感想として、「『ポン引き』って言葉を調べました!」という感想をいただいたので、今更ですが、下に用語解説を載せておきます(汗)
確かにこの言葉、解説いるよな~…と、今更ながら気がつきました。
もし同じような感想を持っている方がいらっしゃいましたら、すみません(汗)

ポン引き:娼婦を客にあてがう男性のことです。
江戸時代、吉原(吉原は時の政府公認の遊郭ですが)にも「遣り手」という、遊女を監督するという立場の婆さんがいましたが、その男性版というイメージで登場させました。

本当今更な用語解説ですね…。今後は注意します。

では、ぼちぼち本編へ移ります。
来週は忘年会ネタやります。
可能な限り、キャラ勢揃いさせます。
…この話にも一名だけ出したけどね(汗)!



「各々の休日」③

〈ポン引きから逃げること・続々〉
14:00(アヤト)

「…ってえ」

ものの見事に僕達は屋根から落っこちた。
幸いにも、落ちたのは布団カバーや衣服などの洗い場だったため、僕は赤や黄色の派手な布の中に埋まるだけで済んだのだ。
最も、落ちる際に薄っぺらいトタンを突き破ったせいで、微妙に体が痛いけれど。
だけど、僕は無事だからいいとして、僕をここまで逃がしてくれた人はどこへ行ったんだ?
一緒に落ちてきたはずなのに、全く姿が見えない。

「ミカ?どこにいるんだ?」
「…ここだ」

くぐもった声が、僕の真下から聞こえてきた。
あれ?と思い、僕は腰かけている場所を調べてみるために、パンパン、と、軽く布の山を叩いてみた。
…うん。何だか布じゃないやわらかいものが下にある。というか、いる。

「ミカ、ごめん!埋もれていたのか!」
「そうだ。…身動き取れないから、掘り出してくれ」
「分かった」

うっかり命の恩人を圧死させそうになっていたことを悟り、僕は大急ぎで下の布を払いのけた。
いた!金髪っぽい髪が見える!
「花咲爺さん」じゃないけど、掘れと言われて必死になってミカの全身を掘り出した。

「ミカ無事か!?」
「無事なもんか。腹の上に乗っかった上に、よりによって胸叩きやがって。二度痛いわ」
「…失礼しました」

気付かなかったとはいえ、そんな失礼なことをしていたのだと知り、顔から火が出た。
穴があったら入りたい。

「とりあえず起きるから、顔覗き込むのはやめてくれ。壁ドンならぬ布ドンされて、背中も痛くなってきたし」
「あ、ごめん…」

なさい、という前に、僕はミカの手によって払いのけられた。そのままさっさと身を起こし、用心深く周りを確認し始める。
…くそ、何て乱暴な奴なんだ。
キリさんと並んで、異性には見えない異性だよ。

「…ところで、ポン引きは」
「追ってきていないよ。どうやら僕達、上手く逃げ切れたみたいだ」
「それならよかった。あとはここを出るだけか…」

それが問題なのかもしれないけどな、とミカは言うが、そのミカの顔は、どこか安堵しているような感じがした。
そりゃそうだろう。一番の危険は消えたのだ。それを喜ばないわけはない。

「じゃ、早いとこここを出よう」
「そうだな。…うん?」

突然、ミカの動きがピタッと止まった。
何だ?ミカ、どうしたんだ?

「逃げろッ!」

ミカは立ち上がり、僕は首根っこ掴まれて立たされた。その後は…。
信じられるか?ミカ、僕をブンッ!って放り投げたんだ。ブンッて。僕、彼女よりも体重は重いし、背だって高い。無論、男女の体の差から言って、僕のほうががっしりした体格なのだ。
それに比べてミカは、普通の女性のように手も腕も細い。
一体どこから僕をブン投げるだけの力があるんだ?

「アヤト、走れ!」

上手く地面に着地した僕の真横を、ミカはものすごいスピードで駆け抜けていく。
その時だった。
バリバリバリッ!と、落雷のような音と共に、大きな岩が落っこちてきた。
いや、岩じゃない。人だ。
あのポン引きだ!

「うおぁッ!」

驚きすぎて息を吸いながら声が出た。そうか、これが「息をのむ」っていうんだね、と呑気な僕が頭の中でそういうも、その言葉に耳を傾ける余裕などない。
僕はミカに続き、再びポン引きから逃げ出した。
無言で、ブンブン腕を振りながら追ってくるポン引きは、まさに恐怖以外の何物でもない。しかも、「相手が何だかよく分からないことをしでかす」という、予測不能、原理もよく分からないようなの恐怖だ。
何て質が悪い。

「この先曲がるぞ!」
「あ、ああ!」

反応がやや遅れたが、ミカに返答をし、彼女の後に続いて道を曲がった。心の中で悪態をつこうとも、僕の足は先へ先へと道を急ぐ。
洗い場を抜け、ミカが言った通りに道を曲がり、無事に道に出られる。
…そう思ったのだけれど。

「…あれ」

行き止まり。
ここへきて、まさかの行き止まりだった。
しかも今度は、壁はすべすべしたコンクリートで、高さが五メートル近くもある。
雨樋も見当たらないし、足場になりそうなガラクタもない。
無論、抜け穴もなければ、勝手口もなかった。
まさに行き止まり。逃げて逃げて辿り着いたのは、どこへも行けない場所だったのだ。

「…ごめん、アヤト。道、間違えたみたいだ」

滅多にミスをしないミカが、ミスをした。
今の言葉で、僕はようやく現状に驚くだけの余裕ができた。

「はは…。ミカ。僕、今更になって心臓がバクバクしてきたよ…」
「私もだ」

普段ミスをしない人なだけあって、久々のミスが応えたのだろう。
ハッキリとは分からないものの、目に僅かな動揺の色が見える。

「…ああ」

ミカが呻くような声で呟く声が聞こえた。
何事か、と思い、彼女の視線をたどると。
いた。
ポン引きが追いついていた。
色々予測不可能なことをしでかしてくれたこの人は、今、怒りを全身にたぎらせて、のっそのっそとこちらに向かってくる。
まるで地面を踏みしめるかのような歩き方は貫禄たっぷりだ。
しかも一体どこで拾ったのか。ポン引きは太めの鉄パイプを一本ずつ、それぞれ両手に持っており、何とも物々しい雰囲気を醸し出している。…こちらに恐怖を与える理由に、事欠かない。
これから起こるであろう惨劇を思い、僕は爪が食い込むんじゃないかというくらい、両手をグッと握りしめた。そうでもしなきゃ、震えと恐怖に耐えられない。
ああ、キリさんごめんなさい。四年間僕の親代わりになってくれたというのに、僕はあなたに恩返しをしないまま消えていくでしょう。この不幸を、許してください。

「アヤト…」

最後に僕を守ろうとでもいうのか、ミカが僕に近づいてきた。
さっき落ちた時に、布団カバーに焚き込めた香の香りでも移ったのか、ほわほわといいにおいがしてくる。
不謹慎ながらも、僕がその香りにポワンとなっていると。

「まだ大丈夫そうだ」
「え?」

見れば、ミカの目には冷淡な色が宿っている。
その手には木の棒が二本。
つるつると磨かれた表面が心地よいこれは、麺棒だろうか。
しかし、なぜこんなところに?

「さっきそこに落ちていた」

そのうち一本が僕の方に投げられる。
麺棒をミカから受け取り、パッシパッシと手のひらで叩いてみた。軽く叩いているというのに、叩いた手のひらがじんじんと痛くなる。それだけでもこの麺棒が、かなりいい強度だということが分かった。
僕の予想だが、これをもしぶん回したら、人の骨程度なら折ることだってできるかもしれない。

「何とか勝てるんじゃないか?」

のっそのっそとやってくるポン引きを見ることなく、ミカはそう言い放った。
ふむ、と、僕は手渡された獲物を見る。
細いものの、なかなかの強度を持った麺棒。そして、相手と武器の数においては並んでいる僕ら。

「○×▲□※※※―――ッ!」

ミカに物を投げられたり、僕ら二人がちょこまか逃げられたりしたことに、とうとう怒りが頂点に達したのだろう。
ポン引きは、もはや言葉にすらなっていない言葉で吠え、こちらに向かって突っ込んできた。
赤黒く染まった肌が、まるで巨大な赤鬼のようで恐ろしい。
その恐ろしい存在に向かって、僕とミカはギッ!と睨みを利かせた。
…一瞬だけ、相手が息をのんだような気がするのは、気のせいだろうか。
しかし、そこまで考えている暇は僕らにはない。
躊躇うことなく、僕ら二人は綿棒を槍のように構えて突進した。
だが、僕の方はサッとポン引きに避けられてしまったため、僕の攻撃は的外れな方へと向かい、ちょうど目の前に積んであった大きな石に放たれることになってしまった。
バキッ、という鈍い音が、僕の耳に飛び込んできた。

15:00(アヤト)

「いやあ、助かった!あの店は違法営業をしている店でな。目に余るものがったんだが、なかなか尻尾をつかめなかったんだ」

上機嫌に僕らにそんなことを言っているのは、いつもは不機嫌極まりない我らが団長、ルカさんだった。
あ、この人、男性ね。ミカのように「男性名だけど女性」って人がいるので、一応言っておく。
そのルカ団長は、いかにも真面目そうなスクエアのメガネを指でつい、と押すと、先程まで僕らが逃げ回っていた区画を指さす。

「この区画は非公認の店が多い、通称『グレー区』と呼ばれる区画でな。滅多なことがないとMK分団でさえ立ち入りは難しいんだ。今日はいい証拠が掴めてよかったよ」

ルカ団長、お礼参りとか怖くないのだろうか。
僕とミカがげんなりとしている一方で、「捕まえた後どんなことが起こるか」なんて気にもせず、ほくほく顔で嬉しそうだった。
大体僕らは…申し訳ないが、自警団よりランクの高い警察組織「MK分団」に通報しようだなんて、思ってもいなかったのだ。ポン引きからの難を逃れたら、こことはおさらば。余計な騒ぎが起こる前に帰りたかった。
その理由はなぜか。
MK分団とは違い、僕ら自警団院の大半は兼業、つまり、他の職業も掛け持つ、ほぼ一般市民の集団なんだ。所詮は無力な烏合の衆だ。この事件をきっかけに「ヤ」から始まる皆さんや、その他バックについている方々とお知り合いになんかなりたくはない。
口先だけではMK分団だって、「君達の身の安全は保障する」と言ってくれるだろう。
だがMK分団の仕事は、自警団以上に組織がしっかりし、かつその分、国内外の唯一の出入り口である関所やその他国防関係の仕事が多いため、庶民には目がいきにくい。
結局のところ、僕達は自衛していくしかないのだ。…あーあ、厄介事がまた増えた…。

「とりあえず、今書くべき調書は書いたよな?」
「書いたね。ここにいる必要は、もうないよ」
「だよな…」

帰るか。

口には出さなかったけれど、僕もミカもそういう雰囲気になっていた。
やることが終わったのなら帰りたい。帰って怒られて寝てしまいたい。
ポン引きと対峙した時に出た本気はどっかに飛んでいき、今の僕らはただの抜け殻になっていた。本気が抜けきった僕らには、ただただ気怠さが全身に満ち溢れていた。
無言で帰るのも失礼なので、団長に一言断りを入れてから、その場から去ろうとした。

「ああ、そうだ。君達」

この事件ですっかり機嫌がよくなっている団長が、僕らが声をかけるかかけないか、というところで、また話を始めてしまった。

「今回検挙した店の主と、君達を襲ったポン引きだがな。今後は君達のこと、及び、君達の親戚縁者には一切手出しをしないという誓約書を書いたんだ。珍しいことに、朱肉で印まで押して行った」

ほら、と、団長が示すそれは、確かにそのような旨のことが書かれた誓約書だ。ちゃんと律儀に親指で押した印が、紙の上に赤く残っている。
だけど、なんて汚い字なのだろうか。
雪の夜にマッパで字を書かせてもこうはなるまいというような、震えるようにのたくった文字が書面上にある。
誰が書いたのか分からないが、こんな文字を書いた奴を信用できるか。

「へたくそな字だろ。これを書いたのは店の主だが、以前にも『違法営業はしない』という誓約書を書いている。その時にはこんなにへたくそな字ではなかったんだがな。むしろ、書家のような美しい字だった」

続いて、あのポン引きが書いたという誓約書を見せてもらった。
こちらは店主以上にひどい字だった。
幼児の落書きか?と思うような図形の横に、いびつな丸が書かれている。

「あまりにも手が震えていて名前が書けなかったからな。丸を書いてもらった上で印を押してもらったんだ。…しかし、こうして正式な書類をもらえから、法的な拘束力はずいぶん強いものになる。それはいいことだ。だがな、腑に落ちないのは二人の証言だ。主は『あのポン引きは元はユバナ軍にいたっていうから雇ったんだ。それなのに何であんな…』といい、ポン引きに至っては『鬼が出た。准尉殿の亡霊までも…』と、うわ言のように繰り返すだけだった。一体奴らの身に、何が起きたのやら」
「あー…」

覚えは、ある。
「准尉殿」ってのが誰かは分からないが、それ以外は十二分に。
そう思わせるだけの覚えは、十二分にあります。
だけどそれをそうと言う訳にもいかないので。

「何でしょうかねえ」
「それはよく分からない話ですね」

適当にしらを切らせていただいた。
そう。この一見は無事に終わったんだ。ただそれだけが肝心なことなんだ。

「ん?何だかお前らから、何かが焦げたような臭いがするな…。何かあったのか?」
「ありません」
「大丈夫です」

団長、もう終わったからいいでしょう。
例え路地の裏で麺棒が燃やされ、その麺棒で貫いた壁や石や地面があったとしても。

17:00〈仮面の人・ポン引きから逃げること〉
(アヤト)

「ただいま帰りましたー」

いろいろすったもんだはあったものの、僕は無事に満月堂への配達を終え、我が家に帰ってきた。ミカと別れ、一人で帰り道を歩いてきたからか。とっぷりと日が暮れ、あたりが薄暗くなった時、心細かった。
さっきまで嫌ってほど騒がしい事件があったからかもしれない。

「キリさーん。お夕飯当番はあなたでしたよねー?今日の夕飯は何ですかー?」

どこの家庭でも聞けそうなこの言葉を言いながら、僕は靴を脱ぎ、のそのそと廊下を進んでいく。
リビングのドアを開ければ、夕食の美味そうな匂いが飛び込んで…

「わああああああん!ようやっと帰ってきたあああああ!」

こなかった。
代わりに飛び込んできたのは、めでたく結婚適齢期を迎えた我が師匠だった。
カーテンが開きっぱなしになったリビング、夕食が作られた痕跡がない台所。何より異様だったのは、キンキンに冷え切った部屋の中だった。壁に掛けられた温度計を見れば、暖房をたいているというのに部屋が十五度を下回っている。おかしいだろう。
それに加えて、いい歳こいた師匠が、びゃあびゃあ泣きわめいているのだから、ただ事ではあるまい。

「色々部屋の中がおかしいですが、何かあったんですか?」
「びゃああああああ!」

ああ、だめだこりゃ。質悪いわ。
僕は師匠のことを軽く、ホントに軽ーくボコッ、と殴って泣くのをやめさせた。
いわゆるショック療法ってやつだ。

「いってぇ!何すんのさ!」
「いつまでも泣いているから、こっちゃ訳が分からないんですよ。何かわけがあって泣いてるんでしょう?その訳を言ってくださいよ」

ほら、と、なぜかクッションがめちゃめちゃになって置かれているソファを指差し、僕はキリさんを座らせた。
僕はテーブルを挟んで、その向こう側にあるもう一つのソファに腰かけた。

「さあ、どうぞ。これから夕飯も作んなきゃなんですから、なるべく手短に」
「また外食でいいじゃん」
「だめです」

あんたうちの家計状況知って言ってんのか、と、暗に含ませて言うと、師匠はぶすっとした顔になったものの、一応話し出してくれる。

「分かったよ…。じゃ、まず、君がいないときに起こったことを話すね。君がいないとき、昼くらいに、うちにアイ兄さんが来たんだ。兄さんはめちゃくちゃ辛いチゲうどんを作った。あんまりにも辛いにおいだったからね。兄さんが帰ってから換気したんだ。さっきまで換気してた」

なるほど。この異様なまでの部屋の寒さは、さっきまで換気をしていたせいだったのか。
この寒さの理由は分かったので、キリさんに話の続きを促す。

「で、兄さんがチゲうどんを食っている最中に、兄さんのメガネにうどんの汁がはねてね。その時、『せっかくだし兄さんの素顔見てみたいなぁ』って言ったら、兄さんが『お前がこのチゲうどん食ったら見せてやる』って」
「はぁ…」

そんでもって、この人、本当に食ったのか。部屋の換気が必要になるほどの刺激臭があったというのに。
そして、あのアイさんのことだ。たとえ理不尽な約束をしても、大抵は人が嫌がる様を楽しむだけ楽しんだら、約束なんて守ろうとしないだろうに。

「で…首尾は?」
「いやぁ。…それが参ったことに、兄さんは『やっぱナシで』とか言い出しちゃってねえ。私は約束を守ったのに」

やっぱりそうか…。
それでわんわん泣いていたのかな、と思ったが、キリさんの話は意外な方向へと進んでいった。

「で、まさかここで裏切りに遭うとは思わないじゃん?私は怒って、兄さんに掴みかかったんだよ。その時さ、掴みかかった衝撃でソファが倒れたんだ。それと同時に兄さんのメガネが吹っ飛んだんだ。だから私、『これはチャンスだ!』と思った訳よ。そうやって私は兄さんの顔を見たんだけど…そこで、何を見たと思う?」
「え?」

何だろ。
全く予想もしていなかった質問だけに、妥当な答えが思い浮かばなかった。
ベタな展開だとしたら、「実はイケメンでした~」ってオチか?

「…一応、先に答えを聞いてもいいですか?」
「ああ、構わないよ。その時見たものがきっかけで、君の帰りを今か今かと待つはめになったんだもの…」

そう言った時、師匠の顔は見る見るうちに真っ青になっていった。

「ノッペラボーだったんだよ!ちょうどビン底部分に当たる部分に、目がないの!!」
「はぁっ!?」

んなあほな。
両目がない人なんて、そういるものか。

「本当なんだよ!信じてよ!」
「あのですね。そういう人はいるでしょうけど、アイさんがそう言う人だとは言い切れないでしょう。ミカが前に言ってたじゃないですか。アイ博士は『ビン底をかける前まではイケメンだった』、『目が印象的な人物だった』って。ある事故以来、あのメガネをかけるようになったそうですが」
「じゃあその事故で目がなくなったのかもしれないじゃん!」

びゃあびゃあ泣きわめいていたかと思えば、今度はぎゃんぎゃん喚きだした師匠に対して、僕はハァ、と一つ溜息をつくと、肝心要のことを訊いてやった。

「キリさん…。アイ博士がメガネをかけるようになった訳はご存じで?」
「うん。目に火花が入って視力が落ちたとか…」
「そうです。その際、アイさんは目の外科手術をしたと言ってましたか?よしんばしていたとしても、あなたがアイさんの顔を見た際、目の辺りを縫い付けたような痕跡があったりしましたか?」

そう、これなのだ。
生まれついて目がないのだったら分かる。だが後天的に目がなくなったというのなら、何らかの痕跡が残っていると思うのだ。
本来あったものがなくなるということは、「それがかつてあった」という痕が残る。
人間全てについている臍しかり、僕の片足しかり。…僕の片足にも、切られた傷痕を縫った跡がハッキリと残っているのだ。

「うーん…。ない、かな。何にもない綺麗な肌だった…」
「でしょう。だったらそれは、あなたの見間違いでしょう。もしくは、アイ博士が仕組んだイタズラです。あの人、そういう質の悪いことを平気でしそうじゃないですか」
「そうかぁ…」

そうかもなぁ、と、煮え切らない言葉を言う師匠に、僕は二度目の溜息をついた。
自分で言うのもなんだが、十中八九、今僕が言ったことは当たっているのではないかと思う。
だってあのアイさんだ。そして、今のこの時代は僕のような奇妙な連中がいる世の中だ。
「不思議!」の一言で片づけるには、このような環境じゃ雑過ぎるだろう…。

20:00〈仮面の人・ポン引きから逃げること〉
(byミハエル)

「ヒッヒッヒ…。さっすが期待の新人。いい勘してやがる…」

自分のラボの中で、アイはそう言ってニヤニヤしていた。
趣味の悪いことに、こいつは修理屋の中に監視カメラを設置し、彼らの様子を見て楽しんでいたらしい。

「さてさて…。ほんの出来心でキリをからかっちまった訳だが、いつネタばらししようかねぇ?やっぱりエイプリルフールとか?」
「ざけんな。紛れもない事実を『嘘ついても怒られない日』に言ってどうする」

奴があまりにもアホなことを言い出したため、いつの間にか声をかけていた。ただ静観するだけにしておこうと思っていたのに。

「あ?ミカ…じゃなくていいか。ミハエル、いたの?」

また何かの作業中なのか、奴はこちらに顔を向けずに話をする。
今、こちらからは奴の横顔しか見えない状況だ。

「知らないふりするな。初めて会った時すら、私の訪問に気が付いていたくせに」
「あれは俺が招待したからだろうが。…まあ、いいや。何か用?」

何か用、かよ。
今日私に用があるってメモを、私の家の中に置いてったのは誰だ。
あんな死にかけたミミズみたいな字を残していきやがって。…何かの呪詛かと思ったわ。

「演習の道具、できたんだろ?」
「ああ、その話」

またしてもしらばっくれた奴は、部屋の片隅にある硬質な光を放つ小山を指差した。

「道具ならそこさね。俺的には問題ねえから、後はお前次第で」
「それはどうも」

今日はもうポン引きとの追いかけっこと、MK分団とのやり取りで、精神的に疲れた。どっちかというと、後者の方で疲れた。
その後で、こいつと無駄に争う気はない。

「じゃ、私はこれで」
「あ?帰るの?せっかく来たんだし、ゆっくりしていけば~?」

疲れている時に、心にもないことを言わないでほしい。

「黙れ、茶の一杯も出さない腐れメガネ。シロアリにでもたかられやがれ」
「腐ってねえし」

途中でぶっ倒れても知らねーぞ、と、奴は言うが、聞く耳持たない。
持ちたくない。

「あーあ、今日はついてねえな~。メガネについたうどんの油は落ちねえし、元部下は辛辣ときたもんだ」
「元、部下だから辛辣なんだ。こんなん相手に、タメになってからも気を遣うだなんて無理だ」

…あ。
ここまで言って、ようやく今のこいつの状態が理解できた。
何でなんだ、と思っていたが…そうか。そういう訳か。

「お前、今メガネの洗浄中か。だから珍しく裸眼なんだな」
「何、今気がついたの」

そう言うと、奴はようやくこちらを振り向いた。
電子機器独自の青白い光が眩しい。
その中で奴の切れ長の目と、馬鹿に人工的な青い瞳が目立っていた。

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