2017-11

「おいでませ、未年」

「おいでませ、未年」
(by アヤト)

「忘年会やるよ!満月堂で!」

MK分団と自警団の合同忘年会をやると聞いた一週間後、僕達は仕事が上がってすぐ、予定時間ぴったりに満月堂に集合した…のだけれど。

「あれぇ?」
「おや…」

会場を取り決めた僕とキリさん意外、まだ誰も来ていなかった。

「何で?ねえ、マリさん」

首を傾げた師匠が、ここの主人であるマリさん(本名は「マリア」さん)に問う。
確かに変だ。
基本的に時間はきっちり守るはずのミカやルカ団長までもいないってのが、尚更。

「ああ、MK分団の人達は書類提出があるから、少し遅れるらしいわ。ミッ君やアイさんは早めに来てくれたから、つまみの買い出しをお願いしたの」

キリさんの問いに答えて、ひょっこりと赤く波打った髪が厨房から覗いた。
この人がマリさんだ。
身長、体型共にモデル並み。顔はギリシャやローマの彫刻のように美しい。
これが主な彼女の特徴だろう。我ながら結構盛った説明をしたなぁと思うけど…その理由は忘年会が始まれば分かるよ。

「おーす」
「お邪魔します」

マリさんが話し終わってすぐ、僕らに続く参加者が来たようだ。
顔は見なくても分かる。

「ラグさん、と、そのお姉さんのエイミーさん?」
「そうそう!アヤ坊、物覚えがいいなぁ。まだ二、三度しか会ってないのに」

今話している人は、MK分団の団員のラグさん。本名は「ラグナル」さんというらしいが、ミカの本名同様、カザミでもユバナでも珍しい四文字の名前なので、普段は省略して呼ぶように言われている。
やたらと喋る声がデカい人ってことを除けば、キリさんをそのまま男にしたような人かな。
何てったってこの人は、

「おおー、キリ!お前も来てたのかぁ!」
「兄ちゃん久しぶりー!」
「おいおい、ガキの頃と同じ呼び方しなくってもいいだろ?」

キリさん達が通っていた学校の先輩!
でも、ラグさん達のご両親が行商をやっていたため、半年くらいしか村にいなかったらしいんだけど。
短い期間ながらキリさんはラグさんに懐き、兄弟のように接していただいたらしい。
ラグさんの影響をもろに受けたキリさんは、現在のような性格になったとか…。うん。一言で言えば「何余計なことしてくれたんだ」って感じだな。

「あは。流石カザミの食いモン食っただけあるなぁ。春に見た時より背ぇ伸びてら」
「ウン。とうとう百六十センチになった!」

百八十センチ近いラグさんが、キリさんの頭をガシガシ撫でていた。傍から見ていると、本当に兄弟(「兄妹」ではなくて「兄弟」)みたいだと思う。
ちなみに、ラグさんがキリさんの先輩と言うことで、ラグさんのお姉さんであるエイミーさんもキリさん達の先輩ということになる。だからか、今回の忘年会に、急きょ特別に参加することになったらしい。

「あ、エイミー兄ちゃんも久しぶり」
「もう『兄ちゃん』じゃないでしょう?『姉ちゃん』、ね?言ってごらんなさい?」
「…ごめんなさい」

…ちょっと笑顔の裏にある含みが怖い人だけれど。
この人も、本名は「エイミー」という短めの名前ではなくて、ちゃんと「エイミール」という名前を持つ。ミカに引き続き、「女性であるけど男性名の人」だ。
その理由は、キリさん達が育った村の風習「成人を迎えるまで、女児は男のふりをしなければならない」に則って、名前が付け変えられたからだとか。
そのため、キリさんを含む当時のエイミーさんを知る人は、大体昔通り「エイミー」か「エイミー兄ちゃん(もしくは兄さん)」と呼ぶらしい。
本人はそれを殊の外嫌がっているらしいんだけど。

「すまん、遅くなった!」
「お邪魔ですう」

そうこうしているうちに、ルカ団長(以下「団長」)と、その妹でMK分団の団員であるカンナちゃんもやってきた。

「おお、もう他の奴らは来ていたのか…。アヤト、悪かったな。会場から会費まで、全部君が決めたと聞いている。色々大変だっただろう」
「いえ。僕がキリさんと団長の知り合いだと、マリさんも知っていたので。むしろマリさんの方が大変だったかもしれませんよ」

先週も登場したルカ団長は、アイさん同様メガネをかけた男性だ。最も、アイさんの渦潮メガネと違い、団長はスクエア(メガネのレンズ全体にリムがある)とアンダーリム(レンズの下側にしかリムがない)のメガネを交互に使う洒落た人だ。
百八十センチを超す長身で、背の高い分気も長い人である、

「ああっ!キリ副団長!自分の部下の目の前で、男といちゃつくな!」

…という訳ではない。
むしろ、堅物で短気な人なんだ、この人は。
小さい頃にユバナからカザミへ移って学を積み、いわゆるエリートになった意識が、若干悪い方へと働いているのではなかろうか。…悪い人ではないんだけどねぇ。

「いちゃついてないですよ。ちゃんと(元)彼いますもん」
「余計悪いわ!それ以前に『(元)』って何だ!過去のことだろそれじゃあ!」
「酷いっすね!恋愛は過去のことだからなお美しいんでしょうが!」
「誰の言葉だ!そんな女々しい言葉は!」
「一女性である私の言葉ですよ!」

堅物な団長とプリン並みの強度しか持たない我が師匠が、真正面から激突していた。
ピリピリっとした空気になるも、心配する必要はない。

「お二人さ~ん、喧嘩は止めたらどうですう?」

ほわーんとした空気を放つ存在が」、そこにいる限り。
この語尾がはんなりしている人物がカンナちゃんだ。お兄さんとは違い、ユバナ崩壊までユバナに残り、軍で小間使いをしていたという。
要は小間使い時代のキリさんの後輩にあたる女の子だ。実はキリさんを自警団に勧誘した子でもあるのだけれど、長い話なのでここでは省く(後で話せたらいいですね)。

「せっかくの忘年会ですのに、ぶち壊しにしちゃしゃあないじゃないですかあ」

ユバナのどこかの地域の方言らしい、ニホンのカンサイ圏の言葉を混ぜたような話し方が特徴的だ。
…さて。これで全員の紹介は終わっただろうか。
あとは軍部組二名が来れば、忘年会を始められるのだけれど。

「ただ今戻りました」
「えげつねえ程つまみ買ってきたぜ~」

お?そうこうしているうちにやってきたな…って。
げぇっ!

「ちょ、ちょっと待て、お前らッ!」
「はい?」
「俺ら、何か変ですかね?」
「変もくそもあるかッ!」

僕が口を開く前に、団長が口を開いた。
さっきまでキリさんに向けていた刺々しい視線を、今はこの二人に向けている。
そりゃそうだろう。何も言わなかった僕らですら、目が点になったのだから。

「何だってそんな恰好してるんだ!特にアイ!お前が今着ている服は、ビンゴ用に買ったナース服だろうが!」

ああ…こんなんを説明しなきゃいけないと思うと、悲しくなる。
でも、頑張って説明しよう。
買い出しに行かされた二人は、何をトチ狂ったのか、忘年会のビンゴゲームの景品として買った衣装を身に着けていたのだ。
え?チョイスしたアンポンタンは誰かって?うちの師匠ですが何か?

「しかもミカ教官…。お前は何でサンタ服着てるんだ。すっごい今更だろう…」
「あったかそうだったので」

このサンタ服(ミニスカじゃないやつ)も、キリさんチョイスの品だ。
この間の小規模なクリスマスパーティをした際、ケーキ以外にも買ってきたのがこの衣装だった。「一回お披露目しただけじゃ勿体ないでしょ?」と言う理由で、これもビンゴの景品となったのだ。というか、なった筈だ。
それを「あったかそうだから」と言う理由のみで着ちゃうミカって…。

「アイはボケ全開だからまだ怒れるが…。ミカ教官、無表情でボケをねじ込むのは止してくれ。なんなことされたら、何て言ったらいいのか分からなくなる」
「普通に突っ込みを入れたらいいでしょうが」

そーいう問題じゃあないんだよなぁ…。
まあ、でもね。

「みなさん、これで全員揃いましたよね。そろそろマリさんに料理を出していただこうと思うんですけど」

やっと僕がそう言うと、団長からOKが出された。
さて、ようやく忘年会が始められる。
…あれ?

「まだ誰か忘れている気がするんですけど…」

ジリリリリリン

僕の言葉を遮るようにして、旧式の電話が鳴り響いた。
誰だろうか。今日は貸し切りなのに。

「お電話ありがとうございます。満月堂です」

一番電話の近くにいたミカが、受話器を取った。
すると、電話越しでもワンワン響く高い声が響いてくる。
誰だよ。野郎なんだろうが、やけに高い声だな。声変わり前か?

『ひどいっすよぉ、先輩!買い出しに向かわれたというからお店に迎えに行ったのに店にいませんし、そうこうしているうちに忘年会が始まる時間になっちゃいましたし!』
「ああ、新兵太か…。ごめん、お前のこと忘れてた。」
『本当に酷いっすよ、それ!』

忘れてる人、いた!



「えー…。忘れかけていたシンタ君も来たということで、そろそろ忘年会を始めたいと思います。乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
「アヤトさんもあんまりっすよ…」

乾杯の音頭の中に、シンタ君の悲痛な声はかき消された。
ミカに存在を忘れられていたこの少年は、ユバナ軍時代、ミカの直属の部下だったという。
僕はユバナ軍の関係者ではないが、彼の階級は知っている。二等兵だ。
「二等兵」というのは、軍の中でも一番下の階級で、いわば軍に入ったばかりの者が持つ階級である。別名「新兵」。
アイさんだかミカだかに「シンタ」という名前とその「新兵」という階級をもじられて「新兵太」というあだ名をつけられた彼は、MK分団に入った今でも、かつての上司に頭が上がらない状態でいる。
でも、それが不幸ってわけでもない。

「准…教官~。お酒お注ぎしますよ~」
「悪いけど、まだ未成年なんだ」
「いいじゃないですかぁ」
「よくねえよ」

シンタ君、酒を飲んだわけでもないのに、でれっでれである。
実はシンタ君は、ユバナ軍にいた頃からミカに対して何か憧れめいたものを抱いており、今もなおそれが健在のようなのだ。
…何て言うかな。野郎の可哀想な性を具現化したような人だよ。ミカは確かに美人さ。マリさんが以前ミカを見て、「変身前のキューティー○ニーみたい」って言ったことがあるくらいには。
でもミカとキューティー○ニーの接点て、髪の色と戦闘力の高さくらいなんだよ。それ以外は面白いぐらいに○ニーとミカとの間には差があるんだってば。

「容姿の接点はないんすかー?アヤトさーん」
「…まあ、多少は」
「ぶふっ」

おい誰だ。今「ぶふっ」て笑った奴は。

「もしかしてアイ博士ですか、今吹いた人は。失礼でしょうが」

僕が視線を向けると、そこには確かにアイ博士がいた。ナース服は脱いだのだろう。ネクタイなしでシャツをだらんと羽織っている。
しかも珍しいことに、今日はきっちり白衣のボタンをとめている。寒いのか?

「失礼って、誰に対してだよ。今発言したお前にか?それとも容姿云々で話題にされてたミカの奴にか?」
「もちろんミカにです」

まさかシンタ君に言ったことを聞かれているだなんて、思ってもいなかった。ましてや、彼に同意したことで笑われるとは。…恥ずかしい以外にないだろ!
このままではただ単に言い負かされるだけで終わってしまうので、テーブルのどこかに座っているであろう彼女を探す。
…あ、いた。一番端っこに座って、白身魚のフライを食べている。

「なあ、ミカ。君だって失礼だと思うだろ?今のアイさんの態度はさ」

やや大きめの声を出してミカに呼びかけると、ミカは怪訝そうな顔でこっちを見てきた。
あれ?これってもしかして。

「あ?何の話だよ?」
「聞いちゃいねえじゃねえか!」

だっはっはっ!と、ビール片手にアイさんは馬鹿笑いをし出してしまった。反論したいが、こちとらその術を持たない敗北者だ。
大人しくただ耐えるしかなかった。
…ああ、恥ずかしい。二度にわたって恥ずかしい。
ちなみに、無理矢理口論に巻き込まれそうになったミカは、

「ラグ先輩、この魚美味いですよ」
「だろう!?何せ姉ちゃんが獲ってきた奴だからな!もちろん俺も手伝ったし!」

自分の先輩が獲ってきた魚を褒めていた。
どうやらこちらにはもう興味を示していない様子で、彼女の視線はただ白身魚のフライにのみ注がれている。
余程お気に召したのか、食べ終わったらすぐに十個もおかわりをしている。
うーん…完全に僕、ミカにもアイさんにも取り残されたな。

「大丈夫っすよ!アヤトさん大…アイさんに口論で負けてないんすから!」
「…その気持ちだけ、いただこうかな」

もっとも、シンタ君がどう言おうと、雌雄は決したのだ。
暫くは大人しくテーブルを眺めるだけにしておくか…。
そう思って、近くにあるネクターを飲もうと手を伸ばした時だった。

「ルカちゃ~ん。名前だけはかぁいらしいルカちゃ~ん」
「…支部長、もといマリアさん。早くも酔ったんですか。酒臭いですよ」
「まぁ~ら酔ってまへんっ」

いや、その喋り方は明らかに酔っているだろう。
そうとしか思えない声が、ミカのちょうど向かいにある席から聞こえてきた。
普段なら「何事か?」と思うようなやり取りだが、ここにいるメンバーがメンバーなので、気にすることはなかった。
ちなみに皆さんは、この話の最初の方で話した、マリさんの特徴を覚えているだろうか。
「身長、体型共にモデル並み。顔はギリシャやローマの彫刻のように美しい。」
これが、僕が話した、マリさんの特徴だ。「我ながら結構盛った説明をしたなぁ」とも言った。「その理由は忘年会が始まれば分かる」とも。
今ようやく、盛りに盛ったマリさんの特徴が役立つ時が来たようだ。

「だあああッ!寄るなッ!唇寄せるなぁぁぁ!」
「いいれしょうが~」

…こういうことが起き始めたからな。
僕が散々マリさんの特徴を盛って説明したのは、彼女はべろんべろんに酔うと野郎に絡む癖があるからだ。ちょうど今のように。
しらふの時ですら野郎をひっかける分、酔ったらどうしても見苦しくなってしまう。そのため、視覚的にプラスになるイメージを先に言ったという訳さ。
具体的にどう「見苦しくなる」かというと。

「あ。や~だ~、シンタ君…新兵太君?かぁいい~」
「かぁいくないですッ!」
「ミッ君~」
「チェンジしてください」
「アヤト君~」
「スキップで」
「アイさあぁん~」
「一周したな。振出しに戻ってくれぇ」
「じゃ、やっぱりルカちゃ~んん」
「ぎゃあああああ!」

見境がない。
自分の視野に入ったのが野郎、或いは野郎っぽい人であれば、誰彼かまわず絡んでいくのだ。
これで元MK分団支部部長だっていうんだから凄いよなぁ。…あ、ちなみに「ミッ君」というのは、ミカのことね。加えて説明すると、ルカさんはマリさんの元部下であるためか、散々からまれる運命にある。そのため、こちらからは何も言うことはない。

「ル~カ~ちゃああああ~んん~」
「わあああああ!」

やはり敢えてマリさんの隣に座るという選択はしたものの、いざマリさんが暴走し出したら、やはり怖かったらしい。逃げ出しはしないものの、団長は何とかマリさんと距離を置こうと必死だ。

「アヤト」
「はい?」
「俺は身を挺して部下達を守ってやった。それなのに、何故部下達は俺を助けようとしないのだろうか」
「あー、まぁ、火遊びが嫌いだからでしょうね。みんな硬派なんですよ」
「君はともかく、アイやラグは硬派とは思えないんだが?」
「ふぁい?むぁんれふ?」

失礼ながら、僕はこもりにこもった声で返事を返事をした。
だってねえ、ミカが今、白身魚のフライを僕に進めてきたんですもん。味の感想まで聞くんですもん。
もたもたしてると魚を口に突っ込まれそうだったし…。どうしたってこっちを優先しますよ。
魚は好きじゃあないんですが。
むしろローストビーフとか、そういう料理が好きなんですが。

「お兄ちゃんちょっとごめんねぇ…。アヤトさ~ん。そういえばキリさんはどこ行きなさったんですう?」
「ぅん?」

フライを呑もうとした時、ちょうどカンナちゃんに声をかけられた。
確かに、さっきから妙に静かだと思っていたが、キリさんがいないからか。
実際、あまり広くない店内を見回してみても、キリさんの姿を発見することはできなかった。
僕はフライを呑み込み、カンナちゃんの方に向き直った。

「トイレじゃないのかなぁ。多分。そうでなくても、あの人すぐにどっか行っちゃうんだよ。ごめんね」
「いいえ~。…でもそうですかぁ。せっかくパンプキンプリンの作り方教えていただこうと思ってましたのにい」
「…それは止めておいた方がいいと思うよ」

あのハロウィンの日、ミカにパンプキンプリンを食われたのがよっぽど悔しかったのだろう。
バザールを歩いている時や近くの商店でプリンが売られているのを見ただけで、キリさんは「チクショー!」と絶叫することが多々あったから。
最近は週に一回とか、そういうレベルにまで落ち着いてきてはいるが。
でも、プリン云々は差し引いても、キリさんの行方が分からないことは気になる。
あの人、単独行動になると、訳の分からないことをすることが多いからな。

「本当に、どこに行っちゃったんだか…」

もう一度キョロキョロと辺りを見回してみると。

「いや~、あったあった!シャンパンのおかわり!」

厨房の奥から、キリさんの声がした。
何だ。シャンパンのおかわりを探しに行っただけか。
…うん?

「マリさーん。あんな奥まったところに置いといちゃ分からないって~」
「ワアアアアアッ!」

だけじゃなかった!
何かやたらとシルエットがフワフワしているような…と思っていたけど!

「何ですそれ!作りかけの着ぐるみですか!?」
「ああ、これ?着ぐるみというか何というか…。強いて言うなら、着ぐるみっぽいビキニ?」

油断していた。
キリさんは姿を消したその瞬間に、何だかよく分からない衣装に着替えていたようなのだ。
以前DVDで見た「欽ちゃんの仮装大賞」のバニーの姉ちゃんのような格好をしてやがる…!
でも、今キリさんが着ているのは兎を模したものじゃない。それにしては嫌にフワフワしたデザインだし、何より頭にアンモナイトみたいな形の角をつけている。

「これは羊だよ~。来年の干支!」
「ああ、成る程…って、そうじゃないでしょ?何で来年の干支だからってそんな恰好するんです?」
「あ、やっぱカエルのが良かったかな?」
「そういう問題でもなくて!」

部分的に暖かそうで部分的に寒そうなカッコのまま、キリさんはノソノソとテーブルに近づくと、栓抜きを手に取って、シャンパンを開け始めてしまった。
普通こういう時には、団長なりシンタ君なりが止めてくれる。だけど、団長はキリさんに気付かない程マリさんの相手をするので精いっぱいだし、シンタ君とカンナちゃんはキリさんの姿に釘付けになっているため、役に立ちそうもない。ラグさん姉弟は酒に酔い潰れて眠っちゃってるし。
身内である軍部組は、端からあてにならないしなぁ。

「いいぞ副団長ー!お腹がシェイプアップされてりゃ完璧だろうがな!」
「アイ博士、今は黙っててくださ…いぃっ!?」

怒鳴ろうとしたものの、僕の声は途中で変な風に潰れて消えた。
だってこいつ、またあのナース服着てんだもん!

「あんた、さては白衣の下に着たままでしたね!?」
「あ?だって今日着なきゃ着る機会ねえだろが。いくらビンゴの景品っつってもさ」
「自宅で着りゃあいいでしょうが!」
「それじゃ変態だろうがよ」

公衆の面前でナース服を着用するのは、変態じゃあないのか?

「すね毛薄いから問題ねえと思ったんだがな…」
「そういうこっちゃないです」

もう色々突っ込み過ぎて、素の声しか出なくなってしまった。
誰か…誰かここに、まともな反応をしてくれる奴はいないのか!?

「あっくん、ごちゃごちゃ言うんじゃないよーーー!」

一時存在を忘れていた師匠が、声を張り上げた。
あまりにも元気のいい声だったので、寝ていたラグさん姉弟は跳ね起き、シンタ君とカンナちゃんはハッとした顔になる。あのマリさんですら騒ぐのを止めてしまった。
良くも悪くもキリさんに視線が集中する。
キリさんは、その視線を浴びると満足げな様子でニィ、と笑うと。

「みなさん、来年もよろしくおねがいしまぁああああす!」

シュポーンッ!と景気よくシャンパンの栓を引っこ抜いた!
ブワッと勢いよくシャンパンが吹き出し、全員に向かって澄んだ香りが飛んでいく。
まさか年末にシャンパンシャワーを食らうなどとは思ってもみなかった自警団員、MK分団員、その関係者に当たる皆様は、「馬鹿野郎!」だの「酒がもったいねえだろうが!」などの罵声を吐きながら、それでも何だか楽しそうに、飛んでくるシャンパンを避けようと必死になっていた。
…でもねえ、キリさん。派手にやりたいのは分かるけど、ちったあ考えて酒を選んだらどうだ。
シャンパンったら、炭酸入ってるだろ?

「あ、目にしぶきが入った」

自分の目に炭酸入りのしぶきが入ったら、かなりしみるだろ?

「いやああああ!目が、目があああああ!」

しみたら絶対痛いだろ?

「いでえええええ!」

痛かったら目エつぶるだろ?

「ううっ、イテェ~…って、目エつぶったら周り見えないじゃん!」

目エつぶったら周囲の様子なんて分からないだろ?

「と、とりあえずティッシュ~…」

その状態で物なんて取ろうとしてみろよ。

「あ、あった!…うん?何かガタンッていったような…」

絶対何かにぶつかったり、物を踏んづけたりするから。

「きゃあああ!」
「キリ、足、足ぃー!」
「へっ?」

ガタガタッ!ガタンッ!
ガシャーンッ!
…漫画だと、こういう文字が全面に躍り出そうな程の、凄い音が響いた。
キリさんがテーブルの脚の下にあった支えを蹴っ飛ばしてしまったため、テーブルが倒れ、その上にあった皿が全部床に落ちてしまったからだ。

「キ、キリお前えええええ!」
「あー…。言っとくべきだったわねぇ。その脚だけ妙に脚が短かったから、下に支えを置いていたのよ。他の脚と高さを合わせるために…」

叫ぶ団長と、皿代を考えて顔を覆ってしまったマリさんを、この時ようやく目が元に戻った師匠が見る。
それと、自身がやらかしたことも。

「うわぁ…。マリさんごめん!この皿はウチが直すから!無償で!」
「無償で!?」
「当然だろ!」

今「当然だろ!」と言ったのは団長。「無償で!?」と叫んだのは僕だ。
僕らの本業は、物を修理する費用すらままならないような修理屋だ。修理する、という行為一つで苦労するのに、それをタダ働きで修理してみせると!?
修理代はどっから工面するんだよ!
僕がそう思っていると、キリさんはヘラリと笑みを浮かべて、愛さんに近付いていった。

「兄さ~ん。お皿修理するためのお金貸ーして?」
「ヤダ」

半ば濡れ鼠になったナースは、ニヤニヤ笑いながら首を横に振った。

「そう…。あ!じゃあ、エイミー兄…姉さんは?」
「お金の管理ができてこその大人でしょう?」

ニコニコ笑顔を張り付けたまま、キリさんは正論を叩きつけられてしまった。
…これ、見事に金のあてがなくなったんじゃないか?

「うう…。じ、じゃあ、何とかするよ…」
「悪いけどそうしてよね。…ああもう、せっかく作った料理までパーにしちゃって。あたし、朝から仕込みしてたのに」
「ごめんなさい…」

そうだった。皿の被害ばかり気にしていたけど、ダメになったのは皿ばかりじゃなかったんだ。
行きつけの店に二つも迷惑かけちゃって。そして余計な出費まで生んじゃって。
全く…。
師匠の派手な失敗に、思わず口からため息が出た。

「料理の心配はありませんよ」

…いや。ため息をつきそうになった。
我が自警団ではお馴染みになった声が聞こえてきたからだ。
今まで黙っていた、このアルトボイスは。

「ミッ君、マジで言ってんの?」
「はい。よく見てください。料理なんて、床のどこにもぶちまけられていないじゃないですか」
「?」

ミカに言われて、全員床を眺めてみた。
成る程。確かに料理の一片も落ちていない。
何でだ?

「みなさんが、キリのバカ騒ぎに夢中になっていた時があったでしょう?あれが起こる前…キリがいないと分かった時ですかね。『ああ、もしかしたらあいつ、何かしでかすのかな』って予想していたんです。『場合によっては、せっかくの料理が台無しになるかもしれないな』、とも思いました」
「ええ。でも、それでどうしたのよ」
「ですから…」

不意に、ミカは苦しそうな顔をして、何故か握ったままだったグラスの中身をあおった。
何だ?どうしたんだ…。

「ふぅ…。ちょっと腹に来ましたがね。事が起こる前に、私が全部平らげてしまいました。ごちそうさまです」
「「「「「…はい?」」」」」」

その場にいた全員の声がハモッた。
何だって?ここの料理を平らげただと?たった一人で?

「パーティ用にしては少なめの量だったので。何とかいけました」
「『いけました』じゃねえ!」
「何!?あんたマジで全部食べたの!?」
「凄いや教官。度胸どころか胃の規模まで規格外だァ」

色々な発言が堰を切ったように溢れてきたが、今のミカの発言を聞いて、僕はどこかで納得してしまっていた。
だって、「彼女ならやりかねない」と思えるような出来事があったから。
ハロウィンのあの日、一リットルは入りそうな容器に入ったプリンを食ったのは、紛れもなく彼女だったのだから!

「わあああああ!ミーナありがとう!おかげで料理弁償せずに済んだーーーー!」

恐ろしい程騒ぎまくるメンバーをかいくぐり、キリさんがミカに抱きついてきた。余計な金を払わなくていいことにホッとしたのか、目から滝のような涙があふれている。

「うぷっ…。抱きつくな。腹に来る…」
「ごめん。あ。あとで何か奢るよ。お礼させて」
「奢ってくれるなら、太田○散くれ…」
「やだよ。薬って高いもん。取り敢えず、近場の商店でスナックとか…」

キリさん、何で今食べ物の話をするんだ…。

「キリ、お前『空気を読む』ってことは苦手か?」
「そんなことしたって無駄だからね。ね、カンナだってそう思うでしょ?」
「はい~。第一、空気ってのは読むものじゃなくて吸うものじゃないですかあ」
「そうか…。ま、否定はしないけどな」

それだけ言うと、ミカは口を押え、席を立って店の奥まで行ってしまった。
何をするのかは想像に難くないけれど…。
あれだな。年の締めくくりがこれって、とっても嫌だよな。

「大体、彼女も無茶し過ぎでしょう。あんな短時間で食べきるだなんて…。たったあれだけの量とはいえ、下手したらお腹壊しますよ」
「…え?」
「え、アヤト今何て…?」
「え?」
「え?」

え?…僕、今なんか変なこと言ったか?
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://ti2958.blog.fc2.com/tb.php/138-19cecdc8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | ホーム |  »

プロフィール

奥貫阿Q

Author:奥貫阿Q
ツイッターで小説更新の宣伝、写真等の掲載も行っております。
(「奥貫阿Q」という名前でやっています。)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (28)
日記 (0)
小説 (80)
小説設定 「Moon King」 (2)
「Moon King」改変後 (109)

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR