2017-11

あけましておめでとうございます。

奥貫阿Qです。
いよいよ2015年のはじまりですね!
もう三が日も終わり、ということで、今年一発目の小説を書き上げてまいりました。
タイトルは「初夢―女の戦い―」。
…一応言っておきますが、これ、新春初売りとかで、福袋争奪戦に参加した!という内容ではありませんよ?
読んでいただければわかりますが、これは臨死体験を描いた話です。
ええ!新年早々臨死体験!(キッパリ)
さわやかな内容じゃないってとこが、逆にさわやかでしょう(違う)。
ついでに言いますと、サブテーマは「着物」、「正月休暇は人だけに非ず」です。
「臨死体験」というだけにいつものようにややSF入った内容や、物語の伏線となるようなことはまずありません。その代わりに、かなりファンタジーめいたお話になっております。

また、今回の話に出てくる人物のうち、ゲストとして「二代目の閻魔」(全三話)から某人物を招待しました。
「二代目の閻魔」は、以前私が書いた小説で、このブログに掲載しました。
おそらく「小説」のカテゴリの中に入っていると思うので、興味のある方は是非ご覧ください。

そいでは、ぼちぼち本編へとまいります。
みなさん、今年も奥貫阿Qをよろしくお願いいたします。



「初夢―女の戦い―」
(by キリ)

「♪あーたまーをくーものー、うーえにーだーしー」
「キリさん、何で富士山の歌を歌っているんです?正月なら正月らしい歌を歌えばいいじゃないですか」

日向ぼっこに最適な、自宅の窓辺、高く高く上る凧。
いかにも正月らしい呑気な空気に餅の焼ける匂いが混ざってきたな、と考え始めた時。突然弟子から声をかけられた。
…ふふん。流石は合法ショタ(見た目も中身も高校生くらいだけど)。
いくらかしっかりしてきたとはいえ、まだまだ浅はかだな。

「あっくんは、『一富士 二鷹 三茄子』って知ってる?」
「知ってますよ。初夢に見ると縁起がいいっていうものですよね」
「そうそう。でも私、まだ初夢見ていないんだよねぇ」
「はぁ…だから何です?」

彼のその言葉を聞いた時、一瞬だけ私の全てが制止した。

「…だから、だと?」

まるで油の切れたロボットのような動きで、弟子…もといアヤトの方を振り向く。
ここまで大きなヒントを出したというのに、まだ分からないとは!

「あっくん情けないよ!これはどうとっても『ああ、お師匠様は今年の初夢をより素敵なものにするために、頑張って縁起のいいものに関係する歌を歌って、この夢を見ろ!と自己暗示をかけていらっしゃるんだな』しかないでしょう!?」
「説明長ぇよ!つか、僕あんたに『お師匠様』って言ったことってあったか!?ねえだろうがよ!」
「んな馬鹿な!私達は師弟だよ!?何回かは…」

そう言いつつ、過去の記憶を辿り、思い出してみる。
確か彼は何回かは『お師匠様』って言って…いや、何回かって程でもないな。せめて十回?いや、五回?…じゃないな、せめて一回…一回…一回?
あ。

「…ごめんなさい。私、何回かどころか、一回も『お師匠様』と呼ばれていませんでした…」
「ほらみろ!」

腰に手を当てた弟子に、新年早々怒られる私(または師匠。年上。自警団においては上司)。
何この悲しい正月。どゆこと?

「そんなことよりも、お雑煮ができましたよ。ちゃんとお餅三つ入れておきましたから」
「え?マジで!?超優しい!」
「お前が『雑煮食べたい雑煮雑煮雑煮(以下略)』って、念仏みたいに言い続けてたからだろ」

彼が言葉を言い終わらないうちに、私は素早く炬燵に潜り込んだ。
あ、これ、電気じゃなくて、底に火鉢を焚くやつね?
一応、節約のために。

「ヒャッハー☆雑煮ー!…って、これ、丸餅だ。私、切餅派なのに」
「嫌なら食うな」
「喜んでいただきますッ!」

せっかくの雑煮を取り上げられちゃかなわんので、さっそく餅を口に運んだ。
ん、美味い!お出汁がよくきいてるなぁ…。

「あっひゅん、うまいほ!(訳:あっくん、美味いよ!)」
「そりゃ何よりです。…って、何でそんなに餅を口に入れてるんです!?喉に詰まりますよ!?」
「ひぇーひ、ひぇーひ…うっ!(訳:平気、平気…うっ!)」

喋りながら息をした瞬間、餅がべったりと、喉の奥に張り付いてしまった。
ちょっと、これヤバい。マジでヤバい。
がっちり張り付いて、息が…。

「キリさん!キリさん!」

ああ、アヤトの声が遠くなっていく。
私…死ぬのか?



「…うう」

何だか馬鹿に周りが明るい。そして熱い。
そのせいで…いや、そのおかげで、私は目を覚ますことができた。
まだぼんやりとしている目を動かすと、私の隣に誰かが座っているのを見た。
これ、人っぽい気配だな。まあ、私の家に人がいるのは当然のことなんだけど。

「背中痛いなぁ…。やっぱりフローリングの床に寝ちゃいけないね。あっくん…」

苦笑しながら身を起こした。
が、瞬時にして私の表情は凍りつく。

「…誰だ、あんた…」

私の傍に座っていたのは、アヤトじゃなかった。
彼よりも一回りも二回りも大きな、大男。
正月で酒を飲み過ぎたのか、総身は朱で縫ったかのように真っ赤。何故か上半身は裸で、見える皮膚は岩肌のようにごつごつしている。
手に松明を持っているから、もしかしたらこれを私に近付けていたのかもしれない。だから明るくて熱かったんだ。
この松明以外は、何だか薄暗いもの。
…うん?薄暗い?
雑煮を食べた時は、まだお昼時だったのに?

「ていうか…ここ、どこよ…」

見渡してみれば、私がいる場所にしたって変だった。
うちは、「ウナギの寝床」のような構造をした一階建てで、道に面している方が自警団の事務所で、奥が私達の住む場所になっている。ゆえに、だだっ広い空間というのはあんまりないんだ。
しかしここは何だ。
無限の空間かと思う程、見渡せど見渡せど出口のない空間が広がっている。
しかも、内装だっておかしい。うちはごくごく普通の一般家庭的な様式なのに、ここはまるで「千と○尋」に出てくる、湯婆場の部屋みたいじゃないか。
和と中をごっちゃにしたような空間と色合いが、薄闇の中で曼荼羅のように展開している。
美しい。美しいけど、とっても怖い…。

「…ブツブツ」
「え?何?何て言っているの?」

目の前の空間に圧倒されていると、礼の朱色の大男が、私に向かって話しかけてきた。
かろうじて日本語をしゃべっているということは分かるけれど、声が低い上、かなりしわがれているせいで、言葉を聞き取れなかった。
失礼は承知で、「もう一度言って?」と言う意味を込めて、相手に右耳を差し出す。
だけど、いつまでたっても返事は来ない。

「…どうしたの?」

気になって、男の方を向いてみる。
すると何故か、男はカッパリと大きく口を開けて、私の方を向いていた。
何だかこの人、大きく息を吸っているようだけど…。え?何これ?何?

「ぐああああああ!」
「ほおおおおおお!?」

突然、大男が咆えた。
獣の咆哮と人の叫び声の中間のような声がその喉から漏れたのを聞き、私は弾かれたように走り出した。
空間曼荼羅なんかよりももっと現実的な恐怖感が、私の心に沸き起こってきたからだ。

「ああ怖かった…って、ヒエエエエ!何であなたも追ってくるの?」

…訂正。恐怖感どころの話じゃなかった。
だって、さっきの大男が私を追ってきているんだもん!
でも何で!?何でなの!?

「誰か理由を教えてくださぁあああああああい!」

去年の春、フリスビーもどきに掴まって空を飛んだ時のように、私は涙と鼻水にまみれながら走る羽目になってしまった。
全く!餅といい涙といい鼻水といい、何で正月早々苦しい目に遭わなくちゃいけないんだよ!
マジで!マジでこの状況を説明できる奴はいないのか!?

「もういっそ、ここの最高責任者のところへ連れてけ!ばーーーーーーーーか!」

久々に訳が分からないことの連続で、どうも破れかぶれな心境になった。
思わず空間にわんわんと響くような大声で叫んだ。
その時だった。

「あれっ?」

松明でも何でもない、凄まじいほどの明るい光が、私を包んだ。
あまりの眩しさに目を瞑ったその途端に、体がフワッと軽くなったような気がする。
…まさか、ここからどこかに移動しようっていうの?
一体どこへ?



「…おお?」

ようやく光が落ち着いてきた感じがしたので、私は再び目を開けることができた。
やはり空間を移動したようで、視線に近い光がまぶしい。ここはもうあの薄暗い空間ではなくなっている。
ここなら絶対恐怖を感じることはない。
というか、感じている暇なんてない。

「ひゃあ!何ここ極楽!?」

目の前に立ち現れた目の保養の一群に、私は歓声を上げて飛び上がった。
そこには、女性や工芸品に造諮の深いものであれば垂涎ものの光景が広がっていたのだから!

「着物!着物いっぱい!百貨店の服売り場以上にいっぱいあるううううううう!」

私は二十歳を超える前から、工芸士の弟子として高価な染織品を見てきてはいる。だが、今ここに広がるものは何なんだ。あの空間曼荼羅並みにだだっ広い空間に、まるで花畑のように高価な着物が並んでいるじゃないか!しかも今度は壁に棚が設けられており、棚いっぱいいっぱいに色々な高級織物が置かれているっ!
今まで見たこともない、というか、恐らく生きているうちには絶対見ることのできない光景に、私は修理屋や自警団員ではなく、一工芸士の本能を爆発させていた。
かなり近くに、しかし決して汗や唾が飛ばないギリギリの位置まで移動し、私はじいぃっとコレクション(?)の一部を見る。

「こ、こ、これ西陣織!百貨店の物より断然出来がいい!うおっ、帯まである!わわっ、鞄まで西陣織!?何て贅沢な!そして面白い!」

完璧な西陣織は、もはや先の時代でなければ作れないと聞いている。
それだけに、目の前に突如として現れたその着物に、私は目を見張った。
これの出来は、師やじいちゃんから聞かされたとおりの、まさに「完璧な」西陣織だった。現代ではありえない、先の時代そのままのつくりだ…。

「これ、ここまで完璧なものだったら博物館行きだよねぇ。それなのに所有している人って…誰なんだろ?」

コテン、と首を傾げて考える。
考えたって、分かるはずもないのだけれど。

『うーん…。初詣の着物、どうしようかなぁ』
「…お?」

誰もいないと思っていた百花繚乱な空間の中で、若い女性の声が聞こえてきた(「百花繚乱」って、言葉の使い方は違うけど、字的には限りなくこの言葉が合っている)。

『あ、これなんかいいかも!…でもなぁ、デザイン古いかなぁ…』

声だけ聴く限りは人っぽいようだったので、私は、女性の声がする方にソロリソロリと近付いて行った。
いい加減人恋しかったし、ここを出る手だても知りたい。
それに…今喋っている内容からして、女性はここの着物の持ち主のようだった。どこでどうやって着物をコレクションしたかも聞いてみたい。

「あ」

いたいた。高級な着物を手に取り、独り言をしゃべり続けている女性が。
声の通り、まだ三十、もしかしたら二十にも届かないような女性で、地面に着くくらいの黒髪をしていた。大きな帽子や首のチョーカー型のアクセサリーが目立つけど、きっと和装が似合う。確信を持ってそう言い切れるアジアンビューティーだ。
そのアジアンビューティーは、眉間に皺をつくったまま考え込んでいる。手には深い紫色の生地に、赤と白の椿が描かれた着物が握られていた。
私的にはこれも素敵だと思うけど…。そうだね。こんなに沢山着物があっちゃあ、どれ着たらいいか悩むよね。

「やっぱりデザイン古いな…。よし、これ捨てるか!」
「バッキャロおおおおおお!」

気が付いたら、私は空を飛んでいた。
いや、正確には、その女性に向かって飛び蹴りを放っていた。
生まれてこの方二十年弱。無意識のうちに飛び蹴りができるって、初めて知ったよ…。
そして、無意識の飛び蹴りとはいえ、まさか相手に命中するとは思わなかったよ…。
おかげでその女性と着物は、床に放り出されてしまった。

「ああっ!着物が!」
「着物よりも私の心配をしてよ!蹴られたのとコケたのとで二度痛いんだけど!」
「あ、ごめん。でも先に着物の確認だけしていい?破れていないか心配なんだ」
「やっぱり着物優先!?」

まだぶうぶう文句が聞こえてくるけど、知ったこっちゃない。
私は着物を広げると、破れ目等がないかどうか確認した。
さっきこのお馬鹿は捨てるだとか言っていたけど、この着物、やっぱり相当な高級品だよ。私は知らない織物だけど、使ってあるのは金糸銀糸、無論、布自体は絹だ。
これをデザインが古いだとかで捨てるとかほざきやがって…

「ぶっ殺すぞ!じゃなかった、ブッ飛ばすぞ!」
「何で今言い直したの!?」
「手斧言葉(ちょうなことば)は淑女にはふさわしくないと思って…」
「淑女は飛び蹴りなんかしないよ…。それ以前に『ばっきゃろう』も『ブッ飛ばすぞ』も手斧言葉だし…」
「え~?でもさぁ、手斧言葉の中でも『ぶっ殺すぞ』は別格じゃない?暗に『死ね』っていう意味だよ?言葉のリーサルウエポンだよ」
「それ分かる。言われた方はたまったもんじゃないよね~」

よかった。思わぬところで共感してくれるものがあった。
ちなみに「手斧言葉」っていうのは、相手を攻撃するような乱暴な言葉遣いのことね。そして「手斧」っていうのは、木材の荒削りに使う道具のこと。
そんな道具に例えられるような言葉だから、言われた人の心持はいかがなものか。

「言葉って凶器だよねぇ」
「うんうん。下手したらピストルよか殺傷能力あるし。私も公私共に気を付けてるよ」

黒髪の女性はうんうんと頷きながら、私の意見を聞いてくれた。
あ、でも本題はこっちじゃなかった。

「忘れてた。…はい、手ぇ貸したげるから立ちなよ。さっきはごめんね」

私が右手を差し伸べると、女性は「優しいねえ、ちょっと失礼だけど」とか言いながら立ち上がった。
その時点でようやく分かったんだけど、この人、私と結構顔つきが似ている。
カエルに例えられる大き目な目とか。
もっとも、身長は彼女のが十センチ近く高いんだけど。

「ああよかった、怪我は無さそうだね。…あと、これ。着物。幸いどこも破れてなかったよ」
「ああそれ?いいよいいよ。もう捨てちゃう奴だったし…」

そこまで彼女が言い終えた途端、べちんっ!と鈍い音が彼女から響いた。
あれ?彼女の額が赤いぞ?そして、私の手が痛いぞ?
もしかして無意識のうちにデコをひっぱたいてしまったのかな…。

「いったぁ!マジでいったぁ!何!?何で二度も痛い目に遭わなきゃならないの!?」
「ごめん、不可抗力で…。ていうかあんた、何でその高級着物捨てちゃうの。見てみたけど生地は傷んでないし、むしろ新品同然じゃないの。せっかくいいものなのに、もったいないでしょ」
「だってデザインが古いから…」
「だまらっしゃい!」

再びべちんっ!と鈍い音が響き渡った気がするが、そんなことよりも大切なことがある。
私は「二度もぶった!親父にもぶたれたことがないのに!」と叫ぶ女性はほっといて、着物の近くのある小物類を物色する。
確かにデザインは古いけど、この帯とこの下駄とかを組み合わせて、着方も変えてみれば…。

「きっと似合うと思うよ。組み合わせ次第でさ」

ほら、と、女性に手渡した着物を借り、色とデザインを示しながら今私が選んだ小物類と、考えついた着方を教えてみる。
すると、みるみるうちに女性の顔がほころんだ。

「凄い!それならこの着物だって着られそう!」
「でしょう?着物は洋服感覚で着ないほうがいいよ。工夫次第では魅力が出るんだから。ましてやあんたのコレクションの中では、小物も選び放題でしょ?そう簡単に捨てない方がいいよ」
「うん…。そうだね。どの着物も一生懸命作られたものでもあるしね。ありがとう!」

嬉しそうな女性の顔を見ていると、何だか私まで嬉しくなってきた。
これが一番だよね。物の使い方をアドバイスするっていうのも、私の仕事の内なんだから。

「あ、そうだ。せっかくアドバイス貰ったから、着てみてもいい?付き合わせちゃうのは悪いけど」
「いいよ、これも仕事の一環だし。…ただ、ここから出る方法を聞ければ嬉しいんだけど…」

私がおずおずとそう切り出すと、「状況によっては、いいよ」と言われてしまった。
何だその「状況」って。

「よーし、○○の美貌を引き立てちゃうぞ~っと」
「?」

○○…。それ、この人の名前かな。
日本語なんだけど、なぜかそこだけ聞き取りにくいな。

「♪でーでーでーどーでどーどーでどー」

ご機嫌がMAXに達したのだろうか、歌を口ずさみながら着替え始めた。ダースベーダーのテーマってのが腑に落ちないけど。
…うん?

「♪でーでーでーどーでどーどーでどー」

んんん?

「♪でっでっでーどーでーどでどでー」
「ウワアアアアアアアアッ!」
「ちょっ、何!?どうしたの!?」

着替えを中断して、女性が叫ぶ私の肩を掴んできた。
この人も優しい。
優しいんだけど。

「ウワアアアアアアアアッ!」

私は修理屋でも工芸士でも、ましてや自警団の副団長でもない、ただの女として、今目にしたものに絶望してしまった。
だって…だって…!

「何でそんなに胸デカいの!?」
「えっ!?そんなことで叫んだの!?」

「そんなこと」だと!?

「そうだよ!ダボダボの服はフェイクだったんだな!?高級着物といいデカい胸といい、こっちが欲しくて堪らないものを取りそろえやがって…ずるいぞ!」
「ず、ずるいったって…。着物は付き合いの関係で貰うことも多いし、胸は成長の結果だし…」
「うぎーーーーーーーッ!」

腹が立つ!
その理不尽さに腹が立つ!

「成長の結果だって!?着物はまあしょうがないとして、胸が成長の結果だって!?じゃあなんで私はこうなんだよ!ほらこれ!成人したのにこの様だよ!」
「…あー…」

私は自分の胸をバンバン叩いて存在をアピールした。
その途端、女性の顔が悲しそうな、切なそうな…。いや、もうはっきりと言う。
私に同情するかのような表情を浮かべた。
どうなんだ。顔だけじゃかくて、言葉でもはっきりと言え。

「まあ…いいんじゃない?『貧乳はステータスだ』って言葉もあるし…」
「今まで伏せに伏せてた単語を言うなよッ!」

怒りが頂点に達した私は、アヤトだかミーナだかに喧嘩を売る時みたいに、その女性に向かって掴みかかってしまっていた。
だって理不尽なんだもん!あまりに理不尽なんだもん!

「ぎゃあああ!怖いっ!離れてよ!」
「この乳がすぼむ呪いをかけるまで離れない!」
「これ呪いなの!?○○○○に呪いをかける人って、聞いたことないよ!」

また聞き取れない単語が耳に入ってきた。
本当に、何なんだこの言葉。

「もうあんた帰って!帰してあげるから帰ってぇ!」
「へっ?」

半泣きになった女性が、右手に持った木の棒を振り上げた。
いつの間に持っていたのかは分からないけど…。これ、笏(しゃく)だよな?聖徳太子とかが持ってるあれ…。

「帰って!」
「あだっ!」

振り上げた笏は、ものの見事に私の顔面にヒットした。
笏ってさぁ、要はカンペとか儀礼用のものだよねぇ?まさかそれで殴られる日が来るなんて。
いや、それ以前にさ。
笏って物凄く…

「痛えよッ!」



私は女性に向かって怒鳴りつけた。
頭突きも食らわすつもりで、思いっきり頭も振りかぶる。
ふふふ。私にもダメージ来るけど、このやり方なら当てられた方が痛いんだよねー☆
せぇの!
ゴッ!

「いってぇ!」
「わはははッ!ざまあみやがれ!」
「何だとこの野郎!」
「…へ?」

頭に感触があった、と思った途端、低い野郎の声が鼓膜に届いた。
その途端、側頭部に衝撃があり、それと共に私の視界が暗転する。
あれ?私の意識ははっきりしてるのに…何で暗いの?

「えー!?まさかまたワープ!?」
「何がワープだ!目が覚めたのにまだ寝言言う気かよ!」

わんわんと男の声が頭に響く。
あれ、この声は…。

「…あっくん?」
「そうだよ!…ああ、ようやく意識がまともに戻ったのか」

溜息をつくのが聞こえたと共に、私の視界が一気に明るくなる。
西日だろうか。オレンジ色の光がまず目の中に飛び込んできた。
次に飛び込んでくるのは、健康そうな褐色。そして、雪みたいにまっさらな白。
…うん。これ、我が弟子だ。間違いない。
そして白いのは布団だ。何で布団にいるのかは知らないけど。

「わぁ、ようやく帰ってこれたんだァ…」
「はい?」

こてりと首を傾げる弟子に、私は今さっきまでに起こった出来事を説明する。
怪訝そうな顔をしながらも、アヤトは話の腰を折らずに、最後まで聞いてくれた。
いい子だね。流石は我が弟子。

「…ははぁ。つまりキリさんは、餅をのどに詰まらせたことがきっかけで、別の世界に行ってしまっていたと」
「そうだよ~。大男に追われたり、高級着物を巡ってアジアンビューティーと闘ったり…」

ちなみに、胸の話は伏せさせていただいた。
流石に恥ずかしいもの。

「そうですか…。でもまあよかってですね。ようやく初夢が見られたようで」
「初夢?違う違う。私は本当に別の世界に行ってたんだよ」
「まだ言いますか。…キリさん。あれをご覧ください」

そう言って、アヤトは私のすぐ横を指差した。
…これ、掃除機だよねえ?
アイ兄さんに作ってもらったものの、フィルターが埃まみれになってから使わなくなった奴だ。
よく見たら吸い込み口に白いものが詰まっているような…。

「そこに掃除機があるでしょう?これの吸い込む部分に詰まっているものは餅です。あなたの喉に、これがへばりついていました」
「へぇ…え?マジで?」
「マジですよ。僕はこれであなたの喉から餅を吸いだしたんです。それでも餅が吸い切れなかったようなので、電話でアイさんを呼びました。アイさんはすぐ家へ来て、あなたの喉から全ての餅を取り出してくれたんですよ。…その間、あなたの意識はずっと戻らないままでした」

淡々と話す弟子の目は、嫌に寂しげだ。
ああそうか…私は。

「今さっきまで、ずっと眠ったままだったんですよ。このまま起きないのではないかと、心配していました。アイさんは気付け薬を作ってくると言ったので、台所を貸しました。ミカは、アイさんからの連絡で、今こちらに向かったといいます」
「…そっか」
「『そっか』じゃないですよ!正月だっていうのに自警団のみんなに迷惑をかけて!それもこれも年甲斐もなくはしゃいだ罰ですよ!」

バンッ!と布団の横を叩いて、アヤトは怒鳴った。
叩いた手をどけることもなく、視線も、私ではなく布団に向けている彼の頭を、私は軽くポンポン、と叩いた。

「言い過ぎました。…しかし、頼みますよ、本当に。あなたが今いなくなると、色々な面倒事が起こるんですから」
「うん…。ごめんね、心配かけてしまって。今後は、気を付けるから」

私が手をどけてやると、アヤトもようやく顔を上げた。
私達らしくなく、やけにしんみりとしてしまったことが気恥ずかしい。
おかげで、どちらともなく笑ってしまった。

「何だ。何事もないじゃないか」

暫く笑っていると、リビングの入り口から声が聞こえてきた。
確認するまでもない。この声は。

「ミーナ、いらっしゃい。お腹の調子はもういいの?」
「良くはないが、どこぞのメガネが訃報を告げてきたからな。大急ぎでバザールからやってきたんだ」

「疲れたから座らせろ」と言うと、私達の許可もないまま、ミーナはズカズカとリビングに侵入してきた。
そのまま布団の傍まで来ると、ドカッと座る。近くに来て分かったけど、ミーナの奴、汗びっしょりになっていた。
本当に急いできてくれたんだ。
彼女が勢いよく座った途端、西日のように柔らかな色の髪が、彼女の背中でふわふわと揺れる。
もはやセミロングとは言い難いほど伸びきった髪の毛が花鼻にかざり、私は思いっきりくしゃみをした。アヤトはミーナのその姿にハッとしたような顔になるけど…どうしたんだろう?
あ、くしゃみ我慢してるのかな。

「死んでないなら、私は帰るぞ。…全く、写真屋に写真を取りに行った日に、何でこうもバタバタしなくちゃならないんだ…」

ぶちぶち文句を言うミーナだが、せっかくだから、と、懐から写真を取り出して、私達に見せてくれた。
この写真は、私とアヤト、ミーナとアイ兄さんの四人で初詣に行ったときに撮ったものだ。
四人で初詣に行った記念に、まだ絵よりもお高めな移動写真屋(イベントか何かがあると、写真屋が現地に出張する。それが移動写真屋)に頼んで、一枚撮ってもらった。それがようやくできたらしいのだ。

「どれどれ…。ほぉ!よく写ってる!」
「そうですね。…ああ、でも残念だ。人混みの中の誰かが写り込んじゃってますよ。」
「え?…あ。本当だ。写真撮ってるって気付いてやったことなんだろうな。こっちに向かってピースしてやがる」
「へ?」

私が見る限り、そういう人は見つけられなかった。
アヤトとミーナに頼んで、その人物を指差してもらう。

「ほら、この人ですよ」
「深い紫色の生地に、赤と白の椿が描かれた着物を着ている女だ」
「…え?」

先程夢の中で見た着物と同じ特徴を言われ、私は一瞬ビクッと震えた。
だけど、紫の生地と椿の柄なんて、そう珍しいものでもない。
きっと偶然同じような着物を着ている人が写り込んだのだろう…。
そう思うものの、私はバクバク高鳴る心臓を抑えつつ、写真を覗き込んだ。
果たして、写っていたのは。

「う、うわあああああああッ!」

再び、息が止まるんじゃないかと思った。
写真の中に映っていたのは、まさしくあの女だったのだ。
私が教えたとおりの小物を身に着けている上、着方も教えた通りだ。
そして、なぜかこちらに向かってドヤ顔をし、胸を自慢げに突き出している。
ああ、腹立たしい。怖いけど腹立たしい。

「センスのいい着こなし方だよな」
「そう?僕には分からないけど…。でも、この人ドヤ顔で写ってるけど、どこか満足そうな顔して写真に写っているよね。よっぽど嬉しいことがあったんだよ」

恐怖と怒りでごちゃ混ぜになった私の頭の中に、不意に弟子と幼馴染の言葉が入ってきた。
その言葉を聞き、もう一度、恐る恐る写真を見てみる。

「…本当だ。確かに、いい顔してる」

初詣に、晴れ着で来れて嬉しいって雰囲気がよく出ている。
…よく分からない夢だったし、この人の正体も分からない。
だけど、この着物を着てここまでいい笑顔をしてくれるのなら、私としてはとっても嬉しい。
工芸士の弟子だった身としては、仕事冥利に尽きるんだ。

「…言っただろ。着物は組み合わせなんだよ、○○○○」
「うん?」
「キリさん、何か言いましたか?」

へ?

「ううん?何も言ってないよ?」
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