2017-09

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「偽医者と偽ナースと偽イカ―『慣れ』は怖い―」

こんにちは(或いはこんばんは)
奥貫阿Qです。

本日第二回目の更新です(苦笑)
一回目の更新は、最近恒例になっている「用語解説」でしたが、こちらは小説。
「アイ兄さん暴れさせ足りねえな…」や、「多分ミカはもっと暴れさせて大丈夫だ!」とタカをくくった阿Qが、タカくくったまま書き上げた作品となっております。

つまるところ、これは勢いですね。

本来は「科学者とその元部下、病院でバタバタしてきた」な話にしようと思いましたが、タイトルにある「偽イカ」の大きさを考慮すると、どうも「潜入ネタ」は無理でした(哀)
なので、この話はアイのラボで起きた話になっております。
一応、【注意事項】として、下記の三点が大丈夫!という方は、本編へお進みください。

・団長(ルカ。二十代半ば。男性)が、相当不憫。
・ミカ(ミハエル)が淡々とし過ぎている。
・二人がかりでボケたというのに、キリのパワーには敵わず。



「偽医者と偽ナースと偽イカ―『慣れ』は怖い―」
(byミハエル)

「そういえばさ、昨日のお休み、二人は何してたの?」

休日明けの日、友人から随分唐突な質問がきた。
普通に仕事だけど、と言ったら、そいつはただでさえでかい目をますますでかくする。

「マジで!猟師の方の仕事かな?せっかくの休みなのにお疲れさん」

お前がもっとシャンとしてくれれば、私ももっと休めるんだけど。
と言いたいところだが、それは言わないでおく。
友人だからか?だって?
違う。言っても直らないからだ。

「残念ながら、猟師の仕事じゃない。アイの仕事の手伝いだ。ちゃんとバイト代も貰った」
「え…。あの人の仕事の手伝い?」
「そうだ。あの人の仕事の手伝いだ」

そうオウム返しに答えると、ゲッ!とヒキガエルが踏んづけられたような声で嫌悪感を示された。
だけどまあ、仕方がない。
相手が相手だからな。

「別にいかがわしい仕事じゃない。真面目に医者の仕事だ。病院からオファーを貰ったんだ」
「病院?もぐりの病院とかじゃなくて?一体何の仕事頼まれたのさ?」
「気になるか?」
「そりゃあもちろん」

だろうな、と思う。
何たって、あの半ニート医者に、病院直々の仕事依頼だ。
気になるのも道理だろう。

「定期健康診断の依頼だとよ。何でも、今時珍しいボンボン気取りの、厄介な患者がいたらしい」



(昨日。アイの自宅にて)

「凄いな。暫く見ないうちに、また建て増ししたのか」
「そぉ。サーバやら何やら増設したら手狭になって。立派になっただろ」

暫く見ないうちにグレードアップした家兼ラボの内部をフラフラ見学しながら、私はアイと喋っていた。
私が初めて奴のラボに来たのが、確か十二歳くらいの時だった。あれからたった七、八年くらいで、ラボは山半個分(その規模にも関わらず、奴は当時のラボの規模を「研究室レベル」と言い張っていた)から、ジブリのラピュタくらいの大きさになっていたなんて。こいつの技量と財力には感服する。
…一応言っとくが、新ラボの大きさは比喩なんかじゃないからな。正真正銘、本当の大きさだ。

「残念なのは、主は(元)大佐なのに、グラサンでなくてビン底眼鏡かけているってことだよな」
「やかましいわ」

新調された近未来風の壁を撫でていると、アイから文句が出た。ビン底なのは事実じゃないか。階級も眼鏡かけているのも一緒なのに、惜しいだろ。

「つか、そんなとこを比較すんじゃなくて、もっといいとこを見てくれよ。俺は人をゴミに喩えた大佐みたいに、軍を利用してここを手に入れてねえ。自分の力で奪い取ったんだ」
「それもどうだか」

せっかくグロい壁から何だかツルツルした壁に変えたことを褒めようと思ったのに。気が失せたわ。

「まあ、いいわ。非番の日に仕事する訳だし、とっととやろうや」
「ああ」

早くも体制を立て直したアイが、「こっちへ」と手招きする。
今日はうちの自警団員全員が休みの日だ。私に関わらずアイも、仕事を早く終わらせてとっとと休みたいらしい。…まあ、当たり前か。

「じゃ、今日の簡単な打ち合わせをしよう。お前も知っての通り、今日はウチ産の薬を贔屓してる病院からオファーを貰って、このラボにて健康診断を行います。内容も、以前通告したのと変わらないから」
「了解」
「だが今回担当する奴は厳しいぜ~?何たって元々はそのオファーよこした病院で健康診断するはずだった奴なんだから」
「は?」

何だその話。
初耳だ。

「あれ、言ってなかったっけか?その人あまりに扱いにくくてどうしようもないから、ウチに寄越したんだよ」
「えぇ…。何者だそいつ」

厄介なのが来ちゃうんだなあ、と、何となく不快な、嫌な感じがした。
流石に前の仕事で、いい奴も、嫌な奴も、いっそゴミ焼却炉で燃やしたいと思うような奴も対応してきたから、ちょっとトガった奴くらいなら今更どうってことはない。
だが、「扱いにくい」って何だ。
そんなボンヤリした理由じゃ、いまいち納得できない。
こいつのやることなすことで納得できたことなんて、一度もないが。

「お前もよおーーーーく知ってる人物♪心配は要らねえよ」
「その笑みからじゃ嫌な予感しかしねえよ…」

本当に嫌な予感しかしない。
確か一、二ヶ月前に、自警団とMK分団の合同健康診断があったはずだ。私の知り合いということも、再検査がある時期を考えても、ある人物しか思い当たらない。
悪い人じゃない。だが、厄介な奴だ。

「今日は見学でもいいか?」
「そんな体育と同じルールが通用すると思うなよ」

だよなあ…。
任された仕事以上に、これから来る相手のことを考えると、一気にやる気が失せてしまった。



で。所変わってラボ内に設置した診察室。
着替えや機材のチェックを済ませ、私達は件の人物が来るための最後の準備をしていた。
他のラボの区画とは違い、近未来風の壁ではなく普通に、病院や診療所のような壁だった。
設備も同様である。

「一応、あの病院には『普通のクリニック兼薬屋』として通してるからな。敢えて内装造っちゃった。仮ラボ…要は別荘か。あそこからこのラボに直通のルートをこさえた、仮ラボの外観もクリニックぽくしたし、扉を開ければ、やっぱりクリニックぽいロビーを通じてこの空間に出るようになってる」
「富豪め…」

だがまあ、金があるのならそういう誤魔化しをしても構わないと思う。
ユバナにいた頃とは違い、こいつは今、人に近いところにいる訳だ。
キリ達師弟にも話していない、こいつ正体がバレることは避けなければならない。そのためには、ちょっとは嘘をついてもいいだろう。…科学が殊更進んだ国に住むなら、尚更だ。
だけどな?
さっきから疑問に思うことが一つだけあるんだ。

「なあ、一つ質問があるんだけど、構わないか?」
「うん?別にいいけど?」
「そうか。じゃあ言うけどな?」

私は今着ている服の裾をつまみながら、眉間に皺を作った。

「何で私の服が、ナース服なんだ?これ、お前が忘年会の時に着ていたやつだろ」

これが普通の病院だったらまだ納得できる。
だがここは、他ならぬこいつのラボなんだ。服なんていくらでも融通が効くのに、なぜ敢えてこれなんだ。
まさか売るのか?
この部屋のどこかに隠しカメラ仕込んどいて、撮った映像を売るつもりなのか?

「ああ、それね。これから来る人、細けえ規則にうるさいじゃん?俺達を見て『正規の病院でもないのに』と、どやされちゃ敵わん。念のために、俺らの正体が分かりにくいカッコにしようと思ってな。お前の服も、俺の今のカッコもさ」

ほら、とアイが指差すのは、自分の顔だ。
今は不吉なビン底は外され、努力の甲斐あって誕生した自分専用のコンタクトが目に入っている。
つまり今は、久々に素顔を出したこいつが目の前にいるのだ。

「残念なイケメン…」
「ん?何か言ったか?」
「別に」

確かに、今の私達二人は完全に「だれおま」状態になっていた。
私なんてスカートは当然、いつもはくびれをなくすために巻いているタオルも外している。
基本野郎の格好をして、演習の度に檄を飛ばしている人物だとは、夢にも思わないことだろう。

「だからってこれはあんまりだ…」
「今更そう言うなよ。それしかねえんだから」

じゃあせめて、事前通達くらいしてほしかった。
私がますます眉間の皺を深くしてみせると、アイは器用に目をそらして時計を見やがった。

「おお、そろそろ時間になるな。道具持ってきて」
「…後で覚えてろ」

そう捨て台詞を吐きつつも、道具は取りに行って、ちゃんと渡してやった。
仕事は仕事だからな。

「どうも。…さて、あとはこれから来る御仁次第だ。お互い、覚悟しようや」
「んん」

低く唸るようにして返事を返すと、ちょうどタイミングを見計らったかのようにノックが聞こえた。

「はーい、どおぞー」

いつもは美声とは程遠いアイの声だが、今日は「せっかくの金蔓、逃がすまじ」とでもいうのか、これまた滅多に使わない地声で返事をした。
その途端、ガチャッ!と不機嫌そうな音と共に、件の人物は現れた。

「何だこのクリニックは!受付に誰もいないじゃないか!」

「うわ、来て早々クレームかよ」という声なき声が聞こえたような気がするが、勘弁してやって欲しい。これがこの人の唯一の特徴なのだから。
生まれはボンボン、大学を首席で出てキャリアの道を爆進。ところがどっこい、厄介な自警団員四人、プラス経験の浅い若者二名を部下に持つことになったこの人は。

「団長さん、仕方ないよ。ウチは人少ないもの」

そう。
今のアイの発言で出た通り、この人こそ、我が自警団団長「ルカ」氏だ。
最近胃潰瘍ができそうなのが悩みの、スクエアのメガネを愛用する若者だ。彼女はいない。できたことがない。

「何だかそこの看護師から悪意しか感じられないんだが、大丈夫か?」
「気のせいでしょ」

だが感だけはいいらしく、私が心の中で呟いた独り言にも敏感に反応した。
もっとも、私達の正体には気づいていないようだったが。

「まあ、それはそれとして。今日は再検だよな?心電図と採血の」
「あ?ああ、そうだ」

アイの誤魔化しにすら、起こる気配を見せない。正体に気付いてたら、「部下の分際で」と、確実に怒られるような事態である。…そもそも、敬語を全く話さない時点で怒らないだなんて、明日は雨でも降りそうは話じゃないか。

「心電図はともかく、あんた会議がどうとか言って採血しなかったんだろ?」
「ああ。だって、採血した後は風呂に入れないじゃないか、健康診断の翌日は大事な会議があったのに…」
「知るか。一日くらい我慢しな」

病気を見過ごすよりもマシだろう、と、アイは意に介さない。

「まあいい。一応この二つだけだからとっととやろう。まずは心電図からな」

そう言って、アイは部屋の奥にあるベッドを指差した。
医療機関で見かける、いかにも固そうなベッドである。

「シャツと靴下脱いで横になってくれ。…って、あれ?」

心電図をはかるための機会をいじっていたら、奴はコテンと、年甲斐もなく子供っぽい感じで首を傾げた。

「まだ機材が足りねえ。悪いけどちょっと待ってて。取ってくるわ」

そう言うと、有無も聞かずにのそのそと部屋の奥に引っ込んで行ってしまった。
機材がないならしょうがないが、一応断りは入れろよ…。自由だな。

「あの男、部下のビン底野郎にそっくりだな…」

団長がボソッと呟く声が聞こえてきた。
団長、ご存じないのは当然でしょうが、あの男はまさに、あなたのいうビン底野郎ですよ。
何なら隙を見て、奴の目にナルトを当ててやればいい。完全に本人だと分かるから。
口にこそ出さなかったが、服を入れる籠を手で示しつつそう思った。

「…こちらに服を入れてください」
「ああ、すみません。…しかし大変ですね。あなたはお綺麗な方なのに、お医者の手伝いですか。医療関係の仕事であれば、なかなか休めないでしょう」
「…はい?」

今何て言った?
「お綺麗」って言ったのか?私に。
毎回演習の時には、木刀持ったキリに追い回され(これはキリが悪い)、アヤトに一本背負いを決められるこいつが?
それでいていつも私に「もっとわかりやすい演習内容にしろ」と文句しか言わないこいつがか?
ちゃんちゃらおかしいわ。

「そんなことないですよ。ウチはわりかし福利厚生がなってるので休めます。そりゃあ働いているウチは大変ですが。…そうだ。長年働いた成果がこれです。ご覧ください。動きすぎて足脚がムッキムキですよ。スカートなんて履くもんじゃないってくらいにバッキバキです」

これ以上綺麗だの何だの言われちゃかなわん、と思い、私は半分事実、半分嘘の話をこいつにした。
ちなみに脚のくだりは、きっと事実だ。
時々アイの手伝いをするようになったら、なぜか体重が増加した。まさか太ったかと思い、調べてみたら…。何てことはない。ただ単に身長が伸び、筋肉がついただけだった。
四月上旬には160センチくらいしかなかった私の身長は今、当時より五センチも伸びていた。そりゃあ体重だって増えるだろう。
そんなことを思いつつ、私は団長の反応を待った。

「いや?私は美脚だと思いますがね」
「は!?」

今度こそ大声をだしてしまった。
何だ?美脚?
十年近く軍にいた奴が、美脚なんて保てるもんか。
そうか。あなたは視力検査も再検になったんだろう。きっとそうだ。

「いやあ眼福だ。脚も顔も、ここまで美しい人なんて滅多にいない」
「…」

普段のしかめ面を崩して、団長はご機嫌だった。
脚はスカートやパンスト、顔はメイクのおかげでそう見えているのかも知れない。だが、滅茶苦茶腹がムカムカしてきた。リンゴジュースと間違えて、コップに入っていたサラダ油を飲んでしまった時以上に、気持ちが悪い。
最早事実でもおべっかでも、どっちでも関係なかった。
長年野郎に間違われてきた身としては、この賛辞は妙に嫌だ。しっくりこない。

「それに引き換えウチの教官はなあ!」
「え?」

一瞬、腹のムカつき具合がおさまった。

「なぜか奴は女だと、部下が言っていたが、あれのどこが女だ!見た目こそ中性的だが、あれはどう考えても野郎だろうが!何だあの辛辣野郎!精神ジョロキア!あいつの相棒でさえも苦々しく思っているのに何なんだ!あのナルト眼鏡共々何なんだよっ!」
「…」
「…ああ!すみません!つい職場の愚痴が…」
「いえ、大丈夫です」

ハッと我に返ったように言いますけどね。今のはびっくりしたってわけじゃないんです。
むしろ何というか…ねえ。

「しかし…。全く酷いんですよその二人は。一方は辛辣な教官。もう一方は学者崩れの技術者だ。なまじ頭がいいから解雇できないが…。特に酷いのは技術者だな。見た目の胡散臭さに加えて酒飲みだ。この間なんて、酔って吐いているのが目に入ったんですよ。全く。ナルトを目にあてがったような眼鏡かけているにもかかわらず、地面にもナルト散らすなよ。どんだけナルト好きなんだ」
「…すみません。ちょっと失礼します」

話を聞けば聞く程、この男の言葉と身内(アイ)がやらかした失態への、凄まじい怒りが湧いてきた。
怒りでグラグラする頭で、私は無意識のうちにそう言った。
そのまま、部屋を出て行った。部屋を出れば、ややひんやりとした空気があるラボに出る。
そこでクールダウンしなければまずいと思ったのだ。
が。

「…野郎…」

…そこには、もうすでに先客がいた。
そこには、怒りのあまりにせっかく持ってきた機材を殴った(ものの、表面が硬すぎて手を痛めて、現在殴った方の手をさすっている)らしい男がいたのだ。
言わずもがな、団長の話の中ではナルトを吐き、普段はナルトを目につけているような、あの男である。
…これ、クールダウンできる状況じゃないよな?



「はいどーも。お待たせ」
「遅い!一体どこまで取りに行ってたんだ!」
「ちょっと製造元まで」
「嘘をつけっ!」

偶然アイと出くわしたため「、今日の予定」を再び確認、そして多少の変更をした後、私達は再びこの部屋に戻ってきた。
そこで、普段の調子で怒鳴る団長に、アイは至って普通の対応をしている。
先程機材を殴った様子は微塵もない。

「そんじゃあ心電図図るんで。横になって下さい。あと、一応メガネ外して」
「ん」

アイをすっかり医者だとしんじきっている団長は、言う通りにメガネを外してしまった。
ああ…何の気なしに返事をした団長に、今すぐメガネをかけてみろ、と言いたい。心電図ってのは、ペタッと吸盤みたいなものを体に貼って測るんだ。
だがこいつが手に持ってるのは、

「始めまーす」

唐辛子をみっちり塗りたくった吸盤みたいなもの!
こんなん貼られたら、肌かぶれるわ!

「薬品塗ってるせいで沁みますがね。人体に害はないんで」
「そうか…。何だか辛いにおいがするから、変なものでも持ってきたのかと思った」

自分の体調を見る相手に対して、随分失礼な言い草だ。だが、その勘の良さだけは褒めてやる。
だけどな…そこまで気付いてるのに何故何も反論しない。
こいつの「医者」という肩書のせいだろうか。
医者っていっても、そいつは無免許だぞ。ブラッ○ジャックじゃねえ、ただの無免許医だ。

「しかも赤いな?」
「だから、薬品ですってば」

説明できないことは全て「薬品」という二文字に押し込む無免許医。名医というよりは藪。
あ、貼った。

「先生!これめっちゃ沁みるんだが!?」
「あー、やっぱ沁みます?」

「やっぱ」じゃねえよ、この愉快犯。
ギャグとしては上等だけど。

「何か辛いんだが!?むしろ熱い気さえもするんだが!?」
「だーからね、そりゃこの薬品のせいですってば」

「薬品」という名の「唐辛子」だけどな。

「このまま十分くらい、大人しくしててくださいねー」
「ここここ、このまま!?冗談じゃない!そんなに長くやってられるか!」

そう叫ぶと、団長は勢いよく吸盤みたいなものを引っぺがし、地面に投げつけてしまった。
賢明な判断だ。本物の医療現場だったら、絶対やってはならない事なんだろうが。

「あーな、なんてことを…」
「『あーあ』じゃない!本当に沁みて痛いんだ!代わりの薬品でやれッ!」
「そりゃ薬品が体質に合ってないんでしょうよ。…ま、これしかないんで我慢してくださいな。あとで流せば大丈夫っすから」
「嫌だ!」

よっぽど唐辛子が効いたらしい。
団長は再び検査(もとい嫌がらせ)を受けることを、全面的に拒否した。
…うん?アイを止めなくていいのかって?私には止める義務があるんじゃないかって?
分かってないな。例え止める義務があったとしても、あれだけボロクソに言った男に手を差し伸べると思うか?私が。
こう見えても私は、「右の頬を打たれたら(相手の)左の頬を音高く殴る」派だ。
相手が痛みをもって他者を迎えることは、本来失礼なことだろう。それが分からないのならば、その痛みを分からせてやるだけだ。
だってその方が面白…もとい、そいつのためにならない。

「じゃー、採血の方に移ります?」
「採血もしない!俺はこのまま帰るぞ!」
「少々お待ちくださいねぇ」
「帰るっつってんだろ!聞け!俺の話を!」
「まぁまぁ」

話も聞かずに去って行った藪医に怒鳴る団長を、私が宥める。
一応これも、「今日の予定」(変更後)に沿った流れだ。

「採血は一応、私が行うんで」
「え…。なんだ。そうだったんですか」

「私がやる」、と言った途端、団長は怒りを鎮め、急にそわそわしだした。
…何て単純な。

「はい。注射をしなくてはいけないので、腕を出していただけますか?」
「分かりました」

これまた素直に応じる団長。
何だか鼻の下が長くなっている気がするが…そうしていられるのも今の内だ。

「注射針が太いので。もしかしたら普通の注射よりも痛いかもしれませんが…」
「大丈夫ですよ。これでもMK分団員。根性はある方ですから」

じゃあ、先程の喚きは何だったんだ?
そう言いたいが、そうしている時間さえも惜しい。

「それを聞いて、安心しました」

私としては早く、先ほど用意した「ブツ」をお披露目したいのだから。

「では、大人しくしていてくださいね。ちょっと『ドスッ』としますが」
「ああ…って、うおおおおおおおっ!」

団長が随分低い声で咆えた。
それはそうだろう。今私の手にあるのは注射器だ。それも、一メートル半はあるんじゃないかと思われる、かなり長い注射器!

「ギャグにはうってつけだ。…あ、本音出ちゃった」

テンションが上がってきたせいか、とうとう自分の本音まで漏れ出す始末だ。
普段はこんなことはないのに…。まあ、笑顔になっていないだけ、いいか?

「ギャグって何です!?あ!もしかして、あなたもグルなんですか!?」
「今それを訊きます?」

答える時間すらもやはり惜しいので、私はそのまま団長に向かって突っ込んでいった。
もちろん、反撃されてはかなわないため、注射器をかざして。

「わあああああああっ!」
「逃げなくてもいいですよ!ちょっと血を抜くだけですから!五リットルくらい!」
「それのどこが『ちょっと』だ!相当じゃないか!」

もはや敬語ですらなくなった団長は、室内を逃げ回った後、ラボへと続く扉を開いてしまった。
無論、団長は私から逃げようと必死なため、

「あ、」

そのまま入って行ってしまった…。
一瞬ギョッとしたが、すぐに、気にするほどのことでもないと悟る。
別にあいつのラボに誰が入ろうが、居座ろうが、私にとってはどうでもいいことである。それに加えて、あの人は私達の雇い主だ。いくらアイやアイ作のセキュリティがあるとはいえ、そんな立場にいる人物に下手な手出しはしないだろう。
ラボ内は無人というわけでもないし、部屋に戻って待っていようか。
そう思い、踵を返した。
が。

「ぎゃあああああああ!」

まるで生きたまま身を裂かれたかのような悲鳴が、背後から響いてきた。
何事かと思い、急いでラボ内に駆け込んだ。

「あらら。ここに入ってきちゃダメだって」

廊下の先にある曲がり角の向こうから、アイののんきな声が聞こえてきた。

「こいつは採血にこそ向いてるものの、まだまだ調整できてねえんだよ。自分に向かってくるものがいたら襲い掛かる癖が抜けねえんだ…って、もう聞こえねえか。団長」

その言葉が終わるか終らないかという時に、私はようやく曲がり角を曲がった。
そして、そこで起きた事を見ることとなる。

「…ああ、またか」
そこには、色といい形といい、まるでイカのような形をした装置…便宜上「装置」と言っておこう。それが、団長の右足をつかみ、彼を宙ぶらりんにしていたのだ。
装置は獲物を捕らえた興奮からか、さっきから赤黒くなったり鮮やかな赤になったりと、絶えず全身を変色させていた。
見るからに「近寄ると危険」と分かる様子である。

「アイ。これ、こないだお前が捕まった奴だよな?何で出してきちゃったんだ」
「だってこれ、一応医療機器なんだぜ?こんなんだけど性能は本物なんだ。使わなきゃもったいねえだろ」

その「使わなきゃもったいない」という言葉の中には、もちろん「嫌がらせに」という言葉も含まれているんだろう。

「だが、残念ながら不発に終わったようだな。お前が注射器で時間稼ぎをして、その後これを持って行って団長を驚かせる予定だったが、まさかその団長がこっちに来るなんてよ…。まあ、結果として大人しくなりゃ、何でもいいんだけどな。俺的には」
「非人道的でなければな。…しっかしこの男、やっぱり嘘ついたな?『根性はある方』とかほざいていたくせに、てんでダメじゃねえか。気絶してやがる」
「あ?何?」
「何でもない」

この『新しい装置お披露目&団長懲らしめ作戦』は不発に終わったものの、最後の最後は予想を裏切らずに気絶しやがった団長を抱えて部屋へと戻り、心電図も採血もつつがなく終えることができた。
ここまで大人しくなってくれるなら、最初からこの装置を使えばよかったのでは?と、都合よく「装置」の記憶を飛ばした団長を見送った後、アイとともに反省をした日でもあったけれど。



「…まあ、大体そんな感じかな。昨日の出来事は」
「へぇ~…って、あんたら休みの日まで何してんの!?」

すべてを話し終えた途端、私はキリにギャンギャン噛みつかれることになった。
だからそう怒鳴るなって。あんたが怒鳴ると、同時に唾飛ぶんだよ。

「んもう!だから昨日の晩、団長が電話で言ってたんだね!?『今日ようやく健康診断の再検を受けられたんだが、何故か途中からの記憶がないんだよな…』って!アイ兄さんの頭脳の異常さがバレたらどうすんのさ!」

「アイ兄さん」のことは心配しても、被害者である団長のことは心配しないんだな…。
さらっと酷いことを言っている、と指摘してやろうと思ったが、不毛なのでやめておく。

「大丈夫だ。あいつだって無理そうなことはしない。現に、私が今の今までキリみたいに心配してきても、すべて杞憂で終わってしまったんだから」
「それならいいけどさ…。でも、今までとは状況が違うんだからね。『今まで』の状況を知らない私が言うのもあれだけど、油断はしちゃダメだよ。この国では特に」
「分かってるって…でも、肝に銘じておく」

言葉では軽く流しておくものの、今のキリの言葉、一応聞き入れておこうと思う。
何だかんだでアイも私も平穏無事に過ごしてきてはいるものの、ここでの生活に慣れ、アイの持つ異様な技術に慣れてしまうと、いまいち「危機感」が薄くなってしまうような気がしてならない。
「慣れ」が、この国で一番の敵なのだろうに。

「あ、そうだ。ミーナ知ってる?今朝また団長から電話があってね。明日の演習、延期してほしいんだってさ」
「ハァ?こっちはもう予定組んでしまったんだけど…。でもまあ、理由らしい理由があるんだろ。何だ」
「胸のあたりがかぶれたんだってさ。」
「…」

胸のあたり。
確かあの唐辛子吸盤が張られた部分だな…。

「あと、右足に原因不明の湿疹だって。だから皮膚科に行くんだって」
「…そうか」

…アイめ。がっつり正体バレそうなもの残してんじゃねえか…。

「やっぱり『慣れ』は敵らしいな」
「でしょう?」
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