2017-09

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就活が生んだ(登場人物の)物語―「アヤトのキャリアプランニング」、開始!

みなさんこんにちは(或いはこんばんは)!
奥貫阿Qです。

就活開始から早一か月。私の見回りでは、説明会や一次選考などに参加し、ということがもはや普通の光景になっております。
リクルートスーツの軍団も三日に一度は目にしますし、何より自分がその一員になっているという。自分を客観的に見たら「お前とうとうこんな年になったのか」と、しばしば思う日々が続く春休みとなりました。
そんな中でも私の右脳だか前頭葉はおめでたく、きっちりと春ボケしているようですがね(哀)

そんな春ボケのせいで思いついたのが、今回の物語・「アヤトのキャリアプランニング」です。
正確には、「アヤトのキャリアプランニング(という名の社会科見学)㊤」。
…ええ。この話、微妙に長いんで、上下に分けました。
もう全話書けてはいるのですが、残りはまた来週にアップしようと思います。

因みにこの話、「キャリアプランニング」と言ってる割には、㊤がギャグ調で、㊦がシリアス調な、いつもの「Moon King」です。タイトルは堅いですが、中身はふにゃふにゃなので安心してください。
あれですよ。例えて言うなら、プリンの容器とプリン本体のような関係です。
食えば甘いはずなので、どうかご安心を。

では、本日はこの辺で!
また来週、よろしくお願いします!



「アヤトのキャリアプランニング(という名の社会科見学)㊤」
(byアヤト)

「あっくーん、あっくんてさぁ、将来何になりたいの?」

事件団が休みの日、MK分団から頼まれた指叉の修理をしていると、不意にキリさんにそう訊かれた。
何になるって…じゃ、キリさんは何のために、僕がここで弟子やってると思ってるんだろうか。
一人前の修理屋になるためだろうに。

「や。大きなお世話かもしれないんだけどね?『あっくんは本当に、修理屋になりたいのかな~』って思ったからさ」
「…どういうことです?というか、今時手に職をつけられるうえ、資格も取れる、仕事にあぶれない職なんて、今時少ないですよ。修理屋は数少ないそういう好条件がある職です。ならない理由がありません」

至極当然な、今時の若者が思っていることを僕は言った。
僕みたいな奴は、本当に幸運なんだ。
今カザミ国の周辺地域ないしカザミ国内のラデン郡では、修理屋が大変重宝されているのだから。
「修理屋」は元々工芸士だった連中のみがなれる、工芸士よりもワンランク下の職業だ。工芸士ほど金はとらないし、任せられる仕事も多岐にわたる。加えて、鍋や皿など、普段使う日用品は高価な分、「新しく買い換えるなら修理してもらった方がお得よね♪」というのが昨今の奥様方の意見なのだ(この情報は、僕が井戸端会議を立ち聞きして得ました)。
これじゃあ修理屋がもうからない訳がない。ゆえに、あまり建物が立っていないカザミ国の周辺地域ないしカザミ国内のラデン郡には、割と多くの修理屋がある。そこは、どこもかしこも弟子が飽和状態。修理屋は、今や中々なることができない職業なのだ。
…うん?じゃあなんで僕んちが貧乏なんだって?
そりゃあ、そんな状況を知らなかったどこぞのアホ師匠が、「ちょーっと高いけど、不便だとまずいからカザミ首都付近に住もう!」と抜かしたからだ。比較的建物が多く、裕福な地域には、修理屋の出番なんぞない。
そんな具合だから、僕らは修理屋をしつつ、自警団もやって細々と暮らす羽目になったのだ。
ああ…首都から離れたとこに住んでりゃあ、今頃倍の金が入ったろうに…。
そんな恵まれた職業になって、何が悪いというのか。
独立すれば金は入り放題。老後の資金もワッサワッサ貯まっていくのは確実なのに。

「んー…。何というか、修理屋なんて中途半端な職業は、きっと科学が発展してくればいらなくなる仕事だと思うのよ。修理だ何だは大きな工場の…ううん。作られるものが増えて物価が安くなれば、むしろ修理を望む人なんて減るでしょ。したら修理屋なんて職はほぼ廃業。きっと新しい職が台頭してると思うな」
「そりゃそうですが…。そんなすぐに、技術が発展しますかね?」
「お弟子、人間の欲深さを嘗めちゃだめだよ。便利にしたきゃしたいほど、いい技術を生み出そうと頑張るのが職人なんだから。私もそうだし、私以外の職人もそうでしょうよ」
「はぁ…」

それもそうなんだろうけど…実感わかない。
湧いたとしても、今は修理屋以外になりたくない。
僕はただの貧乏人。できることなら若いうちに金を稼いで、後は楽な人生を歩みたいんだ。

「ねぇ、現に過去の歴史を見てみなよ。イギリスの産業革命から先の時代が終わるまで、技術は発展し続けたって言うじゃない。終いには宇宙へも行ったことがあるのよ、科学技術で地球の生き物が!」
「宇宙というか、月や火星でしょう」
「もっともっともっーっと遠くへもさ!君は見たことないの!?『ワープ!』って掛け声だけで、何光年も向こうの空間までひとっとびの技術を!」
「それ『宇宙戦艦ヤ○ト』でしょ!?」

何でアニメと現実をごっちゃにしてんだろ、この人…。

「でも、おっしゃりたいことは分かりました。要は僕の未来には、『修理屋以外になる可能性もありだ』ってことでしょう?」
「おっ、さっすが我が弟子。理解が早くて結構だ」

四年もあんたの話の脱線に付き合ってきたからな。
そう思ったが、話が長くなるので、今は言うまい。
黙っていりゃあ、これで話は終わるんだ。

「じゃあ、今日の君の仕事は終わり。早速向かってくれたまえ」
「…へ?」

終わりじゃなかった。
話は終わったけど、また何か始まりそうだ。
何するっての?僕にどこに行けってぇの?
師匠、嫌に嬉しそうに笑っているけどなぁ…。

「直前に言わないと、逃げられると思ってね。…今日は、君に仕事見学をしてもらおうと思ってたんだ。回る職場は、私達の知人の職場全部。もう事前に話は通してあるから、今すぐ行っておいで」
「…は?」
「行かなきゃ夕飯抜きだからね❤」
「…え」

ええええええええ!?




【① MK分団】

「ああ…何でこんなことに」

目立つ目立つ私服の僕。
MK分団の支部を、いかにも貧乏くさい野郎がウロウロしているもんだから、シンタ君を除くMK分団の方々が、あからさまにじろじろ見てくる。
ここにいる人は、やっぱみんなエリートなんだろうなぁ。見るからに金持ってそうだもん。髪の毛の先、痛んで無いもん。
育ちが出てるわ…。

「アヤトさん、今日は自警団の仕事じゃないんで、逆に自警団の制服じゃまずいんすよ。視線が痛いでしょうけど、我慢してください」
「いや、僕はそういう意味で言ったんじゃなくてね…」

そう思ったけどね。
今言った言葉は、そういう意味じゃない。

「キリさんのことだよ。あの人、突然僕に今日のことを言ってきたからさ。ちゃんとした服、用意できなかった」
「あー、キリさん本当に唐突に言ってきたんすね?俺らもびっくりっすよ。だって昨日『明日そっちへお弟子やるから!よろしくね♪』ですもん。電話で」
「君らにまで迷惑を…。本当に申し訳ないよ」

師匠の代わりに、僕は頭を下げた。
年下とはいえ、ここではわざわざ世話を焼いてくれる大事な人。礼儀は尽くさねば。

「いやいやいや!アヤトさん!?グレー区摘発や倉庫火事の英雄に頭下げられちゃ、敵いませんて!」
「英雄じゃないよ」

どちらも偶然居合わせたことで解決できた事件だ。
僕の実力じゃない分、そんな低姿勢にならなくてもいいと思うけど。

「…ところでさ。今更な質問かも知れないけど、君は僕をどこへ案内しようとしてるの?」
「えっ?ああ、今からルカ団長のところまでお連れしようとしてたんすけど…。俺、言ってませんでしたっけ?」
「うん。まだ」

助け舟、というよりも純粋な疑問を口にすると、シンタ君は益々慌ててしまった。

「スンマセン!言うの忘れて、勝手にどんどん進んでしまって…。あそこにいらっしゃるのが団長です。今、支部内演習やってるとこっすね」
「演習中?来ちゃっていいのかい?」
「はい。というか、演習にMK分団の性質が表れるらしいので、何よりも演習を見てほしいって団長が」
「そうなんだ。団長、太っ腹だなぁ」

僕は個人的に格闘技をやってきた経験はあるものの、どこかの団体に所属し、まとまった訓練を受けた経験はレン国…キリさんと出会うずっと前に勤めてた国の警察組織じみたところと、カザミ国でミカに出会ってからだ。それ以外の訓練は一切受けていないため、これが質のいい演習なのかどうかは分からない。
でも、個人的には物足りなさを感じる演習だった。
今目の前で行われている演習は、高さ十メートルの柱を綱を使って上り下りしたり、重装備のまま燃え盛る火の中に突入し、いち早く戻ってきたりなどだ。レン国では、これはあくまで基礎演習だった。+αの演習として…鮮明には思い出せないんだけど、何か大変な演習があったような気がする。あの演習を思い出そうとする時、いつも岩が砕けるような音や、「○○がやられた!」とかいう悲鳴が出てくるんだ。
正直言って、その演習は思い出さない方が華ということだろう。
では、ミカの演習とMK分団支部の演習を比較した場合はどうか。
これでもやっぱり物足りないのだ。
自警団とMK分団の連中との合同演習は、そもそも設備が整った場所で行えないため、ここまで大規模な演習はできない。そのため、ミカは「規模が小さいなら内容を充実させればいいじゃない」という発想に至り、武器、薬物、その他もろもろの一般市民が聞いても大変為になりそうな基礎知識講座を開いた上で、「じゃ、このようなものはどんな作用が出るのか?」と、アイさん主導の元、実演まで見せてくれるのだ。武器等道具類であれば、実際に触らせてくれる。
だが、それがまずい。
アイさん主導の実験では、必ずと言っていいほど悪意ある(アイさんによる)しくじりが起きてメチャクチャ。道具類は、「あー!何々!?面白い形!」とかほざく僕の師匠が好き勝手弄りだすせいでワチャクチャ。結局ほぼ実際の事故と同じ緊張感で対処にあたることになるのだ!
それを見越しているのか、ミカはこんな状態になるにもかかわらず、この演習形態のまま続けてるしなぁ。
もしかして彼女、このトラブルを楽しみ始めてるのではなかろうか。

「やっぱ教官殿の方が、演習のレベル高いっすわ~。いくらキリさんが誤爆しようがアイさんがしでかそうが、へこたれずにメニュー組んでくれますもん」
「ははは…」

それは確かに。
今更だけど、ミカのハートは硬質ガラスよりも強い。

「加えてあの美貌ですもん~。俺軍人時代に、うっかり教官殿の着替え覗いちゃったことがあるんすよ。そん時見た肌の白さや胸の形ったら~」

シンタ君、何かもうデレデレだ。
…いや!つうか!!

「君、それでミカの性別知ったんだな!?」
「イエスアイドゥー!」

何か許せねえ!


【② 漁師】

シンタ君を(理不尽に)シバいた後に訪れたのは、エイミールさんのところだ。
通称「エイミーさん」、ミカの場合だと「エミーさん」。
男性名だけど女性な、美しい人である。

「こんにちは、エイミーさん」
「あらアヤト君。忘年会ぶりね」

そう言ってにっこりとほほ笑む。
屈託のない笑みだが、容易に信用しない。
この人の言う忘年会の時、僕は、キリさんに対して威圧感半端ない態度で接するこの人を見たのだから。
実はこの人、腹の中真っ黒な人だと確信している。

「漁師のお仕事も見るの?今日は船は出さないし、私は仕事はしないのだけど」
「えっ?お休みですか?」

それじゃ仕事が見られない。
キリさんめ、もし仕事が見られないのなら、ここで僕に何を見て来いと言うのか。

「私はお休み。でも、今日非番な弟が帰ってきていてね。久々に魚釣りがしたいっていうから、あの子に仕事をしてもらっているのよ」
「姉ちゃん酷ぇや!姉ちゃんが勝手に竿持ってきて、『MK分団員たる者、暇な日こそ努力でしょう?』とか言って、こいつの相手させたくせにいぃ!」

エイミーさんの横から、そんな悲痛な声が聞こえてきた。
横目でチラ見してたから分かる。声の主はエイミーさんの弟・ラグナルさんだ。通称「ラグさん」。
MK分団支部で見かけないと思ったら、今日はここにいたらしい。
でもね。どうでもいいけど、あんたの釣竿の先にいるのは何だ。大きな川に向かって釣り糸を垂らしてんのは分かるけど、その釣り糸の先の光景が恐ろしい。
空は快晴なのに、水面だけが大きく揺れている。というか、大荒れに荒れている。
そこだけ荒らしだというかのように巨大な波が堤防まで打ち寄せ、道にはしぶきが跳ね、ピチピチという小魚が跳ねているような音をさせている。お蔭でラグさんは、まだ肌寒い気候であるにもかかわらず、ずぶ濡れだ。極めつけに、その大荒れの川面が人目を惹き、人がカメラなりスケッチブックなりメモなりを持ち出して寄ってきている。このままじゃ波にさらわれそうで、見ていて恐かった。
ここにいる人は、みんな命が惜しくないのだろうか。

「ああっ!あれを見ろ!」

見物人の誰かが指をさした。その方向を、僕を含む人々が一斉に見る。

「え、」

どこからか、息を呑む声が聞こえてきた。
「え」と言ったのが僕か他人か分からなくなるほど見入ってしまった波の中には何かがいた。白いキラキラした体をうねらせ、必死に竿から離れようとしている!

「それは言うなって言ったでしょう、ラグ?それよか、さっさとそれ釣らないと疑似餌の代わりにあんたを餌にして釣るわよ」
「何それ酷い!」

本当に酷い…。
というか、本気であの生き物を釣ろうというのだろうか。
見たところ、胴回りは五メートル以上あったというのに。
それを、たった一人の人間に釣らせようというのか?

「あ~…あの」
「うん?」

ここにいたら怪我をする。
僕の第六感ともいえる感覚が、そう告げていた。
あんなものに立ち向かうべきではないと。
というか、ラグさんがギブアップしかけている今、「しょうがないわね。じゃ、アヤト君。職業体験の一環として、やってみなさい」とでも言われたら敵わないと!

「何だかお忙しそうなので、僕はそろそろ。もうすぐマリさんと会う時間にもなりますし」

嘘八百である。
本当はマリさんと会う時間なんて決めていないし、今日中であればいつ行ってもいいのだ。

「あらそう…。そういえばそろそろ、お花見のお弁当の予約で忙しくなる時期だものね。ごめんなさいね。弟がヘタレなばっかりに、面白いところ見せられなくて」
「いいえ。では」
「ヘタレって何だよ!じゃあもう姉ちゃんが釣ればいいだろ!?」
「非力ってことよ。もう、一体何のために任せたんだか…。いいわよ。さっさとそこ代わんなさい」

僕が挨拶をし終えた途端、エイミーさんはラグさんの手伝いに行ってしまった。
やはり、今引くのは正解だったのだ。
たとえ僕が踵を返した途端、「うおおおおりゃあああッ!!」とかいう、ミカの作った声にも負けない太い声が聞こえて、同時にパラパラパラッと土砂降り級の天気雨が降ってきたとしても。

「龍だ!姉ちゃん龍釣ったよ!」
「龍っぽい高級魚よ。てゆうか、釣り上げたのはあたしよ」


【③ 食堂】

エイミーさん兄弟の漁の成果を背中で見届けた僕は、逃げるようにして「満月堂」にやってきた。
忘年会の会場としてもお世話になったここは、比較的リーズナブルなお値段で質・量共に完璧な料理が頂ける、知る人ぞ知る穴場なのだ。
加えて言えば、ここの主・マリアさん(通称「マリさん」)は、キリさんがカザミ国で得たマブダチである。
その関係から、「お昼時過ぎだし、何かおいしいご飯をタダで作ってくれまいか…」とか思いながら、僕はここまでやってきた次第だ。

「あーらあっくん!」
「マリさん、お世話になります」

入り口で挨拶をすると、店の奥からグラマーな女性が出てきた。
この人がマリさんだ。赤くて長い髪をほわほわ揺らしながら出てくるその姿は、美しさの中に気さくさが見えていい。常連客の中には、この人を椿に例える人もいるんだとか。
この見てくれじゃさぞやモテる人だと思うだろう。だが、生まれてこのかた三十年弱、年がら年中男を求めて彷徨っているのだから、むしろ男に餓えている女性であるようだ。いっそ男漁りを止めれば、いい話が舞い込んできそうなのに…とも思うが、人には人の事情がある手前、僕は何も言わない。
そもそも何で男漁りを始めてのだろうか。モテないルックスではないというのに。

「あっくーん。ピラフ食べる?今からお昼休みに入るし、よかったら御馳走するわよ」
「是非いただきたいです」

ついでに言えば、料理も上手なのに。
今「料理食べる?」と聞かれて即答してしまう程に。

「えーっと。あっくんは今日、職場見学に来たんだっけ?」
「はい」

調理場から食材を切る音と共に、マリさんの声が聞こえてきた。
やっぱりキリさんは、マリさんにも話を通していたようだ。
よくよく考えたら、凄いことだよな。昨日だか今日だかに知り合い全員に電話を入れたキリさんも、それを承諾したマリさんを始めとする皆さんも。
シンタ君の爆弾発言と、先程の巨大魚のインパクトが強すぎたせいで、今の今までそう思わなかったけどさ。…マリさんからでも、真面目に話をするべきなのだろうか。でも、話ったって、何を話せばいいんだ?
質問なんて思いつかないし…。

「そう固くならなくていいわよぉ。キリだって、ほんの数時間前に今日のことを話したんでしょう?質問なんて、そうそう思いつかないわよね!」

ジャッ!とフライパンで何かを炒める音がした。
もう炒める工程に入ったのか。匂いが香ばしくって、いいなぁ…。

「できたわよ~。そっちに持ってくついでに、いろいろ話を聞かせて。質問がないなら、あたしから質問させてよ」
「質問?マリさん、僕になんか質問して、どうするんです」

そう言ってる間に、マリさんがピラフを持って調理場から出てきた。
すっごく美味そう。いい塩梅に外から差し込む日の光がピラフに反射して、米がキラキラ光っている。
心なしか米が透き通っているようにも見えるから、短時間であってもよく火が通されてるってことが分かる仕上がりだ。

「はい、おまちどう。…だって私の知り合いで、独立して働いてない子って少ないんだもの!むしろそういう立場の子が何考えてんのか、気になるのよねぇ」
「そういうもんなんですか?」

いただきます、と手を合わせてピラフをぱくつき始めた僕に、マリさんは微笑んだ。

「そりゃ気になるわよ。将来どうすんだろうな~、とか。いつごろに独立しようって目標あんのかな、とか」
「…耳が痛いですね」

ピラフを咀嚼しつつ、僕はマリさんに何と返事をしたらいいか、考えた。
家を出る前にキリさんが話していたことも織り交ぜながら。

「僕の場合は、キリさんが認めてくれた時が独立の時で、そのためにはなるべく早く得意な分野を見つけようと思っていますけど。でなきゃ、独立した時にはもう、修理屋がいらない世の中になっている可能性がありますからね」
「ちょっとは考えているわね?それとも、キリと何か話をしたの?」
「しました」

誤魔化しても見透かされそうだって気が、何となくした。
正直にマリさんの言葉に頷くと、ふっ、と柔らかい笑顔を向けられる。

「間違ってはいないと思うけど…。それじゃあちょっとパンチが足りないって気もするわ。あんた、本当に修理屋がやりたいわけ?修理屋になって、何がしたいの」
「それは、」

やりたいからやるんじゃなくて、貧乏で生活かかってるからやるんです。だって今、修理屋って儲かるでしょう?
そう言ったら、マリさんは怒るだろうか。
これは、これ以上ないほど純粋な僕の意見なのだが。

ジリリリリリン
ジリリリリリン

「あ、ごめん!ちょっとタンマ!」

覚悟をもって口を開きかけたその時、都合よく(都合悪く?)電話が鳴った。
言うタイミングを逃したけど、言うことが言うことだから、ちょっとホッとした。

「はい!お電話ありがとうございます~。『満月堂』でーす。…ええ、はい。はい…」

何だか忙しそうに話し始めたな。眉間には皺が寄り、メモ用紙に素早く何かを書き始めている。
…急用か?なら、僕はもう帰った方がいいな…。

「あっくんごめんね!何か急にお弁当の注文入っちゃったの!悪いけど、今日はもう帰ってもらっていいかしら?」
「ええ。こちらもご迷惑をおかけしたと思うので。…本日は、お話を聞けて良かったです」
「ほんの少ししか話せなかったけどね!…あ、そうだ」

慌ただしく調理場へ向かう途中、マリさんは急に足を止めて、僕を見た。
…何なんだその顔。まるでチェシャ猫みたいな怪しい笑みを浮かべて僕を見ている。嫌な予感しかしない笑みを浮かべて、こっちを見ているのだ。
んなことしてる場合じゃないだろ。早くお弁当を作りなさい。
口に出しては言わないけど、目で必死にそう訴えた。
ああ。こういう時に念動力とかが普通に存在する漫画が羨ましい。僕もそういう世界に生まれればよかったのに。そうすれば、僕の気持も伝えられるし、マリさんの腹の内も読めるのに。
だってあんた、そんな笑みをするなんてもう、嫌なお願いしかしないつもりでいるだろう!?

「あっくんて、アイさんの知り合いでしょ?今日のお礼に、アイさんの電話番号なり住所なりを教えてくれたらな~って」
「はい!?」

…嫌な予感は的中した。斜め上の方向へだけど。

「何故アイさんのなんです?」
「だってぇ。あの人、メガネさえ取ればきっとイケメンだと思うのよねぇ。狙う女は少なそうだし、あたしが狙っても構わなそうだなぁと思ったのよ」
「はぁ…」

マリさん、いつもどういう目で野郎を見ているというのか。
以前、アイさんの素顔をチラ見したキリさんの話によれば、アイさんは「ミカに似てる気がする」とのこと。美人なミカに似ているとなれば、まさか不細工ということはありえまい。マリさんはそれを知らないはずなのに、「イケメンだ」と言うなんて…。
実はマリさんって、かなり男を見る目があるんじゃないのか。見た目に関してだけは。

「教えてあげたいのはやまやまですが、生憎そのどちらも知らないんですよ」
「じゃあ自警団の権力使ってよ♪」
「国家権力の私的利用は禁じられておりますので」

固く、極めて固く返事を帰してみたが、マリさんはどこ吹く風という様子だった。
この人、曲がりなりにも元MK分団員だと聞いているのだが、今はその名残りすら見られない。
見られるのはチェシャ猫ばりの怪しい笑みのみだ。

「…ピラフ、食べたわよね?」
「食べました、けど…」

だから何だ。

「いい答えをくれれば、そのピラフをタダにしたげるっていったら、どおする?」
「え…」

いやいやいや。あんたこれ「御馳走する」って言ったじゃん。それを今更有料だなんて…。
でもなぁ。三百五十円のピラフがタダ…。バス代に充てられる…。
…いや!だから何なんだって!それじゃダメだろ僕!!
たかが三百五十円。されど三百五十円。「金」という、貧乏人にとっては美味すぎる餌を目の前に置かれたものの、僕はきっぱりと首を横に振った。

「僕はそんな、やっすい男じゃありません!」

バタン!という音と共に、僕は代金をテーブルに叩きつけると、満月堂を飛び出して行ってしまった。
何あれ恐い!こんなとこ二度と来るもんか!
世に言う逆出禁だ!(言わないけど)

「まいどありー!…もう、からかっただけなのに。あんなんじゃ彼女出来たあと、苦労しそうねぇ」

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