2017-09

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魔人記 第九話

 その頃、ミハエルは自警団の入り口に立っていた。アイとの別れに、未練などは感じていない。むしろ、彼を巻き込む危険がなくなった分、ホッとしていた。
ここから先は、生きて帰れるかどうかすら分からないのだから。…彼女は、そう覚悟していた。
折角の覚悟が鈍らないよう、深く息を吸い、扉を叩く。

 コン、コン。

 貧乏自警団らしく、安っぽい簡素な音がした。
 その音がしてすぐに、自警団員の誰かの声が、扉越しに聞こえてきた。
 『どちら様ですか?』
 この声は多分、山に団長を探しに行った時の隊長だろう。
 ミハエルはそう思った。
 「私です。」
 団長が出ない限り、ミハエルは落ち着いたものだった。
 だが、その腹立たしいほど落ち着いた声を聞いた隊長(ミハエルの見込み通り、声の主は団長だったのだ)は、思いもよらない人物の訪問に、扉の向こうで肝をつぶしていた。
「ミ…ハエル?お前なのか⁉」
『ええ、そうです。』
「どうやってここまで帰ってきた⁉お前は魔人に…」
『それよりも。団長はここにいらっしゃいますか?至急伝えなければならない、お話があるんです。』
この愛想のない話の受け答えの仕方。間違いなくこの人物はミハエルだと、隊長は確信した。
「…とにかく、中に入れ。」
 隊長は、扉を開け、ミハエルを促した。
 「ミハエル、お前どうして無事に帰れたんだ?」
 隊長は、ミハエルに説明を促した。だがミハエルは、苦笑するだけで、説明をするつもりはないらしい。
 「それについては、話が長くなります。とりあえず、奥に失礼しますよ。」
 「あっ!あっ⁉」
 隊長があっけにとられていると、ミハエルはどんどん奥の間に進んでしまう。中にいた他の団員も、突然のミハエルの登場に、皆驚きの表情だ。
 「こら、ミハエル!その部屋は団長のプライベートルームだろう!団長しか入れない決まりだろうが!」
 「分かっています。ですが、どうしてもここに入らなければいけないんです。」
 隊長の制止も聞かず、ミハエルは団長の部屋のドアを開けた。
 
 バンッ!

 「なっ…⁉」
 そこには団長はいなかった。
 いなかったが、部屋の壁一面には、この周辺にのみ、赤と青のマークが記された地図があった。
 隊長は、これらのマークが記された地域を見て、ハッとした。赤いマークの地域は、人身売買を行う集団のアジトがあるのでは、と考えられている地域であり、青いマークの地域は、確か親の居ない子供達が住んで居る要巡回地域だったのでは。
 もちろん他の地域でも、人身売買を行う集団のアジトや、子供だけで暮らしている家はある。それは自警団にとって、確かに問題ではあるのだ。
だがなぜ、団長はこの地域のみにマークを…?
 「ちっ。もうとっくに逃げていたか。」
 ミハエルは地図に気付いているのかいないのか。団長がいないことに腹を立て、部屋に響くほどの舌打ちをした。
 「ミハエル!これは一体どういうことなのだ!」
 色々訳が分からず、団長はミハエルに、直接質問を求めた。
 彼(もとい彼女)は、確実に何かを知っている。そう思ったからだ。
 ミハエルは、今度は質問に答えてくれた。
躊躇うことなく、だが声を潜めて答えを言う。
 「隊長。我々の上司は裏で、人身売買の元締めをやっているんです。私がここへ戻ってきたのも、団長をこの手で捕まえるだけにすぎません。」

                 ◆

同時刻。アイはラボのコンピュータに指令を打ち終え、急いで地下室へと向かっていた。
そこには、ミハエルを連れ攫った蛭もどきなどの乗り物が置いてあるからである。
だが、アイはこの部屋でもまた、違和感を感じる羽目になった。
「ああっ⁉乗り物が消えてる⁉」
そう。一体どういう訳か、この部屋にあったはずの蛭もどきが消えているのだ。
蛭もどきがあった場所には、セーフティが破壊されたと思しき跡と、不自然な傷がある。一瞬、蛭もどきがバグってどこかへ消えたのかと考えたが、アイが昨日メンテナンスの経過を確認した時には、バグなんてなかった。
となると、考えられることはただ一つ。ミハエルが、どういう訳か蛭もどきを見つけ、乗り去ってしまったということである。
「…ったく。次から次へと厄介ごとを起こすお嬢ちゃんだな。」
流石のアイも、呆れてものが言えなかった。
アイ自身は、普段はそんなに動き回ることはないので、乗り物の開発はあまりしてこなかった。それが今回、裏目に出たのだ。
「まさか、小型艇が乗り去られるなんて…俺は何に乗って行けっていうんだよ?」
 アイは、何か代わりの乗り物はないかと、素早く室内を見渡す。
 だが、そんなに早く、手ごろな乗り物が見つかるわけもなく…
 「んん?あれは確か、」
 …と思われたが、どうやら何かを見つけたようだ。
 だがそれは、開発途中で放置された代物で、道線は剥き出し、見るからに埃まみれな、危なっかしい乗り物だった。それに、山の中を行くには、いささか大きすぎる。
 整備状態、そして大きさも考慮すると、はっきり言って、いつどこで墜落しても、文句は言えない乗り物なのだ。
 「…仕方ねえ。背に腹は代えられねえか。」
 アイは腹をくくったようだ。ミハエルが決死の覚悟を決めたように、アイも、命懸けの大勝負に出ることにしたのである。
 まだ動くかどうか。アイは起動スイッチに手を伸ばした。

               ◆

 ミハエルはこの際、隊長に向かって、はっきりと言ってやった。
 団長に近しい地位であることから、この隊長も人身売買に関わっているのではと思っていたのだが、この驚きようではどうも違うらしい。
 人身売買などという大事をやるのであるから、きっと団の中にも仲間、それも団員に影響力がある人物が仲間だと思っていたのだが。
 (そういやこの人、団の中でも特に正義感の強い人だったな。正義感強すぎるせいで、逆に煙たがられるような人だった。)
 となると。団長は、団の中で、より厳選した仲間選びを行っているに違いなかった。
 その場合は厄介だ。一体、どうすれば団長とグルになっている奴を見つけ出せるのか。
 「…まあ、急いで元を叩いちまえばいいのかもだけど。」
 焦りから、ミハエルは最も危うい案を呟いた。
 だが、知っていることが多い分、冷静に状況を把握していけるミハエルはまだいい。唐突に上司の不正を明かされた隊長は、情報不足のせいでいらだっていた。
 「いい加減、私にも説明をしてくれないか、ミハエル!」
 隊長にどなられ、ミハエルはハッとした。いささか長考に入りすぎていたようである。
 ミハエルは隊長の方に顔を向けると、「分かりました。」という短い返事と共に、やはり声を潜めて事情を簡単に説明した。彼女の確実な味方候補は、現時点ではこの隊長だけだ。敵の規模や構成員など、分からないことが多い今は、一人でも味方が多い方がいいと、考えたからこその行動である。
 「成る程。そんなことが。」
 ミハエルの説明を聞き、隊長はようやく、今の事態を把握したようである。
 「ご理解いただけて、何よりです。で、隊長はいかがなされますか。」
 「無論、お前に協力する。まずは団長の行方を探さねば。」
 隊長は、何のためらいもなく返事をした。ミハエルは、隊長に頷くと、部屋を出ようと入り口に向かった。
 だが。
 「…。」
 「…ミハエル?どうしたんだ。」
 ミハエルは突然、動きを止めた。そしてなぜか隊長の手を掴むと、部屋を飛び出した!
 「おい!今度は何」
 だ!と、隊長は叫ぼうとした。だが、その言葉は途中で消える。
 ミハエルの行動の意味を、理解したからだ。彼女が部屋を飛び出した直後、部屋の壁の一部が吹き飛び、その破片が外にまで飛んできたのだ。
 「う、うわあああっ!」
 「敵襲だ!敵襲―ッ!」
 事情を何も知らない団員達は、慌てふためいた。そもそもここは、人気のない山奥なのだ。敵襲はおろか、事件すら起こらない、のどかな場所なのである。そんな場所で爆破事件が起こるなど、誰が予想しただろうか。
 「う、うーん…。」
 「隊長!大丈夫ですか⁉」
 ミハエルは、部屋を出た直後、とっさに隊長を庇ったのだ。庇ったのだが、何せ彼女は、隊長よりも小柄な娘である。どうしても庇いきれずに、破片の一部が団長の脇腹を強かに打ったのだ。見てみれば、その部分はどす黒く変色し、腫れ上がっている。
 内出血を起こしているようだった。
 「隊長!隊長!」
 「ひどいものだな、ミハエル。自分で爆薬を仕掛け、それでこの男を倒したくせに。」
 ふいに、ミハエルの耳に、久しぶりに聞く声が入ってきた。
 憎い憎い、あの声。ミハエルにとっては忘れもしない声の主。
 その声の主は、もうもうと立ち込める煙の中から、姿を現した。
 「当自警団団員、ミハエル。お前は魔人に連れ去られ、ありもしない妄想を植え付けられたのだ。それによりこの私を憎み、あろうことか爆弾まで仕掛け、私を殺そうとした。しかも、私の有能な部下を道連れにしてな!」
 ぬかった。
 ミハエルはそう思った。団長はまだ、近くに潜伏していたのだ。そして自室に爆弾を仕掛け、それが幸か不幸か隊長を傷付けた。
 これを利用し、今、自分を倒そうとしている。
 「親愛なる同志よ、聞くがいい。」
 話をするのが上手い者同士は、先に口を開いたものが勝利を掴むのである。
団長もミハエルも、それを心得ていた。
 この勝負の場合は、
 「こいつは最早魔人の手下!今すぐ捕えねば、災厄を招くぞ!」
 団長の勝利であった。
 一瞬にして、静寂が訪れる。そして。

 おおおおおおおおおおおッ‼

 地鳴りのような雄叫びが、自警団内に響き渡る。
 その雄叫びは巨大な人の波に化け、ミハエルに襲いかかった!

         ◆

 こんにちは(或いはこんばんは)
 奥貫阿Qです。

 ひとまずこんな感じで、「魔人記」第九話は終わります。

 来週は記念すべき十話目!

 ミハエル、アイ、団長が一堂に会する展開になります!

 お楽しみに~!
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